第45話 勇者はみんなに認識される
「っ!なんだこれは……この俺の攻撃が通じないとは……」
蛹は丈夫だった。
普通、変身ヒーローものなら、主人公や仲間が敵を前にして変身をする。
敵はいわば変身ヒーローのルールに支配されているため、変身中の主人公たちを絶対攻撃しない。
しかし、俺は子供の頃からそんなルールなんかぶち壊してやろうと思っていた。
つまり、
蛹状態の勇者にありったけの力で挑んだのだ。
だが、壊せなかった。
壊せば再生し、また壊せば一瞬にして元の姿に戻るからだ。
最も気になるのは、
蛹から聞こえる不気味な音。
「オウ(oh)、マイ(my)、ドリーム(dream)……ハーレム!ハーレム!」
聞いただけでも鳥肌が立つ。
ハーレムだけで人はここまで狂ってしまうのか。
「はあ……はあ……」
長い時間、勇者の蛹を攻撃したことによる疲労が押し寄せてきた。
「魔王様……大丈夫ですか?」
そんな俺を心配したのか、イゼベルが俺の隣にやってきた。
「俺は大丈夫だが、問題はこれだ。こんなに丈夫な蛹を作れるとは……やつが進化を遂げた暁には、もっと強力な何かになっていることだろう」
「もし、そうなってしまったら、デビルニアはおろか、人族の国々まで……」
「ああ。やつはハーレムを手にいれるためなら、世界をも滅ぼす覚悟だろう」
俺が深刻そうに言うと、イゼベルは衝撃を受けたように蛹を見て口を開いた。
「やつは魔王様を倒すために選ばれた勇者。聞き齧った情報ですが、勇者は正義の味方でいかなる時も善を貫き通さなければなりません。しかし、そんな勇者が、自分の欲望を満たすためだけに、あんなに堕落してしまうとは……私は悪に従うものですが、これはあんまりです」
「ゼン・ライト……実に深みのある名前だ」
俺たち二人は冷や汗をかく。
このまま、この蛹と睨めっこをするわけにはいかない。
蛹が壊せないのなら、
やつが再び目覚める前に対策を考えなければならない。
「イゼベル」
「はい」
「魔王城に帰るぞ。やることがある」
「やること……」
「まず、堕落した勇者の存在をみんなに知ってもらわねば」
「……それはとても大事だと思いますが、どうやってそれを……」
心配そうに聞くイゼベルに、俺はドヤ顔を浮かべ、手を伸ばした。
すると、
『ヘーゲル!んでガチムチな魔族ばかり連れ込んでんだよ!かわいい女の子たちはおらんのか!!俺はハーレムを味わいたいのだああ!!』
さっき、俺と勇者と話した内容が映像として流れていた。
「あっ!これは!?」
「やつが見せた醜態は、全部この俺が残しておいた」
「さすが魔性しゃま!!」
「まず、勇者の権威を完全に潰すのが先だ。行くぞ」
「はい!私はいつも魔王様に従います!」
どうやら、イゼベルはこんな予期せぬ非常事態においても俺に従うつもりのようだ。
俺たちは早速魔王城へと行き、エルデニアの女王である俺の婚約者のアリアと連絡をした。
「アークデビル、どうした?」
「アリア……これをみろ」
「ん?」
俺は堕落した勇者の映像をアリアに見せた。
「ななな……何じゃこりゃああ!!!」
アリアは頭を抱えて叫んだ。
「こ、これはあんまりだ……あんまりだあああ!!!勇者……貴様!!!その長い前髪に隠れていたのは、醜悪な本性だったのか!」
アリアの隣にいたリアナは怒りのあまりにコメカミに血管を浮き立たせる。
「どうやら、これは非常事態のようね。わかったわ……これを通信魔法を使って全国に配信するわよ」
「ああ。できれば、帝国側にも伝えてくれ」
「わかったは!」
俺は通信魔法を切った。
とりあえず対策を打たねばならない。
だが、
何も思いつかない!!
だって、こんなイレギュラなことが起きるとは思いもしなかったぜ……
まさか、勇者が中年無職NTRキモデブパチンカスだったなんて……
だが、俺は魔王。
魔王アークデビルだ!
「ふっ、俺の真似事をするパチン……パチモンやろう。いずれ貴様は俺の偉大なる力によって滅ぼされるだろう」
俺は魔王面してなんの根拠もない言葉を発するのであった。
X X X
デビルニア王国の全土で勇者の醜態を記録した映像が流れる。
『反逆?とんでもない。この世を武力を持って滅ぼさんとしないあなたはもう魔王でもなんでもない』
『この方をよく見てみろ。この方こそが、まさしく絵に描いたような理想の魔王様だ
』
『ふっ情けない奴め。お前は魔王を倒すためじゃなくて、自分の欲求を叶えるために勇者になったのか。気色悪いやつ』
映像を見てデビルニアの住民らはショックを助ける。
「なんだあれは……総司令官ヘーゲル様が反逆を……」
「一体何が起きているんだ……」
「勇者が、魔王に?あり得ない……」
エルデニア王国でも状況は同じだ。
「ハーレムしか頭にないやつを俺たちは勇者として崇め奉ったのか!!」
「これは魔王アークデビルと比べ物にならないほどクズだああ!」
「光の勇者が、あんなことになるなんて……」
「馬鹿馬鹿しい!!今まで勇者を正義の味方と思っていた俺がバカだったぜ!」
勇者の正体を知った人々はみんな、頭の中にある糸のようなものが切れた感覚を味わうのだった。
X X X
帝国
勇者パーティーの宿
「はあ……一体ライトさんはいつ帰るんでしょう……また一緒に美味しいご飯が食べたいのです……」
爆乳エルフのサフィナが気落ちしながらキッチンのテーブルに突っ伏す。
魔女のルイスと聖女のアンナはそんなサフィナを見て深々とため息をついた。
すると、
誰かがドアを叩く。
3人は小首を傾げ、共に玄関の方へ行ってドアを開けた。
そこには甲冑姿の帝国軍の男の姿がいた。
3人はその男を見てキョトンとする。
男は口を開く。
「3人とも至急宮殿に来てもらうぞ」
「「「え?」」」
「ビルジニア女帝陛下が君たちに見せたいものがあるだそうだ」
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