第44話 変態

「くらえ!アークデビル!これこそが真の魔王の力だ!!」


 勇者はアクスカリバーを振りかざして、俺に斬撃を飛ばした。


「ふ、似非魔王が……勇者が魔王になれるとでも思うのか!」

 

 俺は暗黒の剣ダークソードを振りかざし、暗黒の力を詰め込んで同じく斬撃を飛ばした。


 黒と黒とがぶつかり合い、轟音が天に轟く、


 その瞬間、


「っ!」


 勇者の斬撃が俺の斬撃を飲み込み、俺を襲う。


「っ!なに!?」


 俺は目をカッと見開き、後ろに下がってその斬撃を躱した。


 斬撃は地面の奥深いところに突き刺さった。


 魔剣アクスカリバーは俺の暗黒の剣ダークソードを凌駕するとでもいうのか。


「いひひひひ!!無駄だよ!このアクスカリバーは聖剣エクスカリバーにも勝る強さを持っているからよ!」

「っ」


 まさか、


 原作における伝家の宝刀であるエクスカリバー以上の強さを持っているんだと?!


「魔王様!っ、この前髪だけ無駄に長い無細工があああ!」


 イゼベルが怒りを募らせて勇者のところへやってくる。


 イゼベルは暗黒エネルギーを鞭にして相手を攻撃する戦闘スタイルを有する。


 現に、イゼベルは暗黒の力が流れる鞭で勇者を攻撃しようとするが、


「させるか!!」

「っ!」


 ヘーゲルの拳がイゼベルの鞭にぶつかった。


「ヘーゲル……貴様!!」

「ふっ、魔王様の邪魔をするな」

「ふざけるな!この世に魔王様はアークデビル、ただ一人だ!」


 イゼベルとヘーゲルは戦いを始める。


 すると、


「おいくっそヘーゲルがあああ!!誰が止めろって言った!!」


 勇者がヘーゲルに向かって怒鳴り散らしている。


 声を聞いた二人は行動を止め、うちヘーゲルが小首を傾げて視線で続きを問うてきた。


「お前がいなければ、イゼベルは俺に近づいて、結局あのでっかいおっぱいを触り放題だったのに!!なんで余計なことをしたんだああ!!」

「っ!申し訳ございません!そんな深い意味を汲み取れなかった私をどうかお許し……」


 ヘーゲルの謝罪の言葉を遮ったのはイゼベルだった。


「はあ?あの勇者なにほざいているんだ?私のおっぱいが触り放題?てめえ、前髪だけ無駄に長いクソ虫が。貴様におっぱい触られるくらいなら、舌を噛んで死ぬわ。うえっ、きっしょい。」

「そんな偉そうに言えるのも今のうちだ。お前はいずれ俺のものになるんだよ!」


 こいつ……

 

 俺のイゼベルを寝取ると公言したな!


 許さん!


 まじ許さん!


 無職のパチンクズおっさんなだけでもやばいのに、NTR系のエロ漫画に登場するキモデブおっさんの要素も兼ね備えているんなんて……


 こいつは度し難いクズ勇者だ。


「俺のイゼベルに手を出そうものなら、お前を原子単位で細切れにしてやる!」


 言って、俺は唱えた。


「出よ、ブラックホール」


 そしたら、俺の暗黒の剣ダークソードが時空の歪みによって形が変わった。


 俺はブラックホールを帯びている剣で勇者に斬りかかった。


「出よ、ブラックホール」


 やつも俺と同じ呪文を唱えた。


 しばしたつと、やつのアクスカリバーにも小さなブラックホールが現れる。


「貴様……この俺の真似事を!!だが、いくら頑張っても本物には勝てない!」


 勇者と俺の剣がぶつかった。


 すると、凄まじい威力の重力派が広がってゆく。


「す、凄まじい……」

「なんて威力だ……」


 イゼベルとヘーゲルは、俺たちの力を目の当たりにして戦意を失ったようにぬぼっと立ち尽くしている。


 しばし戦闘が続く。


 荒野は重力派によって砂埃が巻き上がっていて、剣が地面に触れるたびに、大きなクレーターが生じる。


 こいつ、


 強い……


 少し離れた間合いから勇者が少し息切れしながら口を開く。


「そうだ。このスキルはお前の真似事だ」

「……」

「だが、偽物のが本物い敵わないなんて道理はない」


 え?


 なんか、どこかで聞いたことのあるセリフだ。


 でも、そんなことを言ったって、貴様の体は剣でできてなんかいないんだよ。


「だけど、模倣は創造の母というだろ?俺は魔王のスキルを全部知っている。お前の全てを模倣し、俺の能力を足し合わせたら、すんごいものが出来上がると思わないか」

「……なにをするつもりだ」


 俺の問いに勇者は口角を釣り上げる。


「これから俺は進化をするわけさ」

「進化だと!?」

「ああ。アクスカリバーを覚醒させたとはいえ、この力だとお前を倒すことはできないことに気がついた。だから、手に入れるのだ!圧倒的力を!!」


 そう唱えた勇者は、ヘーゲルを見て命令する。


「お前は使えねーやつだ。俺の役に立ちたければ、こっちこい」


 ちょいちょいと手招く勇者の方へヘーゲルがやってきた。


「ま、魔王様……一体どういう……なっ!あああ!!」

 

 いきなり勇者の背中から闇の触手が現れ、ヘーゲルを飲み込んだ。


「あはは!ハーレム……ハーレム……この俺を強める唯一の幸せ、ハーレム!!」


 勇者がそう言い終えると、触手は形を変え、まるで完全変態の昆虫を見るかのように蛹と化した。


 蛹は脈を売っているように動いていて、とても気色悪い。


 この完全変態やろう……




追記



本物の魔王と互角に戦っていたのに、さらに進化をするなんて……


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