第43話 勇者と魔王は会う

 ヘーゲルが反逆したというイゼベルの報告を聞いて俺は彼女と共にやつのいる要塞の方へ向かった。


 要塞周辺の荒野は黒い光に包まれていて、多くの魔族らが集まっていた。


 そのほとんどが軍のもので、ユウイチロウの建設の際に動員された人たちが多数含まれている。


「一体これはなんなんだ……」


 俺が戸惑っていたら、イゼベルが魔族を取り仕切っているものを指差して言う。


「見てください!あそこで取り仕切っているのは間違いなくヘーゲル!やつは見たことのない胡散臭いものに敬意を表してます!」

「そうだな……あの魔族の群れの中にはサーラとリナにセクハラをしたラハクセも混ざっている」

 

 これはまずい。


 早くなんとかしないと。


 俺は魔王だ。


 勇者がエクスカリバーを覚醒させない限りこの世で最も強いものは俺だ。

 

「片付けてくる」

「私もお供します」

「勝手にしろ」


 俺は暗黒の剣ダークソードを召喚し、黒い光のする方へ飛んでいく。


「反逆とはいい度胸だな。ヘーゲル」


 俺の問いに、ヘーゲルはほくそ笑んだ。


「反逆?とんでもない。この世を武力を持って滅ぼさんとしないあなたはもう魔王でもなんでもない」

「おのれ……」


 くっそ……


 怪しいとは思ったよ。


 サーラとリナちゃんを俺に献上した時に見せた態度。

 

 やっぱりこいつは原作通り、散々暴れたあげく戦姫にやられる役で終わる運命だったのか。

 

 俺が悔しそうにしていたら、ヘーゲルは傲慢極まりない表情で、黒い光に包まれた何かを指差して口を開く。


「この方をよく見てみろ。この方こそが、まさしく絵に描いたような理想の魔王様だ」


 ヘーゲルが言い終えると、彼が指差していた黒い光はだんだん薄くなり、そこには

一人の男が立っていた。


 長い前髪。


 そう。


 あの特徴だけでも俺はこいつが誰なのかすぐに特定することができた。


「勇者……」

 

 あり得ない。


 勇者が魔王?


 一体どういうことだ!?


 勇者は俺を倒すために、絶世の美人であるヒロインズたちと手を携えイチャイチャしているはずなのに、どうして……


 当惑する俺。

 

 そんな自分を一発で納得させるのは、やつが吐いた言葉だった。


「ヘーゲル!んでガチムチな魔族ばかり連れ込んでんだよ!かわいい女の子たちはおらんのか!!俺はハーレムを味わいたいのだああ!!」


 やべ……


 ハーレムを我が物にするために、こいつ、黒化したのか……


 まじでイカれていやがる。


 俺が冷や汗をかいていたら、勇者が俺を指差して震え上がった。


「お前のせいで……全てが台無しだ……お前が大人しく俺にやられたら、こんなことをはしなかったはずだが……全部お前が撒いた種だぞ」


 こいつは日本人。


 俺が破滅回避したことで思い通りに行かないからこんな愚かな行為に走ったってわけだ。


 やつは俺が日本人だということに気づいてないはずだ。


 なので、俺は悪役面して口を開く。


「ふっ情けない奴め。お前は魔王を倒すためじゃなくて、自分の欲求を叶えるために勇者になったのか。気色悪いやつ」


 俺がやつを軽蔑するように言うと、勇者は口角を釣り上げて口を開いた。


「ひひ、が」

「なっ!」


 こいつ、俺の正体知ってんのか!?


 どうして?


 心当たりは


 心当たりは……


(たこ焼きと焼き鳥を咥えている魔族戦士を発見)


 ありまくりだろ!!


 くっそ……


 日本の食べ物を導入したのが仇になってしまったってことか。


「どうやら図星のようだな。お前は俺の手のひらの中にいるぞ。大人しく俺に成敗されるが良い。アークデビル。若造の風情が調子に乗るんじゃない」

「……」


 完全にこいつ、マウント取りやがっているぞ。


 ちょっと待てよ。

 

 こいつの口調。


 俺を散々いじめていた部長に酷似してんだけど?


 もちろん、同一人物である可能性は低いが、少なくとも年齢自体はなんとなくわかってしまいそうだ。


 アリアが教えてくれた情報に立脚して考えると、

 

 導き出されるのはこれだ。


「おい、中年パチンカス」

「っ!!うるっせ!!」


 図星だったのか。


「社畜?」

「パチンカス?」

 

 イゼベルとヘーゲルは初めて聞く単語に小首を傾げている。


「中年パチンカスおっさんが勇者だなんて、てめえのヒロインたちがそれを知ったら、どんな反応をするのかね」


 俺が挑発するようにいうと、やつは握り拳を作り、俺を睨んできた。


 もちろん前髪が長いので、見えやしない。


「どこぞのブラック企業に勤める社畜のくせに、思い上がるな!」

「ふっ、俺は少なくともまともな社会人だった。てめえはどうだ?」

「俺は……俺は、誰もが知る一流企業で部長をやってたんだ!」

「ほお、一流企業の部長様がエロゲとかパチンコをやりまくる時間なんてあるのかな。てめえ、嘘ついてるだろ?」

「うるせええ!!」

「ひょっとしたら、国からお金もらってパチンコ屋で散財するようなタイプの人間だったりするのか」

「っ!!」


 マジか。


 こいつパチンカスじゃなく正真正銘のパチンクズだったのか。


 うわ……


 ある意味、俺よりこいつの方が魔王に向いているかもしれないな。


 俺たちの会話は周りに理解されるはずもなく、みんな戦慄の表情を浮かべ、口々にいう。


「なんか、よくわからないけど、人智を遥かに超えた二人のことだ。きっと深い意味があるだろう」

「すごいぞ……こんな鎬をけずる口論なんか初めてみる!」

「きっと我々なんかがいくら頑張っても理解できないような難しいことを話しているに違いない……」


 いや……

 

 全然そうでもないけど。


「己……ここがお前の墓場だ」


 勇者は怒りに身を震わせて剣を抜いて高く振りかざす。


 そして、


「てめえら!魔剣アクスカリバの生贄になるんだぞ!」


 勇者が叫べば魔族たちはいきなり多いに喜びながら勇者に平伏した。


「もちろんですとも!勇者様……」

「魔王様のためなら命をも捧げましょう!」


 おいおい!


 なんなの?


 こんなのあり得るのか?


 いや、


 こいつらは元々強欲な魔王のもと、ヘーゲルと共に人族と戦って戦死するはずの連中だ。

 

 ってことは、こいつらの願望は魔王に命を捧げることによって叶うというわけか。


 これが強制力って奴なのか……


 俺の考えが甘かった。

 

 人は愚か、虫一匹も殺せない社畜であるところの俺。


 方や、もう失うものなんか何もない中年無職パチンクズ。


 ちくしょ……


 俺が悔しがっていると、勇者に平伏した魔族たちが、勇者のアクスカリバーによって吸い込まれてゆく。


 まるでブラックホールを連想させるようだ。


 しばし立つと、


 ヘーゲルを除く魔族は勇者の剣に吸収され、彼の剣は


 真っ黒になり、紫色の電気を帯びるようになった。

 

「あははは!やっと目覚めたようだな。魔剣アクスカリバー!!!」


 勇者は聖剣エクスカリバーではなく、


 魔剣アクスカリバーを覚醒させたようだ。




追記



病院に行きました。


急性胃炎だそうです。


読者の皆さんのおかげで、体調は良くなりつつあります!


ありがとうございます( ◠‿◠ )





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