第42話 ゼン・ライトの意味

ヘーゲルが裏切る前



勇者side


 ルイスから散々言われた勇者は、喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んで、サフィナと一緒に帝都の人気のない公演を散策中だ。


「なんだか二人ともいつもと雰囲気が違ったような気がするんですよね。でも大丈夫!私はいつものサフィナですから!でへっ!」


 明るい表情のサフィナは笑顔を勇者に向けるが、勇者は長い前髪によって顔が隠れているので、どんな反応をしているのかは確信できる術がない。


 しかし、勇者の口調からは彼の感情を間接的に読み取ることはできるようだ。


「……そうだな」


 いい加減で冷たい勇者の言葉。


 サフィナは勇者を上目遣いしてきた。


「落ち込まないでください!私がいつもそばにいますから!」

「ああ」


(勇者の心:抱けないんじゃなんの意味もねーだろ!)


 また冷たくあしらわれたサフィナ。


 すると、彼女は勇者の腕を自分の爆のつく乳に挟む。


「えへへ!こうするのライトさん好きですよね?」

「……」

「頑張りましょう!レッツ打倒魔王!!えい!えい!おう!」

  

 サフィナが動く度に、彼女の巨大な胸が勇者の筋肉質の腕を圧迫し、極上の柔らかさを与える。


「あのな、サフィナ」

「なんです?やっとやり気を出してくれますか?」


 期待の眼差しを勇者に向けるサフィナ。

 

 勇者は、


 空いている自分のてで、


 サフィナの豊満な胸を


 鷲掴みにした。


(勇者の心:くっそ!こうなったら俺に一番好意を寄せているサフィナだけでも!)


「キャ!」


 勇者の突然すぎる行動に、サフィナは目を丸くして驚愕した。


「ライトさん!一体何をしているんですか!?ライトさん!人に見られるんですよ!」

「人はいないさ」

「だからといって、こういうのは早いというか」

「いいだろ、別に」


 勇者の強引な行動にサフィナは抵抗しようとするが、勇者の力によって抜け出すことができずにいる。


(勇者の心:うっひひ、俺はエッチシーンの時の主人公とヒロインズの全セリフを覚えてんぞ。それを参考にせめていけえ!!) 


「あのライトさん?」

「何?」

「どいてください」

「ううん。どいてあげない。離さないから」

「本当にお願いします……じゃないと」


(勇者の心:おお、だんだんエロシーンのセリフになっていくぞ!!もうひと攻めだ!!)


「じゃないと?」


(勇者の心:ライトさんのことを本気で好きになりますだろ?)


 心の中の勇者は笑う。


 が、

 

 サフィナはがっかりしたように浮かない顔をし、


「ライトさん、それが勇者ですか?」


 勇者を軽蔑するように見つめる。


「……」


(勇者の声:これはベッドエンドの時の表情だろ!失敗したか!!)

 

 勇者は密かにサフィナから離れてゆく。


「悪い」

「……ライトさん、なんだかみたいです。あはは」


 サフィナは取り繕うように作り笑いするが、目が笑っていない。


 勇者は答えた。


「ああ……

「……」

「サフィナ」

「なんですか?」

「僕、ちょっと出掛けてくるよ」

「どこへいかれるつもりですか?」

「気分転換にちょっと遠出してくるよ。今の僕は冷静じゃないんだ。だから気分を落ち着かせる必要があるよ」


 勇者の返事に、サフィナは心配そうに訊ねる。


「ライトさんがいないと、魔王は倒せません。私はライトさんが正しい道を歩むことを心から願っていますよ」

「ありがとう……僕ね、」


 勇者は一旦切って呼吸を整える。


 そして、サフィナを見つめ、口角を吊り上げて言葉を放った。


「ああ。僕、必ず魔王を倒すから。じゃ、な」

「はい!待ってますから!」


 勇者は黙々と歩く。


 彼の後ろ姿を見ているサフィナの心の中には


 謎の不安が渦巻いている。


X X X


ヘーゲルの要塞


 平和な要塞で昼寝中のヘーゲル。


 そんな彼の目を覚ます不穏な雰囲気が彼を襲う。


「こ、これは!?」


 ヘーゲルの前に仮面の勇者が現れた。


 要塞の下の荒野を黙々と歩く仮面の勇者を見て、ヘーゲルは口角を吊り上げた。


 ヘーゲルは要塞のてっぺんから地面に降り立ち、仮面の勇者を迎えた。


「これはこれは、また再会することができるなんて、光栄至極に存じます」


 ヘーゲルの言葉に仮面の勇者は口を開く。


「アークデビルを葬り去り、この俺が魔王になる」

「その言葉をずっと待っておりました。新魔王様」


 ヘーゲルは新魔王になった仮面の勇者ひれ伏す。


「これから、この俺が世の中を支配し、美しい女は全部俺のものだ」

「その貪欲さ、間違いなく魔王の器です。この下賎なヘーゲル、あなたに使えることができて嬉しい限りです。魔王様」

「なんだ」

 

 ヘーゲルは期待の眼差しを勇者に向けて問う。


「よろしければ、そのマスクを外して、お顔を見せてください」

「ふっ、そうだな。お前が女じゃないところが非常にムカつくんだが、まあ、一応俺の下僕だし、顔を見せることが礼儀というものだろう」

「早速、私が女じゃないと怒るあたり、さすが魔王様でございます!」

 

 興奮するヘーゲル。


 仮面の勇者はそんな彼を睥睨して、仮面を外した。


 すると、


 そこには


 髪の長い男の顔がある。


 ヘーゲルは彼の顔を見て、目を丸くして口をぽかんと開いた。


 跪いた彼は


 やがてほくそ笑み、呟く。


「現実は小説より奇なりというが、まさしくその通りだな」

 

 勇者はヘーゲルに命令する。


「おい、ヘーゲル。お前に命令だ」

「はい!なんなりと!お申し付けください」


 勇者は背中の剣を抜いた。


 それをヘーゲルに向ける。


「これは、まだ覚醒されてない聖剣エクスカリバーだ。しかし、魔王になったからには、この剣の名前を変えねばならない」

「剣の名前ですか……」

「ああ。これより俺はこの剣を名前を魔剣アクスカリバー(悪’s calibur)と名付ける!!!」

「魔剣アクスカリバー……偽魔王が使う暗黒の剣ダークソードよりかっちょいい……」

「クッソが、男なんかに褒められても嬉しくもない。気持ち悪いんだよ!」

「も、申し訳ございません!」

「これから俺を褒めて傅きて媚びるのは美少女だけだ。わかったか!?」

「了解です!」


 立ち上がり、気を引き締めて返答するヘーゲル。


 だが、ヘーゲルは何かに気がついたらしく、それを確かめるために勇者に質問する。


「魔王様、一つよろしいでしょうか」

「なんだ。男なんかの質問に答えてあげるほど俺は暇じゃない。やるなら早くしろ」

「えっと、剣の名前を変えるのなら、魔王様の名前も変えるべきでは?確か、ゼン・ライトという名前でしたよね?」

「バカが。お前は一流にはなれないな」

「え?」


 勇者の言葉が理解できないと言わんばかりに、小首を傾げ返答を求めるヘーゲル。


 そんな彼に、勇者は気色悪い笑い方をし、返事をする。


「この俺がすることは全て正しい。だからゼン・ライトってわけだ」

「な、なるほど!要するに人族や他部族が持っている普遍的価値での善ではなく、魔王様の独善こそが、真の正義というわけですね」

「その通りだ。というわけで、俺の正義を実現するには、この魔剣アクスカリバーを覚醒させねばならない。そのためには魔族の命が必要でな」

「命……」

「だからお前に命令する。このアクスカリバーの生贄になる魔族らを捕まえてこい!」

「……はい!御意のままに!」


 ヘーゲルは一瞬の迷いもなく、ゼン・ライトの言葉に服従し、平伏した。




追記



星2000まで後もう少し!


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