第41話 始まる
魔王side
順調だ。
全てが順調すぎる。
ユウリチロウは栄華を極めている。
アハズ村は人族と魔族を繋ぐ駆け橋的な役割を果たしてくれている。
サーラは人族と魔族の違いを講義しており、異なる種族の距離を縮めようと努力している。
リナちゃんは
いてくれるだけでも癒しだ。
エルデニア王国は帝国を除くすべての国々から国交断絶を言い渡されたが、我が国の力で、ぽっかり空いた穴はあっという間に埋まることとなった。
イゼベルもバリバリ働いてくれて非常に助かる。
イゼベルには褒美を与えようとしたが、ものはいらないときっぱり断られた。
で、何がいるかと聞いたところ、言葉で褒めてほしいと言われ、褒めてあげたら、薬をやった人のように昇天しそうになったんだな。
いい子すぎる……
あと、アリアのことだが、
「おい、近い」
「いいでしょ。別に」
魔王城のテラスで、俺にくっついたままユウイチロウを眺めている。
青い髪と瞳、そして青を基調にしたドレス。
真っ白な肌に、整った目鼻立ち。
スレンダーな体つき。
爆乳のイゼベルとは違う魅力を存分に発揮している。
俺はこの美しい女と婚約をしている。
現在、彼女の方から俺の城に遊びに行くくらいには仲良しになったのだ。
俺が青空を見つめていたら、アリアが問うてくる。
「それで、そろそろ決めた方が良くないの?」
「何がだ?」
「……結婚よ」
「そうだな」
やっべ……
転生前だと、最低賃金並みの給料で結婚はおろか、一人の世話もろくにできなかったのによ……
ここだと、絶世の美女と結ばれるのか……
しかも、イゼベルもついている。
破滅フラグを回避するために、俺は色々頑張ってきた。
その努力が実を結んだ形になった。
「お前と俺の国は安定している。なんなら今すぐにでもやって構わない」
「……そ、それは流石に早すぎるでしょ!?今すぐあなたのものになるだなんて……心の準備が……」
アリアは頬をピンク色に染めて、モジモジする。
可愛すぎるだろ……
さっきまでツンツンしていたのに、今は完全に恋する乙女だ。
俺の心の中で彼女のえっちシーンが流れ始める。
やめろ。
アリアは処女だ。
俺が咳払いをしていると、俺の神経を逆撫でする人物をアリアが口にする。
「でも、ありがとうね。悪徳貴族とライトから私を救ってくれて」
「勇者のことか……」
俺は顔を顰めた。
そういえば忘れていたな。
勇者のやつ、今頃何をやっているんだろうな。
頼むから俺の幸せを壊すなよ。
俺はお前と関わる気ゼロだ。
そんなことを思っていると、アリアは何かを思い出したように「あっ」と目を大きく開けて話す。
「そういえば、大聖女様から手紙が届いたわ」
「手紙?」
「そう。ライトね……つくづくクズだわ」
いきなり勇者の悪口を始めるアリア。
「ん?」
俺は視線で続きを促すと、アリアが憤慨するように歯軋りして握り拳を作る。
「ライト、落ちていた小石を蹴ったら、その小石が猫の頭にあたってね……でも自分は悪くないと開き直ったらしいよ。ここにいたお前が悪いと言って」
「……そうか」
クズだ。
ていうか、勇者らしくないぞ。
日本に住むDQNもそこまではしないぞ。
勇者は決して自分の過ちを他人のせいにするタイプの人間じゃない。
見た目は典型的なエロゲの主人公だが、心は正義そのものだ。
安っぽいNTR系だったら話は別だが、この世界は善である勇者と悪である魔王が対立する設定が根底にある。
勇者が悪になるのは論理的にありえない話である。
だから、俺は魔王として世界を支配するとか適当なことを言って悪を演じているわけである。
俺が顎に手をやり、考え込むと、アリアは続けた。
「それでね、わけのわからないことを言っちゃったって。強制力とパチンコがああだこうだ」
「ん?今なんて」
「強制力とパチンコがああだこうだって……」
「……」
……
……
……
くそ!
勇者の奴め、日本人だったのかああ!!!
勇者がなぜ意味不明な行動をしたか、やっと理解ができた。
俺が送った手紙を問答無用で破いた。
普通の勇者だと流石にあんなことはしないと思うが、
やつは日本人。
しかも、パチンカスである可能性もある。
勇者に転生した時点で、勇者の目的はとっくに変わっている。
ハーレムだ。
やつはそれを成し遂げるために、この俺を倒そうとしているんだ。
強制力と言ったから、やつもこのゲームのストーリーはわかっているはずだ。
つまり、魔王を倒した後にやってくるすんごいハーレムエッチシーンも知っているはず。
おそらく勇者は必死だろう。
俺が勇者に転生しても必死になっていたわ。
俺は冷や汗をかいた。
「あれ?どうした?」
沈黙を貫く俺が心配になったのか、アリアは俺のほに体をくっつけて俺の肩に手をのせる。
俺は深刻な表情でアリアを見つめ、言う。
「結婚の話は後でしよう。今すぐというのはキャンセルだ」
「え!?何で!?」
戸惑うアリア。
すると、
「魔王様!!大変です!!」
イゼベルが飛んできた。
慌しい様子だな。
何かやばいことでもあるのか。
「なんだ?」
俺の問いに彼女は悔しそうに唇を噛み締め、怒りのあまりに全身を震わせている。
「ヘーゲルが叛逆しました」
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