第38話 ヘーゲルと仮面の男

「その前に、一つ聞いていいかしら?」


 アンナに訊ねられ、キョトンと小首を傾げるルイス。


「え、ええ……いいわ。なに?」

 

 アンナは真面目な表情で聞く。


「あなたとライトくんはどのようにして出会ったの?」

「え?」

「お願い。教えてちょうだい」

「……それと、あなたが調子悪いのって関係あるの?」

「あるわ」

「……何がどうなったら、その二つが結びつくのか想像もできないけど、まあ、いいわ」


 ルイスは昔のことを思い出し、頬を緩める。


「それは5年前。私が魔女の邸宅で一人寂しく魔法研究に勤しんでいた時に、突然、屋根裏から穴が空いて、そこからあいつがね……」

「……」


 楽しそうに語るルイスにアンナは呆れたように自嘲気味に笑う。


「おい、アンナ、その表情は何?すごくムカつくんだけど!?」

「いや……どうしてこんなにワンパターンなのかなって……もうちょっと工夫ってできないものかしら……全く」

「何を言っているの?全然理解できなくてムカつく」

「……ルイス」

「ん?」

「ここでの話は、ライトくんとサフィナさんにはまだ内緒よ」

「え?ええ。言わないわ。魔女に二言はない」

「……わかった」


 意を決したように、アンナはルイスの赤い瞳を凝視して口を開いた。


 10分後


「ライトはどこだああ!!今すぐ私の魔法で息の根を!!!」

「落ち着きなさい!」

「これが落ち着いていられるの!?私って、あいつの口車に乗せられたってわけ!?めちゃくちゃむかついてきたんだけど!?ライトのくせに……ライトのくせに!!今までのことは全部演技……絶対許さん!」

「だから、落ち着きなさい!」

「……ごめん」

「いいよ。私も最初はあなたと全く同じ気持ちだったから」


 アンナによって抑えられたルイスは悔しそうに地団駄を踏む。


「どうりで、最近は異常なまでに魔王退治に執着したわけね……」

「ええ……」

「まさか、あんな目的があったとは……狂っているとしか言いようがない」

「その通りよ。ライトくんは狂っている」

「でも、サフィナはまだ……」

「ええ。一番の問題はサフィナさんよ」


 二人は真面目な表情を浮かべ考え込む。



X X X


 

勇者side


「あははは!!ハーレム!ハーレム!ハアアアレエエエエムウウウウ!!!」

 

 仮面を付けた勇者は未来の青写真を描きながら凄まじいスピードで走ってゆく。


 勇者の超人離れした身体能力を使い、あっという間に魔境に足を踏み締める勇者。


 すると、魔物たちが勇者を襲おうとするが、


「どけどけ!!お前らみたいな雑魚どもに興味はないっつーの!」


 勇者は魔物たちを軽くスルーして、走り続ける。


 髪が風によって激しく揺れるが、決して勇者の顔を見ることはできない。


 やがて、勇者はデビルニアの奥深いところに突入した。

 

 キチガイのようによだれを垂らす勇者。


 二つの山が見える。


 間には要塞が一つ。

 

 その真ん中に塔が立っており、赤髪にツノ二つついている筋肉質の男の姿が見える。


「あははは!魔王軍幹部だ……やつを倒して、エクスカリバーの養分にしてくれるわ!!」

 

 と、勇者は一瞬にして塔のてっぺんにまで上り、その魔王軍幹部(ヘーゲル)へ剣を振った。


 すると、ヘーゲルは、かろうじてそれを避ける。


「っ!何者だ!」


 目をカッと見開いて、前を見るヘーゲル。


 そこには、


「っ!!なに!?あなたは!?」


 仮面の勇者を見つめるヘーゲル。

 

 ヘーゲルは自分のありったけの力を拳に注ぎ込んだ。


 彼の拳には赤と紫の電流が流れる。


 そして口角を吊り上げ、


「あなたを待っていました……さあ、全力でかかってきなさい」


 ヘーゲルが誘うと、仮面の勇者は攻撃を開始した。


 30分にも及ぶ接戦。


 だが、


「ぐああ……」


 先に力が尽きたヘーゲルは血反吐を吐いて、倒れた。


 そして天を仰いでいると、仮面の勇者がやってきて、剣で彼の頭を狙っている。


 仮面の勇者は心の中で叫ぶ。


『あははは!こいつ、よく見たら、なんかゲームで出てきたやつみたいだけど、男なんか興味ねーんだ!ハーレムしか興味ない!!』


 そんな勇者を見て、ヘーゲルは、嘆息を漏らして言葉を発した。


「あなた、魔王になるつもりはございませんか?」

「え!?」



 

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