第37話 徐々に変わってゆく関係
帝国会議から帰ってきた勇者、エルデニア王国から帰ってきた大聖女アンナ、錬金術の材料を買ってきたルイスに今日の夕食を作った爆乳エルフのサフィナ。
サフィナの料理を食べ終わった勇者は満足したように微笑んでは口を開いた。
「ご馳走様!やっぱりサフィナの作ってくれるご飯は美味しいよ」
「お粗末さま。ひひ!食事は大事ですよ!美味しいものを食べて、魔王を倒しましょう!」
「あはは……そうだな」
サフィナと勇者のやり取りを見ていたルイスは、勇者にジト目を向けてくる。
「でも、帝国側は協力的な雰囲気ではないようだけれど」
「……まあ、帝国の協力がなくても、僕の意思に変わりはないさ。一時的な平和が終われば、地獄が待っているだけ」
勇者は握り拳を作ってテーブルを軽く叩く。
それから心の中で叫ぶのだ。
(俺がハーレムを堪能できない地獄がな!!)
「……」
勇者の憤怒を目の当たりにした大聖女アンナは目を細めて、勇者を睨んだ。
「じゃ、どうするつもり?私たちの戦闘力だけでは、魔王には勝てない」
アンナの問いに、勇者は立ち上がり、壁側にある剣を持ち上げ、落ち着いた様子で答える。
「魔族と魔物を倒してこのエクスカリバーを覚醒させればいい」
(勇者の心:やっぱり魔物だけだと物足りないんだよな。ゲームのように魔族をやっつけた方が良さそうだぜ)
勇者の答えに、アンナは眉間に皺を寄せて反駁した。
「魔物は構わないけど、魔族まで狩るのは可笑しいでしょ。戦う意思がないのに、なぜ倒すの?」
アンナがギロリと鋭い視線を向けていると、勇者はハッと目を見開いて、口を開いた。
「アンナ、目的を忘れてはならないよ。僕たちは魔王とデビルニアを滅ぼして人類の平和と幸せを守らなければんらない」
「……」
不服そうに勇者を睨むアンナだが、勇者はそんな彼女の肩に手を乗せた。
「っ!触らないで!」
「アンナ……」
勇者の手を振り払うアンナ。
一瞬にして宿の雰囲気は凍りついてしまった。
「悪い」
「い、いいえ。私こそ悪かったわ……」
「きっとアンナは疲れているんだ。部屋に戻ってぐっすり寝てくれ。魔王のことは僕がなんとかするから」
「……」
勇者の提案にアンナはため息混じりに頷いて自分の部屋へと登る。
「ふーん……」
魔女のルイスはそんな彼女の後ろ姿を意味ありげに見つめ続けた。
「アンナさん!お湯に浸かってぐっすり寝てくださいね!」
サフィナはアンナにエールを送る。
取り残された三人。
勇者は何かを決心したかのように、二人に宣言する。
「二人とも宿でゆっくりしていてよ。僕は明日からちょっと出掛けてくるから」
「ええ?ライトさん!またどこかに行っちゃうんですか!?だったら私も!」
「いいよ。サフィナに苦労させたくないんだ。僕に任せて」
「うう……やっぱり優しいですね。ライトさんがそういうなら……」
しょんぼりするサフィナを勇者が宥める。
魔女のルイスはというと、アンナの部屋がある天井を見上げ続けた。
翌日
勇者は夙に宿を出た。
「ったく……んだよ。アンナのやつ。バットエンドを迎えるんじゃないかってめっちゃハラハラしたじゃねーか。くっそ!ゲームはやり直しができるけど、ここは現実だぞ!」
と、独り言をいっててくてくと前へと進む勇者。
「今までしょぼくさい魔物しか狩ってないけど、やっぱり魔族を倒すべきだよな。ストーリー上でも魔族を倒すことで、エクスカリバーの経験値が跳ね上がったわけだし。奴らに戦う意思がなくても、こっちはなりふり構っていられないっツーの!」
興奮気味の勇者は昨日のことを思い出して深々とため息をついて盛り下がる。
「ちくしょ……イレギュラーなことばかり起きやがってよ……こちとら転生前までこのゲームとパチンコの玉と画面しか見てねーんだよ!もし一緒に行ったらすぐボロが出ちゃいそうだし、やっぱり転生前のように一人が気が楽だぜ……早く聖剣エクスカリバーを覚醒させて、ハーレムも我が物に……いっひひひ!!」
気持ち悪く笑う勇者は呟いた。
「その為に、魔王軍幹部らをやっつけようか。身バレするのは嫌だからマスクをつけて」
言い終えた勇者は何かを思い出したようで目を丸くした(もちろん前髪のせいで見えないが)。
そして、徐々に口角を釣り上げる。
「そういえば、魔王軍幹部の中にイゼベルもいたよな。あの子もすんごい体持っていて、転生前の俺をどれだけ悶絶させたことか……待っていろよ。全部俺のものになるんだから」
勇者は歩く速度を上げる。
ヘーゲルsdie
「はあ……クッソつまんない」
ヘーゲルはあくびをして、要塞の塔で暇を持て余している。
アンナside
「……」
一睡もできなかった。
昨日の勇者の態度があまりにも気持ち悪かった。
ひょっとして、自分に酷いことをするのではという不安からアンナは気が気じゃなかった。
早くこのパーティーを抜け出したい。
だが、
自分には中間がいる。
白い寝巻き姿の自分が階段を降りると、その仲間のうち、一人が見える。
長い黒髪、そして鮮烈な赤色の瞳、整った目鼻立ち。
自分も彼女と同じ女だが、彼女の美しさには毎回うつつを抜かしてしまう。
「おはよう。あなたも飲む?」
黒い寝巻き姿のルイスはコーヒーを淹れようとしていた。
「え、ええ……お願いするわ」
「はーい」
ルイスは戸棚へ行ってアンナ用のコップを取り出し、それをテーブルに置く。
やがて、コーヒー独特の馥郁たる香りが当たりを包むと、アンナはドリップコーヒーを入れる準備に入る。
おしゃれなポットでお湯を注ぐルイスの姿はモデルそのもので、この場面をカメラで撮ったら、それ自体が映画のシーンのように映ることだろう。
アンナのコップにコーヒーを淹れたルイスは、それをアンナに差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう……」
ルイスが入れてくれたコーヒーを一口飲むアンナ。
ルイスはアンナの顔を尻目に、自分もコーヒーを飲む。
アンナの目にはクマができており、全体的に荒んだ感じだ。
改善はおろか、アンナの調子は悪くなってしまったことが誰の目からもわかる。
ルイスはコップをテーブルに置いて、言葉を発する。
「ねえ、私たち、長い付き合いでしょ?」
「……そうね」
「何があったのか言ってよ。気になってむかついてきたわ」
「……」
視線で続きを促すルイス。
アンナは固唾を飲んで、
口を開いた。
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