第36話 ゲーム?強制力?パチンコ
アラネル帝国宮殿の会議室
「これ以上、エルデニア王国を放っておくわけにはいきません!早くアリア王女を諸悪の根源たる魔王アークデビルの魔の手から解放してあげないと!」
そう叫んだのは、前髪が無駄に長い勇者であった。
「勇者殿、落ち着いてください」
帝国の官僚らしき初老が宥めるも、勇者の興奮は一向に収まる気配がない。
勇者であるゼン・ライトは円卓テーブルを思いっきり叩いて、怒りをあらわにした。
「これが落ちつていられますか!?帝国軍が常駐しているとはいえ、このままだとエルデニア王国はアークデビルの軍門に降ることはもはや時間の問題です!!」
勇者の叫びにアラネル帝国の武官と文官は戸惑って、勇者の顔色を窺っている。
いくら帝国の官僚とて、選ばれし勇者の前では顔が上がらない。
この帝国出身の人で勇者にものが言えるのは、二人。
大聖女のアンナ、そして、
「勇者、我の前で取り乱すな」
「っ!ビルジニア女帝……申し訳ございません……」
勇者は円卓テーブルの真ん中で異彩を放つ鮮烈な赤髪の女性に頭を下げた。
スレンダーな体付き、薄い小麦色の肌、小悪魔っぽい表情。
白を基調としたドレスを着て、黄金色のベルトで腰を締め、頭にはローリエの葉っぱを模した黄金色の髪飾りをつけた彼女。
この広大なアラネル帝国のトップに君臨する女帝・ビルジニアである。
彼女は勇者を睨んで口を開いた。
「急ぐことはない」
「……なぜですか?」
勇者が悔しそうに唇を噛み締めて問うと、ビルジニア女帝は淡々と言ってのける。
「エルデニア王国にいる我が軍の報告によると、魔王がエルデニア王国を飲み込んで、他の人族の国を脅かす動きはないとのことだ」
「……」
「それに、我は観察してみたいのだ。人族と魔族は果たして共存できるかどうか」
「考えるまでもございません!滅ぼすべき魔王と魔族が人間と共存だなんて……」
勇者は握り拳を作る。
彼の爪が掌を食い込み、血が出る。
「勇者、今、我の考えに否を突きつけるつもりか?」
「……滅相もございません」
「私は現状維持を望む。しかし、監視の目は緩めない」
「……」
帝国会議が終わった。
勇者は宮殿を出て宿へと向かう。
人気のないところにつくと、勇者は顔を歪めて鼻息を荒げる。
「何が現状維持だああ!!ビルジニア!!生意気な女め!ゲームだとベッドでこの俺にメチャクチャにされるくせに……ああ、むかつく!!強制力はどこに行ったんだよ!くそ!!」
と言って、路傍の石を蹴る勇者。
その石は、かわいい黒猫ちゃんの顔に当たってしまった。
「にゃっ!」
黒猫ちゃんは気を失って倒れる。
そんな黒猫ちゃんを見て、勇者は目を細めて卑劣な表情になった。
「そこにいたお前が悪いんだよ。今日はろくなことがおきねーな。あ、パチンコ行きてー……」
気を失った黒猫ちゃんを通り過ぎる勇者。
「はあ、とりあえずエクスカリバーを覚醒させるためにもっと魔族を狩らないとな。今度は深いところにまで潜ってみようか」
勇者パーティーの宿
「ただいま」
勇者が中に入ると、エプロン姿の爆乳エルフであるサフィナが迎えてくれた。
「あ、ライトさん!お帰り!」
「ああ」
「帝国会議、どんな感じだったんですか?」
「……」
「あ……」
勇者の反応を見て、サフィナは察したように陰鬱な顔になった。
だが、サフィナは勇者を勇気づけるためにあははと笑う。
「あはは、きっといつか魔王を倒す日がやってきますよ!」
「……そうだな」
「それはそうとして、私、料理を作ったんですよ!この辺りだとエルフの森で獲れた食材も売っていますので、久々に腕によりをかけて作っちゃいました!」
「そいつは楽しみだ」
「ひひひ。ご褒美になでなでしてください!」
「……ああ」
と、勇者はサフィナの近くに行って柔らかい金髪をなでなでしてあげた。
彼女の凶暴な胸と勇者の肘が擦り合う。
前髪によって隠れている勇者の口は
大いに吊り上がっていた。
(ああ、めっちゃ襲いてええ!でも、魔王を倒す前にエッチしようとしたら絶対バッドエンドが出るんだよな!)
「あの、ライトさん……胸、あたってますよ……」
「あ、ごめん、つい」
「んもう!」
勇者は早速手を引いて、話題を変えるべく、口を開く。
「そういえば、ルイスは?アンナはまだ帰ってない?」
「あ、そうですね。ルイスさんは錬金術の材料を買いに市場にいます。アンナさんは、多分そろそろ帰ってくると思いますけど?」
「そうか」
勇者は安堵のため息をつく。
アンナside
エルデニア王国でアリアから衝撃的な発言を聞いてから数日が経ち、やっと帝国についた。
はやる気持ちを落ち着かせ、宿へと向かう大聖女。
そこに
人気のないところに一匹の黒猫ちゃんが倒れていた。
「ね、猫ちゃん!?」
猫大好きっ子のアンナはいそいそとその猫のところへ早足で向かった。
彼女はしゃがんで猫ちゃんを見る。
「……これは、大変だわ。相当なダメージを受けていて、肉体と魂が分離されようとしている……神様よ、私に魂が見える眼をお与えください。
唱えると、アンナのトパーズ色の瞳はまるで宇宙の銀河のように複雑なパターンになった。
ホーリーアイによって、おぼろげだった猫ちゃんの魂は鮮明に映るようになる。
「にゃああ!!にゃあああ!!!!にゃにゃにゃ!!!!」
猫ちゃんの魂は非常に怒っており、アンナに向かって何かを訴えてくるようであった。
「どうしたの?猫ちゃん。私は魂の言語がわかるわ。だから、ゆっくり言ってご覧」
アンナの優しい言葉に、猫ちゃんは息を深く吸って、口を開いた。
「にゃああ……にゃにゃにゃにゃ(前髪の無駄に長いやつが蹴った小石に頭をぶつかってこうなった)」
「あら……かわいそうに……」
「にゃにゃにゃ……にゃ!にゃんにゃん!!にゃんにゃん!(あいつ、とても下品で気に食わなかった。謝るどころか我輩のせいにして!)」
「そ、そう?」
「にゃにゃ!にゃにゃにゃにゃんにゃんにゃん!(我輩は魂だから、さっき見た光景を映像として見せることができる!)」
「じゃ、見せてもらえないかしら?どんなクズなのか顔が見てみたものだわ!」
「にゃん!(よろしい!)」
魂になった黒猫ちゃんの目は光り出した。
その光が、プロジェクターのようにアンナの前で映像を映し出す。
そこには、
前髪が無駄に長い男がいた。
「え!?ライトくん!?」
『何が現状維持だああ!!ビルジニア!!生意気な女め!ゲームだとベッドでこの俺にメチャクチャにされるくせに……ああ、むかつく!!強制力はどこに言ったんだよ!くそ!!』
『そこにいたお前が悪いんだよ。今日はろくなことがおきねーな。あ、パチンコ行きてー……』
ビルジニア女帝の悪口を言う勇者。
アラネル帝国出身のアンアは
驚愕した。
「ビルジニア女帝陛下になんという言葉を……」
頭を抑えるアリア。
そんな彼女は勇者の言葉にどう考えてもおかしい単語が含まれていることに気が付いた。
「ゲーム?強制力?パチンコ?一体ライトくんは何を言ってるのかしら……」
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