第32話 魔王も結婚
いよいよ国境を開放することとなった。
デビルニア王国の住人たちはエルデニア王国へ、エルデニア王国の住民はデビルニアへ。
もちろん不安もあった。
一度も交わったことのない魔族と人族が交流する。
何が起きるのかわかったもんじゃない。
けれど、俺の不安とは裏腹に、二つの種族は仲良しになった。
サーラとリナちゃんをセクハラしたラハクセの粛清もあり、魔族は異様なまでに人族を見てオドオドするとイゼベルからの報告があった。
逆にエルデニア王国の住民らは、俺が作らせたユウイチロウの繁盛っぷりを見て驚きを隠さなかった。
というのも、我が国には肥沃で広大な土地がたくさんあり、そこからとれた食材はエルデニア王国の人々を感動させた。
彼らは長らく搾取されてきていたせいか、魔族たちのおおらかな態度を見て安心しているという。
特に、人族はたこ焼きに熱い反応を見せているという。
数日前には焼き鳥の作り方に関する内容をデビルニア王国の全土に公表した。
どうか気に入ってくれることを願うばかりだ。
あとは、エルデニア王国に駐屯していた連合軍のことだが、
結果から言うと、帝国軍を除けば全部追い出したとのことだ。
そのせいで、いろんな国々から反感を買ってしまい、帝国を除くほとんどの国と国交断絶を余儀なくされたとのこと。
アリアは遠隔魔法で、俺に泣きついた。
『このままだとまずいわよ!!どうしたらいいの!?』
『アリア、心配することはない。このアークデビルに全部任せろ』
『……わかった』
方法は簡単だ。
我が国は鉱物、食糧、資源などが豊富だ。
だから、国交断絶によってできた穴を、簡単に埋めることができる。
なので、アリアとは通商条約を締結した。
まあ、要するにアリアの国と俺の国の絆はもっと強くなったってわけだ。
これでよし。
あとは、イゼベルと下のものに丸投げすればいい。
もし、ラハクセみたいな奴やエルデニア王国の悪徳貴族たちのような不埒者が幅を効かせるなら俺の圧倒的力で平伏させば済むだけん話だ。
俺の夢まであともう一歩ってところかな。
二つの国が安定して、繁盛することになったら、いよいよ自堕落な生活ができるわけだ。
俺はイゼベル一人だけでも大満足だぜ。
あんなに綺麗でセクシーで爆乳のサキュバスのようなキャラが俺に尽くしてくれる。
考えただけでも、エンドルフィンが過剰分泌される思いだ。
執務室で最上級ワインを飲んだ俺は小声で呟く。
「ふむ、ワインがうめーな」
ニヤニヤしながら次の領地経営に関するプランのことを考えていたら、ドアから人の声が聞こえた。
「魔王様、リアナ殿がお見えです!」
おお、リアナか。
今日はどんな話を持ちかけてくるんだろう。
「入れ」
ワクワクドキドキしながら俺はリアナを中に入れた。
「……」
だが、
リアナは目を細めて俺を睨んでくる。
な、なんだろう……
いつもの彼女じゃない。
まあ、普段とのギャップありまくりで可愛すぎるが、これだと魔王としての威厳はダダ下がりだ。
なので、俺はわざとらしく咳払いをして問う。
「リアナ、その顔はなんだ。この俺を睨んでくるとは、お仕置き……」
「魔王様!!」
「っ!なんだ!」
「アリア様のことで話があります!」
「な、なるほど、アリアのことか。ならば納得だn……」
「一体、いつアリア様とご結婚されるおつもりですかあああ!」
「ん?結婚だと!?」
「はい!」
「なんのことだ?」
一体お前は何を言ってるんだい?
俺が目を丸くしてリアナの激おこぷんぷん丸な顔を見ていたら、彼女は捲し立てるように言う。
「アリア様はですね……魔王様と国交を結んで以来、他の人族の国々から嫌われるようになりました。それに国内にいる位の高い貴族らは全部牢屋にぶち込んでまして……つまり、結婚相手がございません!!!!」
「……」
「魔王様はこのことを予想し、間も無くしてアリア様に婚儀の話を持ちかけてくるとばかり思っていましたが、何もしないなんて、一体どういう了見ですか!!!」
まじか。
アリア、勇者に抱かれるんじゃなくて、俺と結婚するのか。
リアナがこんなに怒っているってことは、本気ってことだろう。
今はそんなことより
威厳じゃ。
威厳なのじゃあああ!
「ふっ、もちろんそういう展開になることはとっくに予見した」
「だったらなぜ……」
「放置プレーだ」
「ほ、放置プレー!?」
「ああ。気の強い女は躾が必要でな」
「っ!アリア様を躾だなんて……やっぱりあなたは暴君です……」
「そうだ。我こそ暴君アークデビル。文句でもあるのか?」
「……アリア様と結婚してくださるのであれば、文句はございません」
やべ……
どうしよう。
今までアリアを勇者に抱かれるけしからんビッチだと決めつけて、彼女を助ける時も、心の中で『勇者に抱かれるクッソビッチ女王』って罵ってやったのに、俺と結婚をご所望だったとはな。
やべ……
アリアと結婚か。
つまり、絶世の美女と言われる彼女とあんなことやこんなこと……
や、やめろ!
思い出すな!
俺が飽きるほど見ていた彼女の叡っ智シーンが流れまくるぞい。
いや待て。
冷静に考えろ。
リアナの話によるとアリアは今孤立しているんだ。
それに、前髪がクッソ長いクッソ勇者は全然アリアの役に立たなかった。
ん……
こうなったら、俺がもらうしかないか。
勇者よ、俺を悪く思うなよ。
これは仕方なく引き受けることなんだからな。
あくまで仕方なくだ。
文句があるなら、アリアの抱える本当の問題を解決できなかった自分を恨むが良い。
「結婚はする。だが、今すぐじゃない」
「もちろん、今は両国とも安定しているとは言えませんし、他の国々も虎視眈々とデビルニアを狙っている状況ですから、今すぐじゃないという魔王様のお言葉には私も激しく同意です!」
「ふむ。わかればよろしい」
「それでは、私は早速このことをアリア様に報告しますので!失礼します!」
「お、おい」
俺が呼び止めても、リアナはとても明るい表情をしてから俺の執務室から去った。
嵐が過ぎ去ったようだ。
マジで俺アリアと結婚するのか?
一体勇者はこのことを知ってどんな行動をするんだろう。
仕方ない。
乗り掛かった船だ。
アリアだけは特別扱いだ。
魔女、エルフ、聖女、皇女といった他の女の子らは勇者のハーレムのためのヒロイン枠でな。
と、自分に言い聞かせて、俺はワインを飲んだ。
「うまい……」
X X X
数日後
勇者side
帝国にある勇者パーティーの宿
「あ、アリア女王殿下と魔王が婚約だと!?」
「そうみたい。帝国の官僚から聞いた話だから間違いないわ」
Sっ気のある魔女ルイスの言葉に勇者は目玉が飛び出るほど驚愕した。
だが、やがて殺気をむき出しにして握り拳を作りながらブルブル震える。
「ライトさん……やっぱりアリア女王のことを心配していますね……私も心配になります……」
金髪爆乳エルフであるサフィナが勇者を慰める。
そして、遠いところから三人のやりとりを見ていた大聖女アンナは息を深く吸ってから口を開く。
「みんな」
「「「?」」」
勇者とルイス、サフィナは大聖女アンナの方へ視線を向けた。
すると、アンナは自分の爆乳に手を乗せて口を開く。
「私、ちょっと急用があって、1週間ほどパーティーを休んでもいいかしら?」
アンナの表情には悲壮感が漂っていた。
追記
どんな急用でしょうか。
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