第31話 暴君
「一体何を言っているんだ?」
勇者はチンピラのような男を睨みながら問うた。
もちろん、髪が長いため、表情は全くといっていいほど見えない。
すると、チンピラのような男は眉根を寄せ、勇者を指差していう。
「なんで魔王なんか倒す必要があるんだ?馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しいって……」
勇者が悔しそうにいうと、ヒロインズもチンピラのような男を警戒した。
勇者は上気した顔でチンピラのような男に反駁する。
「魔王は僕たち人族や他部族を滅ぼすことしか考えない諸悪の根源だ!僕はそんな魔王を倒すために選ばれたんだ。なのに、そんな僕のやっていることが馬鹿馬鹿しい?」
勇者は握り拳を作り、チンピラ男を殺す勢いで睨んできた。
そしたら、勇者の成せる雰囲気に当てられ、チンピラは一瞬ビビるが、目をカッと見開いてから目を細めて勇者を挑発するような口調で言う。
「怖いな。もしかして、俺も殺す気か?この前、クシュという男と結婚したシリさんの元旦那さんみたいにな」
チンピラ男に言われた勇者は早速反論する。
「僕はこの世界のために魔族と戦ってきたんだ!そんな言い方、僕を侮辱する気か!?」
勇者は剣を抜いて、チンピラ男にそれを向ける。
チンピラ男はビビりながら後ずさる。
すると、平民と思しき若い青年の男が勇者を睨んで、叫ぶように言う。
「エルデニア王国とデビルニア王国はくっついているから、他の人族の国々に魔族たちが侵入できないようにするための緩衝地帯としての役割をずっと果たしてきたんだ!連合軍は略奪を繰り返すし、上位貴族らは戦争を利用して私服を肥やすしで、俺たちの生活はますます厳しくなって疲弊しきってるんだ!」
若い青年の声を聞いて、少し離れたところにいる若い平民女性が加勢する。
「そうよ!勇者、あなたはお偉い人と、そこにある綺麗なパーティメンバーとしか喋らないから、私たちがどれだけ厳しい生活をしてきたのか、全然わからないでしょ!?もう私たちは魔王退治のことなんかどうでもいいの!私たちが望むのは平和よ!せっかく私たちの望みが叶おうとしているのに、冷や水をささないでちょうだい!」
若い平民女性の叫びに、他の人々も賛同し始める。
「そうだ!そうだ!お前らはこの国から出ていけ!!」
「アリア女王殿下は魔族との共存を願っておられる。お前がそれに反対するのなら、俺はお前を敵とみなす!」
「出ていけ!!!」
「どうせ俺たちが言っても、下々のことなんか興味ないもんな。偉い勇者様?」
「俺は、魔族の美人姉ちゃんと結婚するって決めてんぞ!俺の夢を壊すな!」
「私も、アークデビル様のような格好いい魔族掴めて、幸せに暮らしたいの!だから邪魔しないで!」
街の人々は、勇者に向けて文句を放ち続ける。
「ライトくん、とりあえずここを去る方が良さそうだけど」
勇者に提案したのは、先の尖った帽子を被った魔女のルイス。
「……」
しばしたっても勇者が返事をせずにいると、彼女はドS女王バリに、勇者を睨んでいう。
「あなたが、私以外の他の人からも罵倒されて快楽を得る度し難いMなら私からは何も言わないけれど?」
ルイスの言葉に勇者は我に返って、返事をする。
「そ、そうだな。そうしよう」
言って勇者は剣を鞘に収めて足を動かす。
「ライトさん、ライトさん、大丈夫ですか?」
爆乳エルフであるサフィナが勇者の右にくっついた状態で、上目遣いしてきた。
「ああ、大丈夫」
と答えた勇者は、爆乳の感覚をもっと味わうために、右腕を気付かれないように押し付ける。
「……」
そんな様子を大聖女と言われるアンナは冷や汗をかきつつ、勇者の後ろ姿をじっと見つめる。
勇者パーティーの宿
「さっき剣をあの男に向けたのは不味かったわ。あれは勇者として恥ずべきことね。アンナもそう思うよね?」
「……ええ」
魔女のルイスの問いにアンナは深刻な表情で頷いた。
けれど、爆乳エルフであるサフィナは勇者の肩に手をそっと乗せてフォローする。
「確かにそうかもしれないんですけど、ライトさんはずっと頑張ってきたから……それを否定されるのってやっぱり辛いことだと思います」
「サフィナ……」
「私は、いつもライトさんの見方ですよ!」
「ありがとう」
「ひひひ」
サフィナは照れくさそうににへたっとうっすら微笑みを浮かべる。
そして、ライトの顔を真っ直ぐ見つめて問う。
「ライトさんはとても真っ直ぐで頑張る人です。今回の件も、この世界に、人々に幸せをもたらしたいという気持ちの表れですよね?」
まるで子供のような無邪気なエメラルド色の瞳には曇りなどなく、澄み渡っている。
勇者は、そんな彼女に向かって返事をするのだ。
「ああ」
前髪が勇者の顔を覆っているせいで、彼の目がどこに向いているかは、
神のみぞ知る。
X X X
ヘーゲルside
仮面の男の襲撃を防げなかったとして、彼は魔王から謹慎処分を受けた。
と言っても、謹慎期間は三日程度で、形式的なものだ。
彼は自分の部屋で目を瞑ったまま、結婚式での出来事を思い出す。
サーラとリナという平民を捉えて魔王様に献上した日から、魔王様は変わった。
これまで、人族の戦争をし、ようやく人族の領地を奪還できたと思いきや、いきなり国境の守備に徹するようにと言われた。
なので、自分は退屈な守りに徹底してきた。
そんな中でのあの任務。
警備任務ではあるが、人族と魔族が交わるイベントだ。
何かが起きる予感がした。
胸騒ぎがした。
自分の予想は的中した。
謎の仮面の人が現れたからである。
彼と戦った。
戦いの達人は、自分と相手の意思疎通に言語などいらない。
戦う時の目の動き、呼吸、構え、体の動き、戦闘スタイルなどで、相手の個性や気持ちなどを把握することができる。
仮面の人と一戦交えた時、ヘーゲルは鳥肌がたった。
なぜかというと、
仮面の人は
誰よりも強欲で、執拗で、貪欲で、自分の目的を達成するためには手段を選ばないあくどさも兼ね備えている。
自分をここまで興奮させた相手は帝国出身の剣姫だけだ。
いや、
仮面の人の闇の深さは、剣姫なんかと比べ物にならないほどピカイチだ。
「……すごい奴め」
しばし感心しながら、自分に問いを投げかける。
仮面の人よ
お前の行動理念はなんだ。
何が、お前をそんなに強くさせたのか。
どうしてお前はそんなに執拗になのか。
ヘーゲルは不覚にも口を開いてしまった。
「今の魔王様より、暴君だな」
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