第29話 仮面の人
謎の存在による襲撃。
俺は素早く暗黒の剣を生じさせ、それを一振りする。
だが、仮面の人の動きがあまりにも早いため、やつの攻撃を完全に防ぐことはできなかった。
「危ない!」
そう叫んだのは新郎であるクシュだった。
彼は新婦であるシリを庇うように襲って、仮面の人の攻撃を喰らってしまう。
「あっ!」
俺のフォローで攻撃のごく一部しか食らってないが、それでも結構なダメージを受けたはずだ。
クシュは背中に傷を負った状態で倒れてしまう。
「あなた!!」
「お父さん!!」
シリと彼女の娘であるラファが深刻な表情で彼の名前を呼んだ。
総司令官であるヘーゲルの警備をすり抜けて、さらに魔王である俺の前でこんな大胆なことができるとは、なかなかの手だれた。
まずい。
いくら俺が魔王でもこの状況は俺が不利な状況といえよう。
というのも、ここはアリアを含んで、偉い人も多い上、魔族と人族の合同イベントだ。
しかも、この様子はエルデニア王国とデビルニアの全土に生放送されているのだ。
つまり、
この仮面の人は、俺の計画を潰すために動いているといっていいだろう。
一体誰だ。
こんなキャラ、ゲームの中じゃ一度も見たことないのに。
と、俺が戸惑っていると、やつは会場にいる人々に剣を向ける。
まさかこいつ、
全員皆殺しにするつもりか?
気狂いにも程があるだろ。
とりあえず、こいつを早く始末しないといけない。
そう考えた俺は、やつの方に猛ダッシュした。
俺の暗黒の剣とやつの剣がぶつかった。
その衝撃波たるや、再建したばかりの教会の窓ガラスが割れるほどだった。
「きゃあああ!!」
「なんだよ!これは!」
「危ない!みんな逃げろ!」
「あれは一体なんなんだよ!」
と、参列者の間にどよめきが起こる。
その瞬間、
「おい、貴様の相手はこの俺だああ!!」
怒りを募らせるヘーゲルが仮面の人に攻撃を仕掛ける。
ヘーゲルはありえないほどの強力な力属性を持っていて、格闘家のようなスタイルで戦う。
ヘーゲルは手に膨大な魔力を詰め込んで、仮面の人の顔を狙ってパンチする。
だが、仮面の人は剣でそれを簡単に防いで見せた。
仮面の人に隙が生まれた。
ヘーゲルと相対している今なら、ガードが緩くなってるはず。
なので、俺は暗黒の剣に魔力を入れ、電気を帯びさせた。
そして、
魔王が持つ優秀な身体能力を用いて、一気にやつの後ろに回り込んで、暗黒の剣でやつの背中を刺そうとした。
イゼベルも俺に倣い、強力な暗黒の塊を召喚して仮面の人に狙いを定める。
3対1。
チェックメイトだ。
俺は勝利を確信した。
が、
「っ!!」
やつは一瞬体をひくつかせながら、ジャンプをした。
そして、穴の空いた天井を目掛けて登り、そのままいなくなる。
「おのれ!!逃すか!!」
と、ヘーゲルはブチギれ、仮面の人の後ろを負ってゆく。
「……」
大きな嵐が過ぎ去ったようだ。
「お、おい!クシュ!大丈夫なのか!?」
「お父さん……」
「あなた……」
魔族と人族は傷を負ったクシュのところへいって、心配そうに彼を見つめてくる。
シリはクシュの下にいる状態で、彼の背中に手を回して涙を流していた。
娘のラファは自分の父となる彼の背中を摩りながら泣いている。
早く俺の暗黒の力で治癒をと思い、彼に近づこうとしたが、
彼は、
自分の下にいる彼女の口に自分の口をそっと当てる。
「あはは……これで正式に結婚成立だな……っ!」
「あなた……」
「自分の顔も出さない卑怯ものに俺たちの幸せを奪われてたまるかよ……っ!」
クシュは痛みを必死に堪えて笑って見せる。
やばいぜ……
まじで格好いい。
男の鏡みだ。
この前までは、全てを奪われ、呪いの言葉を吐いたんだが、
今となっては、愛する人を守るために自分の命さえも捨てる覚悟で挑む英雄になっている。
俺は念の為、教会の周辺に強力な魔力障壁を張って、クシュの治療に当たった。
幸いなことに、命に別状はなく数週間休めば治るほどの傷だ。
アリアはというと、リアナによって守られている。
仮面の男が襲撃した途端に、アリアの守りに徹したのだ。
実に有能な女だ。
俺は安堵のため息をついてから、教会にいる人々に言う。
「さっき仮面の人を追ったヘーゲルが戻ってくるまでここで待っていろ。そして、新郎クシュの命に別状はない。みんなに混乱を与えてしまって悪かった」
俺がいうと、周りは胸を撫で下ろして、クシュに慈愛のこもった視線を向ける。
X X X
勇者side
ヘーゲルの追跡から逃れて、山奥を歩いている仮面の人はほくそ笑む。
「ひひひひ!!!もっと被害を出したかったが、残念だったな。けど、これで、人族と魔族の仲良しムードは台無しだな!ざまみろ!!くっそ魔王が!!」
気持ち悪く笑う仮面の人は周辺をみまわす。
自分の隣に人がいないことを確認した仮面の人は、密かに仮面を外した。
仮面によって隠された顔が姿を表すのかと思いきや、長い前髪が彼の顔を隠した。
「ハーレムは俺のもの」
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