第28話 招かれざる客
結婚式当日がやってきた。
人族と魔族による結婚は前代未聞とのことで、俺とアリアが参加し、二人の幸せをお祝いする形となった。
もちろん、結婚式の様子はデビルニアとエルデニア王国で生配信される。
二つの国のトップがいるので、俺の軍を率いる総司令官ヘーゲルが警備を勤める。
すでに教会の席は埋まっていて、教会の外からも、多くの人族や魔族らが目をキラキラさせて二人の姿を見守っている。
司会はサーラに頼んでおいた。
理由としては、人族から反感を買わないようにするためである。
あと、健康になったサーラはモデル顔負けの美人だ。
司会者用のドレスに身を包んだサーラはまさしくアイドル級の外見である。
小さな村だとはいえ、そこで最も綺麗な女性だ。
俺は満足げに司会者のサーラの姿を見てふむと頷くと、彼女が頬を緩めてピンク色に染める。
サーラにはベビルニアにおける人族の代表をしてもらっている。
そして、俺が与えた役割をサーラは見事に果たしてくれているのだ。
実に有能な女だ。
と、俺が感心していたら、俺の右腕に柔らかい感触が伝わってきた。
気になった俺が右側に視線をやると、鮮烈な青色の華やぐドレスを着ている絶世の美女と呼ぶべき女性がいた。
肩まで届く蒼い髪、整って目鼻立ち、強い印象を抱かせる切れ長の目、華奢な体。
すべてが完璧としか言いようがない。
「あなた」
「ん?」
「まさか、あの綺麗な平民の女の子に手を出したわけじゃないわよね?」
と、若干膨れっ面で俺を睨むアリア。
普通こんな綺麗な女の子にこういうふうに問われたら、慌てながら全否定して安心させるのが世の常だ。
だが、こいつは……
勇者に抱かれる運命。
いくら勇者なんかいらないとか言っても、強制力の前ではすべてがなすすべもない。
つまり、
この女とは深く関わらない方がマシだ。
軽い感じがちょうどいい。
「ふっ、抱くようが抱くまいがお前とは関係ない話だ」
「……」
アリアは悔しそうに目を瞑った後、俺の脇腹を強く突く。
「っ、おいアリア、もうすぐ世界の頂点に君臨するこの俺に何たる真似だ」
「うるさい。このたらしが」
まじで何ってんだこいつは。
と、顔を顰めていたら、今度は俺の左の腕から極上の柔らかさが伝わってくる。
イゼベルだ。
イゼベルは無言のままアリアに愛のこもった視線を向けてくる。
「皆さん、お忙しい中、遠路はるばるお越しくださり、誠にありがとうございます」
いよいよ始まるようだ。
サーラが落ち着いた様子で進める。
「今日は奇跡が起きる日です。長年いがみ合って憎み合っていた魔族と人族が愛の力によって一つになるからです。しかし、この愛は決して簡単に手に入れたものではありません。新郎であるクシュさんは、このアハズ村で陶磁器を作る職人でした。しかし、領主による搾取と重税のせいで金欠になり、愛する妻と子供の病気を治す薬草が手に入らず結局、妻と子供は天国に旅立ちました」
サーラが目を潤ませていると、人族と魔族も悲しい雰囲気に包まれる。
「そして新婦であるシリさんは、愛する夫のために尽くしましたが、夫は遠征に出ていた勇者によって無惨な死を遂げました」
サーラが一旦切ると、今度は魔族と人族の女性側が密かに泣いてきた。
感受性豊かなだ。
「ですので、奇跡を起こす愛というのは綺麗事だけでは語れません。絶望、悲しみ、無念、怒り、虚無といった感情の上に成り立っているものです。ですが、互いの負の感情が、交わりによって希望の光と化しました。この光を道標にして互いに譲れ合い、認め合い、高め合い、讃え合い、愛し合えば魔族と人族だけにとどまらず、すべての種族の上にもきっと祝福が降りると、私は信じています」
すごい。
俺は結婚のことは何もわからないから、サーラに台本のことは丸投げしたんだが、こんな立派な言葉を思いつくなんて。
確か、彼女は16歳のはずだ。
転生前の俺なんかよりよっぽど大人だぜ……
「それでは今日の主人公である新郎新婦の入場です!皆様、盛大な拍手でお迎えください!」
サーラの言葉にみんなは熱々な拍手喝采を送る。
そして、格好いい中世時代のスーツみたいなものを着たクシュと、真っ白なドレスに身を包んだシリが登場する。
俺がぼーっとなって二人の輝かしい姿を見つめていたら、隣のアリアが意味ありげな面持ちで二人と俺を交互に見つめている。
結婚か。
転生前の社畜である俺とは無縁な世界だ。
給料は少ないし、死ぬほど働かせるし、イカれた上司のせいで精神的ダメージは受けるし。
ふむ。
ブラック企業を潰したら日本の少子化問題は解決するかもしれない。
日本に限った話ではないけどな。
そんな実現不可能などうでもいいことを考えていたら、結婚式は佳境に入った。
指輪交換・誓いのキスである。
サーラの巧みな誘導によって二人は互いに指輪を贈り合う。
そして、
結婚式のフィナーレと言えるキスだ。
「クシュさん、幸せを見つけて本当によかった」
「アハズ村でのお前は絶望そのものだったが、今のお前は輝いているぜ!」
「にしても、シリさんって美人すぎて羨ましい!俺も魔族と結婚してえ!」
人族の女性は憧れの視線を、男性は嫉妬が混じった視線を。
だが、みんな二人の結婚を本気で祝ってくれている。
「シリ!きっと天国にいるあの人も祝ってくれているに違いないわ!」
「シリ、いい人見つけてよかった!幸せな家庭を作るのよ」
「おいクシュ!シリは、魔族の中でかなりの美人だ。泣かせるんじゃねーぞ!」
魔族の反応も似たりよったり。
みんなに祝われる中、
クシュとシリの顔がだんだん近くなる。
二人の唇が至近距離に迫った時
教会の天井が破た。
そこからは
仮面を被った人が落ちてきた。
ガイ・フォークス・マスクともアノニマスとも言われる仮面。
その仮面をつけた男はリアナのものと似た真っ黒なマントをつけており、その剣で二人を狙っている。
「待て!!逃すか!!」
総司令官であるヘーゲルは謎の仮面男を追って穴から降りてくるが、間に合わない。
仮面男は、
クシュとシリに近づき、
剣を振った。
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