第27話 平和の結婚、破滅の結婚

 数日後


 あの平民男とシリという綺麗な魔族は結婚を前提として付き合っているそうだ。

 

 めでたしめでたしだ。


 魔族と人族。


 お互い相入れない関係だと言われてきたが、こんなふうに結ばれるなんて、本当に嬉しい限りだ。


 早くエルデニア王国と国交を結んで、二人が正式に結婚できる法的根拠を作ってやらねばなるまい。


 そんなことを考えていたら、


「魔王様!リアナ殿がきました」

 

 リアナがやってきた。

 

 顔を見るのは実に久しぶりである。


「入れ」


 俺が言うと、ドアが開き、フードを被ってないリアナが姿を現した。


 柔らかい紺色の髪、整った目鼻立ち、全体的に小さな背。


 綺麗な暗殺者っぽい服装をしているが、彼女を知る俺に言わせたら、かわいいよな。


 てか、なんで頬をピンク色にして、モジモジしてんの?


 色々勘違いしちゃいそうで、そう言うのはやめてくれ。

 

 だが、俺の照れる姿を見せるわけにはいかない。


「久しぶりだな。元気にしていたか」

「は、はい!おかげさまで、私とアリア様はとても元気いっぱいでございます!」

「それはよかったな。それで、なんの様だ?」

「アリア様からの手紙を持ってきました」

「ほお、アリアからの手紙か」

「はい!」


 アリアとは通信魔法を使って、頻繁にやりとりをしている。


 手紙を持ってきたというのは、通信魔法では話せない重要な話があるということだろう。


 にしても、リアナの様子がとても上機嫌だ。


 るんるん気分で表情は実に明るい。


 玉座に座っている俺は立ち上がり、リアナのいる方へ向かう。


 そして、彼女の真っ白な手に握り込まれている手紙を取る。


「ふむ、ようやくだな」


 内容は国交に関するものだった。


 内容を要約すると、王国を取り巻く状況がかなり安定していて、国交を結ぶ準備が整ったとのことだった。


 女王のハンコが押された公文書を見ると、なぜかとても心がホッとする。 


「早速返事の手紙を書こう。お前はユウイチロウを見て回りながら休むといい」

「ユウイチロウ?」

「ああ。魔王城の近くに大きな街が出来上がっているだろ」

「そうですね。とても驚きました」

「その街の名前がユウイチロウ」

「ゆ、ゆういちろう……」


 やだ。


 こんなにかわいい女の子が目を丸くして転生前の俺の下の名前を呼んでくれるなんて……


 ドキドキしちゃうぜ。


 なれない発音だったせいか、リアナは何回もユウイチロウを繰り返して言う。


 すると、


「魔王様」


 イゼベルの声がドア越しに聞こえた。


「イゼベルか、入れ」


 言うと、イゼベルが入ってきた。


「(リアナ)ん?」

「(イゼベル)え?」


 イゼベルとリアナの目が合う。


 イゼベルは口角を吊り上げ、リアナに粘っこい視線を向けてきた。


「……」


 リアナはそんなイゼベルを見て、結構緊張したらしく口をキリリと引き結ぶ。


 リアナの反応を見て、イゼベルは納得顔でうんうんと頷いてから、俺に口を開く。


「アハズ村の修復作業について報告事項がございます」

「アハズ村か」

「はい。現在、力持ちの戦士たちが助っ人として作業を手伝っているので、修復作業は1週間以内に終わる見込みとのことです」

「なるほど。やつらにはご褒美があると伝えておけ」

「はい!」

 

 気を引き締めて返答をするイゼベル。


 だが、彼女はとても物欲しそうな表情を俺に向ける。


「あ、あの……魔王様」

「なんだ?」

「私、その子に用事がございます」

「用事?なんの用事だ?」

「そ、それは……いわゆる男子禁制的なアレでして……」


 男子禁制か。


 つまり、ガールズトークってわけだ。


 ここで俺が『俺にも話してみろ!』とか言ってしまったら、いくら魔王でも洒落にならない。

 

「良かろう。仲良しなのはいいことだ」


 俺が言うや否や、イゼベルはいきなりリアナに迫ってきて、その爆乳でリアナの腕を挟む。


 ちくしょ!


 リアナ!そこ変われ!!


 いや、とりあえず返事の手紙を書こう。

 

X X X


イゼベル、リアナside


「……」


 いきなりイゼベルの部屋に連れていかれたリアナは結構ビビっている様だ。


 そんな彼女にイゼベルは言う。


「こうやって、二人きりで話すのは初めてだね。リアナ」

「そそ、そうですね」


 オドオドしながら返事をするリアナはイゼベルの体をチラチラみる。

 

 自分より圧倒的に大きな胸、メリハリのある体、大きな背。


 外見においても、雰囲気においても、リアナはイゼベルに圧倒されてしまった。


 イゼベルは妖艶な表情を彼女に向けて言う。


「単刀直入に言う。あなた、魔王様に惚れ込んでいるだろ?」

「っ!!!」


 リアナは体に電気でも走っているように、まるでマグロの様に体をひくひくさせる。


 そこを見逃す筈もなく、イゼベルはリアナに至近距離まで迫っていき、呟く。


「いつからだ?理由は?」

「そ、それは……だめ!言えない……言えないです……」

「あら、お口ではそう言ってるけど、表情は全然そうじゃないみたいよ」

「……」

「ねえ、あなた。我慢してない?」

「……」

「言ったら、スッキリするわよ」

「……」

「ほら、我慢は良くないわ」


 まるで催眠でもかけるようにイゼベルは、彼女の耳に息を吹きかけ、手で彼女の頬を撫でる。


 すると、リアナは吹っ切れたようにイゼベルを押し除けて大声で叫ぶ。


「ああもう!魔王様格好いい!!超格好いい!!私を圧倒しておきながら、私の体を汚すことなく『俺はお前を知り尽くしているぞ』って言われた時、電気が身体中を走りましたあああ!!そして、魔王様はアリア様の抱える問題を見頃に解決して……これは惚れない方がどうかしてます!!でも、私のこういう気持ちをアリア様に言うわけにはいきません……だから、ずっと我慢してきた!」

「ほ、ほう……あなたもなかなかやるわね」

 

 リアナの勢いに押されるイゼベルは目を丸くして驚く。


 だが、次第に明るい表情となり、イゼベルは口を開く。


「ハーレム」

「え?」

「ハーレムよ」

「……」

「覚えているでしょ?」


 イゼベルの鋭い視線を受け、リアナは在りし日に想いを馳せる。


『行きたくないのなら、魔王様のハーレムの一員になっても良いぞ』


 魔王とリアナが初めて会った時、左おっぱいに大きなほくろがついていると魔王に煽られ、戸惑っていたリアナにイゼベルが吐いたセリフだ。


 しばし沈黙が訪れる。


「すでにメンバーは私含めて三人もおる」

「え!?もう!?」

「さあ、断る理由はないぞ」


 イゼベルに見つめられるアリア。


「この件に関してはじっくり話をしてからですね!!」

「ふふ、だったら今夜は寝かせないぞ。私と一緒に夜通しで魔王様の素晴らしさを語り合おう」


 リアナは頷いた。


X X X


数日後


「これより我が国デビルニアと」

「私の国エルデニアは」


「「正式に国交を結んだことをここに宣言する!」」


 やっと国交を結ぶことができた。

 

 宣言場所はアハズ村の教会である。


 この様子はデビルニア王国とエルデニア王国に住んでいる全員が見れるようにしてある。


 通信魔法と千里眼と盗聴の応用で、二つの国の全土に映像が流れるようになった。


 これで新たな時代が始まる。


 俺の自堕落な生活のための第一歩が幕を開けるんだああ!!


 俺はあらかじめ用意した言葉を言う。




勇者side


『この小さな一歩が、我々魔族と人族において平和をもたらすことを俺は望んでいる。その印として、1週間後に、このアハズ村の教会で、人族の男と魔族の女の結婚式が行われる予定だ』


 通信魔法で魔王の演説を聞く勇者は、血走った目で、握り拳を作る。


「ライト、大丈夫?」

「ライトさん!顔色悪いですよ」

「ライトくん……」


 いつものヒロインズに心配される勇者。


「悪い。ちょっと風に当たってくる」


 言って、勇者は凄まじいスピードで走る。


 やがて、モンスターが現れるところにやってきた。


 勇者はモンスター狩りをしながら叫ぶ。


「国交!?人族と魔族が結婚!?ふざけんなあああ!!!!!そんなの、俺が絶対認めない!!クッソ魔王がああ!!」

 

 ひとしきり暴れる勇者は気持ち悪いく笑いながら、言う。


「平和の印として結婚か……そうはいかないな。破滅の印としてのその結婚式とやらを血祭りにあげてやる。いっひひひ!」

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