第26話 偏見と偽善に満ちたエロゲ
二ヶ月後
ハルパゴスの熱心な働きのおかげで、俺の魔王城は大都市と化した。
しかし、一つ気になることがある。
魔王城周辺には地名がないのだ。
作中ではデビルニア、魔境、魔王城みたいなありふれた単語しか出てこないのだ。
シナリオ書いたやつ、適当すぎるよ。
まあ、魔王はやられ役だから、細かな設定とか必要ないかもしれない。
だから、俺はこの魔王城と果てしなく広がる街を含む地名を作ることにした。
その名も
ユウイチロウ
そう。
俺の転生前の名前である。
こんな素敵な都市が俺の名前だなんて……
なんか俺が偉い人間になった気がする。
まあ、俺は魔王だから基本偉いんだけどな。
グラック企業でこき使われ過労死した俺もやっと浮かばれる……
みたいなことを考えながら、俺は現在、執務室で自堕落な生活を満喫中だ。
サイドテーブルには最上級ワインが置かれており、俺は足を組みながらそれをちびちび飲んでいる。
うまい。
何もせずに飲むワインは超美味い。
だが、仕事を全くしてないわけではない。
出来上がったユウイチロウだが、人が住まないと何の意味もない。
だから俺はおふれを出して、魔族らをユウイチロウに住まわせることにした。
サーラに頼んで、アハズ村の人族も住んで良いと言ったので、アハズ村の人たちも結構な数がやってきた。
けれど、アハズ村の人々はとても郷土愛が強いので、彼らのアイデンティティーを変えるのはいい考えではない。
だから、アハズ村の在り方ついては、なるべく彼ら彼女らの意見を聞きながら決めることにした。
と言うわけで、アハズ村については修復作業のみを行った。
側から見れば、魔王お前、頑張ってるじゃんかって突っ込んでくるかもしれない。
だが、
魔王は命令を出すだけだ。
俺がイゼベルを通して命令を出せば、イゼベルが官僚っぽいものに伝え、あっという間に仕事が進む。
正直めっちゃ楽だ。
「あとは、アリアと国交を結べばいいか……」
アリアは自分の王国を再建するのに余念がなく、めちゃくちゃ頑張っている。
暇だ。
超暇だ。
ちょっと外出て気分転換でもしようか。
俺は玉座から立ち上がって、自分の体に暗黒の魔法をかけた。
すると、周りから自分の姿が見えなくなった。
俺は翼を広げ、ユウイチロウに住み始めた魔族と人族の様子を見に行く。
これは俺の気分転換のためにやることだが、破滅フラグを折るために絶対必要なことだ。
魔王はこの世を滅ぼすものだ。
けれど、俺はこの世を滅ぼすどころか、アリ一匹も殺すつもりはない。
つまり、俺の行動理念を裏付けるためには、この二つの種族が仲良くならなければならない。
『魔王は人族を皆殺しにする悪いものでしょ?』っていう固定観念が人族の間には存在する。
だが、
『あれ?魔王の国に住む人族って魔族と仲いいじゃん!?魔王と戦う意味あんの?』ってなる流れを俺は目指している。
もし、人族と魔族の間に軋轢が生じて、恨みのある人族が他の国の人族に俺の悪口を言えば、俺の計画狂ってしまうかもしれない。
そんな不安を抱いて、俺はユウイチロウの巡回する。
ユウイチロウは繁盛している。
整備された都市を見て目を輝かせる魔族、商売をやっている魔族たち。
見渡す限りの魔族。
まあ、当たり前だよな。
アハズ村の人々って百数十人規模だ。
だから心配なのだ。
人族は少数派だから、差別が生まれかねない。
そんな考えを抱きながら進んでいると、
「うわああああああ!!!」
人族と思しきものが泣いている姿が視界に入った。
すでに魔族どもに囲まれており、俺は顔を強張らせる。
「な、なんだ!」
俺は慌てながら、人族の男の方へ近づく。
すると、30代と思しき人族の男が地面に座り込んで号泣をしていた。
膝と掌を地面につけて、とても切なく泣いている。
よく見たらなんか見覚えのある顔だ。
けれど、俺の姿を現すわけにはいかない。
これはあくまで視察だ。
魔族の奴らにいじめでも受けているのか。
そんな不安な考えが脳裏をよぎる中、小さな女の子の魔族が彼に近づいて話をかける。
「あ、あの……なぜ泣いているんですか?」
魔族の女の子に問いかけに、人族の男は諦念めいた表情で話す。
「妻と子供がみんな死んでいるのに、俺だけこんな素敵なところに住んでいいのかよ……ああああ!!!魔王様がもっと早くアハズ村を占拠して下されば、俺の妻と子供は生き残れたかもしれない!!」
そうだ。
あの男は、アハズ村でリアナに悪口を言っていた人だ(10話参照)。
人族の男の切実な叫びを聞いて、周りにいた男魔族たちが話しかける。
「お、おい……一体どういうことだ?詳細を話してくれよ」
「そうだよ。訳を聞こうじゃないか」
と、男魔族たちは人族の男の背中をさする。
そしたら、人族の男は悲しい表情で口を開く。
「俺はアハズ村でずっと搾取されてきた。魔王を倒すために重税を課せられ、俺は借金をしてまで領主に税金を納めた。その結果、病気になった妻と子供を治す為の薬代も工面できずに、結局、無能な俺は家族を救えなかったんだ……」
人族の男が震えると、魔族たちが顔を顰める。
「でもよ、領主は嘘をついたんだ!俺が払った税金は、魔王様を倒す為に使われたんじゃなくて、そのまま領主の懐に入ったんだ!俺は、やつを肥やすために、家族を殺したんだよ!!ああああ!!こんな俺に、ここに住む資格なんかない!!俺だけいい思いをするのは今日で最後だ。俺は……俺は!!」
また切なく号泣する人族の男。
魔族らは、そんな彼を見て、やるせない表情を向けた。
「おい、人族、お前のせいじゃないぞ」
「そうだ。その領主が悪いだろ」
「罪悪感を感じる必要はない。胸を張って堂々と生きればいいんだ!」
「愚痴言いたくなったら、いつでも聞いてやるからよ!ほら、酒でも飲みに行こうぜ……俺が奢るよ」
「いくら魔王様が仲良くしろとおっしゃったても、人族は好きになれない。だけど、これはあんまりだ……俺にも妻と子供がいるのによ……」
魔族が人族の男を慰めている。
そんな中、
綺麗な魔族の女性が彼の前に現れた。
「私は、勇者に旦那を殺されました」
そう言って、その綺麗な魔族は唇を噛み締める。
そしたら、泣いていた人族の男は綺麗な魔族を見つめる。
「遠征に来た勇者によって……私の夫は……」
「……」
「私にはこのラファという娘がいますが、あなたは……とても苦しい思いをしてきましたね……」
と、綺麗な魔族は最初に人族の男に話しかけた小さな女の子を肩を抑える。
「私の名前はシリと申します。よろしければ、私の家に来て話を聞かせてください。あなたの話が聞きたいです」
なるほど。
このシリという綺麗な魔族も、人族の男も、決して癒えぬ心の傷を負っているんだ。
つまり、共通点が存在する。
いくら種族が違っても、互いに考え方が違ったとしても、心が張り裂けそうに辛い思いを抱えているものに対しては同情という感情が湧いてくるものだ。
つまり、
傷は
種族の壁を乗り越えるほど強い力を持っているんだ。
ハッピーファンタジアは、勇者とヒロインズを正義の味方とみなし、魔王を倒す過程が描かれている。
その過程の中で、勇者に自分の夫を殺されたシリという綺麗な魔族と、家族を全部なくした人族のストーリーは徹底的に除外されている。
ハッピーファンタジアがどれほど偏見と偽善に満ちたゲームなのか、俺は思い知ることができた。
人族の男は立ち上がり、シリと娘であるラファと共に歩いてゆく。
他の魔族たちは三人に暖かな視線を向けた。
やっべ……
魔族ども、いい奴すぎるだろ……
「そろそろ奴らに焼き鳥の作り方を解放してやってもいい頃合いだな」
と、俺はドヤ顔を浮かべてふむと頷く。
順調だ。
もし、悪徳貴族みたいな連中がここに来たら絶対やばい事になっているはずだ。
けれどアハズ村の人々は迫害を受けていたものたちだ。
俺は胸を撫で下ろした。
X X X
イゼベルside
「ん……」
イゼベルは自分の部屋のベッドで横になりながら悩ましい様子を見せる。
露出の激しい服を着ており、ダイナミックな体つきゆえ横になっても彼女の爆乳は無くならない。
息を吸って吐くだけでも色気を振り撒く彼女は、心配そうに天井を見上げながら呟く。
「やっぱり、曖昧になっているわよね。魔王様のハーレムの話」
イゼベルは悩ましげに色っぽく息を吐いたのち、妖艶な表情でそのツヤのあるピンク色の唇を動かした。
「リアナという小娘はとっくに魔王様に堕ちたはず。そしてあのクッソ生意気女王もおそらく……だから……直接会って確かめてみよう」
追記
ただ単に人族と魔族が仲良しになる。
そんな都合のいい話だと味気ないので、ちょっと重い話を入れてみました
おかげさまで星1000超えました!
ありがとうございます!
もっとくれもいいですよ(*≧∀≦*)
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