第25話 魔王城に戻るとすごい事になっていた

 勇者はもういらない。


 彼女は明確な答えを示した。


 一国の女王である彼女の宣言。


 俺の不満を吹き飛ばすのに十分すぎる言葉である。

 

 でも、なんで?


「なぜだ?」


 俺が目を丸くしてアリアに問うと、彼女は悔しそうに唇を噛み締める。


「……」


 返事をしてくれない。


 言いたくないのか?


 俺が小首を傾げてしばし待っていたら、耐えかねたリアナがアリアを見て口を開く。


「アリア様、これからは魔王様ともっと頻繁に関わることになると思います。差し出がましいことと存じますが、この機会に魔王様にも勇者の本性を知っていただくのも良いかと」


 リアナに言われたアリアは深々とため息をつき、諦念めいた声音で呟く。


「……そうね。私情を挟むのはダメだわ」


 言って、リアナは固唾を飲んで俺に語る。


「勇者はね、危険人物なの」

「ん?」

 

 勇者が危険人物?

 

 そりゃ、俺に取っては一番やばいやつではあるが、なんでアリアにとっても危険人物なのだろう。


 俺が怪訝そうな表情を向けると、アリアは陰鬱な顔でリアナを見つめる。


 どうやら代わりにあなたが言ってくれというような表情だ。


 リアナはアリアの意向を汲み取り、納得顔でうんうんしてから、俺をまっすぐ見つめる。


 嘘偽りのない瞳で清い瞳だ。


 それでいて、覇気と闘志が宿っているようにも見える。


 リアナは口を開いた。


「魔王様!」

「お、おう。なんだ?」

「あのものは嘘に塗れた腹黒い不埒ものです!」

「ん?」


 一体何を言ってるんだい?

 

 嘘?


 俺が知っている勇者は正義の味方で、決して嘘をつかないやつだった。


 だって、飽きるほどプレーしたもん。


 俺が訝しげにリアナを見つめていると、リアナは怒りを募らせていう。


「アリア様と勇者の初対面は5年前。勇者は空飛ぶワイバーンと戦ったあと、大浴場で風呂を浴びていた裸姿のアリア様の方へ落ちました」

「……」


 アリアルートを進めると、最初に出てくるシーンだ。


 あえて、初めて聞いたというフリをしよう。


「それがどうした?」

「あれは、アリア様に近づくための勇者の浅はかな自作自演である可能性が極めて高いです」

「な、なに!?」


 おい待てよ。


 流石にあれはないぜ。


 ないない。


 だって、俺がプレーした勇者のセリフにそのようなことを匂わせる表現は全くなかったぞ!


 落ち着くんだ。


 俺は魔王。


 動揺する姿など見せちゃいけない。


「証拠はあるのか?」


 落ち着きを取り戻した俺はリアナに問う。


 彼女は確信に満ち溢れる表情でいう。


「物的証拠はございません。ですが、私の今までの経験に立脚すると、

「……」


 目が本気と書いてマジだった。


 俺は渋い顔をして腕を組み、ため息をつく。

 

 そしたらアリアは小声で言ってきた。


「勇者があたなを倒すのって、正義のためじゃなく、ただ自分の心の奥深いところにあるを達成するためなんじゃないかな、そう思えてきたわ」

「ふむ」


 どうしよう。


 思い当たる節が多すぎて逆に怖いんだけど!?


 心の奥深いところにある目的。


 ハーレム!


 ハッピーファンタジアの中で勇者とヒロインたちによるエッチシーンは全体の内容の中で3分の2を占めるほど実に膨大だ。

 

 その3分の2を実現させるために勇者は必死に頑張っているんだろう。


 あれはあくまで強制力によるものであり、これまで勇者が見せた行動を自作自演と決めつけるのは……


 決めつけるのは……

 

 うん……

 

 あいつ、多くのヒロインと同時に関わり合うんだよな。


 それにヒロインとの初対面ってのが確かに確率的にあり得ない絡まり方をしている。


 ひょっとしたら、作中で主人公はただ単に演技をしたのではなかろうか。


 頭がごっちゃまぜになってしまいそうだ。


 いずれにせよ、俺は勇者と極力関わりたくない。


 俺はそれとなく、漏らす。


「目的か、俺を倒して、関わりのある綺麗な女たちとハーレムでも作る気か?」

 

 何気なく発した俺の言葉に二人は顔を歪ませて身震いした。


「あなた、それ本気で言ってるの?気持ち悪い……ハーレムのために魔王を倒すなんて……」

「魔王様、あまりにもキモすぎるので、無性に勇者を殴りたくなりました」

「……」


 確かに、魔王を倒して自然な流れでハーレムを手に入れるのと、ハーレムのために魔王を倒すのでは天と地の差があるもんだ。


 を突き詰める必要がある。


 それはそうとして、


「それじゃ、俺は帰る。やりとりは遠隔魔法でしよう」

「「……」」


 俺に言われた二人は残念そうに目を潤ませて俺を上目遣いしてくる。


 やめろよ。


 子猫かよ。


X X X


翌日


「やっと解放された……」


 俺はうんざりした顔で空中を飛んでいる。


 まあ、別に俺が帰っても、デビルニアはいつも通りなのだろう。


 魔王城の周辺で土木工事が行われるのを除けば、いつも見ている風景が広がっているはずだ。


 早く、イゼベルの爆乳でも見て癒されそうじゃないか。


 と思って、スピードを上げること数時間。


 やっと魔境が見えてくる。


 やく二ヶ月ぶりだろうか。


 早く魔王城が見たいものだ、






 魔王城についたおれは驚愕した。


「ななな、!!!!」

 

 魔王城の近くには計画都市のような素晴らしい街がすでに出来上がっている。


 まるでスペインのバルセロナのようで、居住区画、市場、市役所などなど、実に秩序正しく建てられており、真ん中には魔王城が君臨しているのだ。


「おお!アークデビル様ではございませんか!!」

「魔王様!!」

「たこ焼き、とても美味しいっす!」


 魔王城の近くで土木工事を行うものたちが宙に浮かんでいる俺の存在に気がついた。

 

 なので俺は早速降り立って、周りを見渡す。


 下水道施設なども申し分ない。


 なんなら今すぐに人が住むこともできそうだ。


 30万人は住めるんじゃないかな?

 

 俺が関心したように見つめると、見慣れた三人が現れる。


 街づくりの責任者ハルパゴス、ハルパゴスの息子で現場監督のメシェク、メシェクの息子であるダンだ。


 三人は俺に平伏したのち、ハルパゴスが口を開く。


「魔王様、お久しぶりでございます」

「ああ」


 ハルパゴスは俺を恐れているようだ。


 俺は彼を見て言う。


「素晴らしい。こんな素敵な街は我が国の繁栄の礎となるだろう」

「勿体無いお言葉です……」

「お前らにはたっぷりご褒美を与えよう」

「いいえ。私たちは魔王様の役に立っただけでも満足でございます……」


 責任者のハルパゴスは頭を下げたのち、感動のあまりに目を潤ませ、息子のメチェク、孫のダンに愛のこもった視線を向けてくる。


 にしてもすごいぜ。


「わずか二ヶ月ほどで、こんな立派なものが出来上がるなんて、一体どんな方法を用いた?」


 俺の問いに、ハルパゴスはお年寄り特有の笑顔を見せたのち、口を開く。


「隠れ技的なものはございません。魔王様が、この下賎な私に全てをお任せになったからできたわけです」

「ほお、そうか」

「はい。土木工事に携わるものは、強力な力属性持ちのエリート戦士たちです。なので、どれも一万人分の仕事をしてくれました。プロジェクトにおける中央集権体制、そして優秀な人材。全て魔王様が用意してくださったものです」


 なるほど。


 何もわからない上役が説教まじりなことを言って口を挟んでも、返って逆効果ってわけだ。


 要は、出来るやつに全てを任せるのも必要ってわけ。


 俺の場合は、丸投げだったけどな。

 

 俺も、部長が癇癪起こさずほったらかしにしていたら、死なずに済んだかもしれないな。


 物理的なダメージよりも精神的ストレスの方が、寿命を削るものだ。

 

 俺は口角を吊り上げ、傲慢な表情をする。


「ふっ、まさしくその通りだ。てめーらもよく覚えとけ。これからお前たちは人族やエルフ族など、いろんな種族たちと交流することになる。だから、自分の浅はかな価値観で多種族を勝手に判断して争うのは、この俺、アークデビルが断じて許さない。そんな輩にはたこ焼きを食べる資格はない!」


 俺がほくそ笑みながら言うと、土木工事の力持ちの戦士たちは震えながら、肩膝を地面につけた。


「「「肝に銘じます!!!!」」」


 戦士たちは非常に恐れている。


 中には「たこ焼きが食べられないんだと?いっそ死んだ方がマシだ!」と叫ぶものもいる。


 そろそろ飴をあげようじゃないか。


「ふむ。よろしい。お前らが、他の種族たちと仲良くできたら、このたこ焼き以外にも、美味しい食べ物をいっぱい作ってやろう」


 俺の言葉を聞いた途端に、筋肉質の戦士たちは、


「「「たこ焼き以外にも!?!?」」」


 純粋な子供のような顔で喜ぶ戦士たち。


 そこへ、


「魔王しゃまあああああああああああああ!!!!!」

「「魔王様!!!」」

 

 イゼベルがリナちゃんとサーラを抱えながら飛んでくる。

 

 地面に着地する三人。


 すると、早速リナちゃんが俺に猛突進。


「会いたかったあああ!!!!うううえん……」


 リアちゃんは俺の足に抱きついて、泣いている。


 アットホーム感が半端ない。


 俺はリナちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。


 すると、サーラが満面に笑顔を浮かべ、ハルパゴス、メヒェク、ダンを含む街づくりに携わる力持ち戦士たちは頬を緩めた。


「ふふふ、魔王様……」


 そんな中、イゼベルが蠱惑的な面持ちで俺を舐め回すように見つめてくる。


「ん?」


 俺がなんぞやとイゼベルを見つめるが、彼女は妖艶な表情で、俺の顔を見ている。


「ハーレム……」


 声が小さくて聞き取れない。


 聞き返そうとしたが、リナちゃんがあまりも激しく頭を俺の太ももにこずるものだから、俺はいつの間に止まった手を動かし、リナちゃんの頭を撫で続ける。




X X X



勇者side



 魔境近くにいる勇者は一人でモンスターを倒している。


「クッソ!クソクソソ!!」


 倒れてゆく魔物たち。


 この魔物たちは上級モンスターと言われるものだ。


 一通り暴れて疲れた勇者は激しく息切れする。


 彼の隣には魔物が山のように積まれており、勇者は鼻息を荒げながら言う。


「魔王と手を結ぶんだと?ふざけんな!!」


 勇者は腹いせに自分の剣を地面にブッ刺した。


「こうなったら、俺が魔王より強くなって、やつを倒すしかない。この剣が覚醒して聖剣エクスカリバーになれば、間違いなく魔王を倒せる」


 勇者はブッ刺さった剣を見つめたのち、前髪が長い彼はは気持ち悪く笑いながら呟く。


「いっひひひひ!!いくら魔王が暴れても、このゲームの結末は俺のハーレムライフだ。きっと俺の有利な方向に進むはずだよ」






追記



もうすぐ星の1000です!


ご協力いただけたら嬉しいです


(๑╹ω╹๑ )

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