第24話 魔王はデビルニアに帰りたい

 勇者の後ろ姿を見て中指を立ててからさらに数十日が経過した。


 ものすごい勢いで物事が進んだ。


 エルデニア王国の津々浦々から平民たちやリストに載っていない貴族たちが、リストに載っている悪徳貴族を袋叩きにして、王宮の方へ連れ込んだ。


 悪徳貴族たちは王宮の地下室にある牢屋にぶち込まれ、ひどい待遇を受けているとのことだ。


 そして奴らが隠していた財産はほぼ没収。


 財務卿の逆ツーブロックの息子がまとめてくれた書類が決定的証拠となったのだ。

 

 人事の方もバッチリ。


 リストに載ってない貴族たちを積極的に採用し、空いている枠を埋めた。


 新たに採用された貴族たちは『やっと今までの行いが報われた!』と神を褒め称え、現在一生懸命働いてくれている。


 現に、エルデニア王国の官僚の5割ほどが捕まってしまっている。

 

 不正に加担してない残りの5割の官僚は昇進し、新たに任命された貴族官僚たちに仕事を教えている最中だ。


 今回の件で証明されたことがある。


 えらぶっていた上役の決めセリフは『お前じゃなくても変わりはいくらでもある!』だ。

 

 だが、その上役の変わりは下のものより多いってこと。

 

 だから、自分が上だからといってパワハラとかそんなことはしないようにな。


 てめえらもいずれ引き摺り下ろされるぞ。


 とか考えちゃう、勇者から引き摺り下ろされることがいやで死ぬほど頑張っているどうも元社畜の魔王です。


 みたいなどうでもいいことを考えながら、俺はいつもの柱の後ろに隠れて掃除をしながらため息をつく。


「はあ……デビルニアに帰りたい」


 てか、いつ帰してくれるんだ?


 アリアとリアナのやつめ……


 忙しいのは知っているけど、俺が帰りたいといったら、めっちゃかわいい顔で一緒にいてくれと懇願してくるんだ。


 二人とも勇者のヒロインなんだから、見た目自体はSS級だ。


 そんな美少女二人に頼まれたらいくら魔王とて断りは出来まい。


 まあ、ここにいるおかげで、俺はエルデニア王国についてもっと詳しく知ることができたから文句はないけどよ……


 俺の自堕落な生活を叶えるためには、周辺国家と円満な関係を築くことは大事だ。


 アリアとリアナ。


 二人とも小さくてかわいいタイプの女の子だ。


 夜になると、俺を呼び出して国家運営に関するいろんな質問をしてくるし。


 まじでなんなだ?


 俺はこの二人のお兄ちゃんか?


「やってらんない……」


 と、掃除を終えてからため息をついた俺は、柱の後ろから立ち上がって歩く。


 そんな俺を発見したドアを守る門番二人がにっこり笑顔を向ける。


 あの門番二人ともすっかり仲良しになって、たまにご飯を一緒に食べたりもする。


 ちなみにご飯は硬いパンと水っぽいスープじゃなくて、ちゃんと美味しいものになっていた。


 今日のノルマを終えた俺は王宮を出て、王都を歩く。


「エルフの森で取れた薬草が安いんよ!」

「持ってけ泥棒!今なら治癒の泉の水をいっぱい含んでいるオレンジが半額!」

「今日はいい砂鉄がたくさん入った!だから質の高い武器、作ったろう!」


 国際軍による略奪が多くて治安の悪い王都は賑わいを取り戻したようだ。


「へえ、結構賑わってんな」


 まあ、現在は共通の敵ができたってわけだ。


 だから、エルデニア王国の民たちは絶賛一致団結中だ。


 そんな平民たちの熱気に当てられ、連合軍の連中も手出しはできずにいるようだった。

  

 あと、奪い返したお金はすでに王都に住む人々に流れている。


 だから、王都で商売をやっている人々の顔には生気と余裕と活力とが宿っているように見える。

 

 そんな中、やけに俺の耳を刺激する母娘の声が聞こえた。


「今ならエルデニア王国を代表する野菜、ほうれん草が安いんよ!」

「他の野菜もたくさんありますよ!」


 あの綺麗な平民娘には見覚えがある。


 確か、俺が最初にここに来た時、母の病気を治療するための薬草代を稼ぐためにここで商売をしていて、連合軍の男二人に無理やりどこかに連れていかれそうになったんだよな。

 

 お母さん無事だな。

 

 よかった。


 と、安堵のため息をついていたら、平民娘は俺を発見して店から飛び出し、俺へとやってくる。


「ルビデさん!ルビでさん!!!」


 平民娘であるクラリスは俺を見るなり、抱きついた。


「ん?」


 なんぞやと社畜モードに切り替え、彼女を見下ろしていると、


「本当にありがとうございます……あなたのおかげで、薬草を購入できて、お母さんは無事に治りました……」

「無事で何よりです!あはは!」

「あなたは私の恩人です!」


 顔を上げて明るい表情を向けるクラリスさん。

 

 まあ、確かに俺がこの子に薬草を買えるだけの金を与えたのは事実だ。


 だけど、あれは取引である。


 俺は慌てるふりをして口を開く。


「そんな大したことはしてません!それに、これは取引ですから!」

  

 俺に言われたクラリスさんは頬を緩めて答える。


「そうですね!私、こう見えても、人脈、とても広いんですよ!この辺りだと、おそらく商人の間では全部広まったと思いますよ!魔王は人族との戦いを望まないと!みんなすごく喜んでいましたよ!」

「おお……すごいですね。ありがとうございます!結構おかしなお願いをしたなと思ったんですが、よく頑張ってくれましたね!」


 正直にいって、あんまり期待はしていなかったが、こんなに頑張ってくれたとはな……


「ふふふ、そうですね。あの時の私は、絶望のどん底にいたんですよ。魔王がこの国を破壊しようが、軍人さんに蹂躙されようが、結果は同じです。ですので、今となっては魔王がどうとか、あまり気にしません。戦争が終わって平和が訪れれば、それでいいんです。おそらく、他の人たちも同じことを考えているんじゃないんですかね」

「そうか……」


 なるほど。


 夢も希望もないからこそ、どんな状況でも受け入れてしまうんだな。


 だとしたら、俺とアリアが国交を結んだとしても、反発してくる人たちは少ないはず。


 俺が納得顔でうんうん言っていると、いつの間にか、お客の対応を済ませたクラリスの母がやってきて頭を下げた。


「ルビデさん……私はクラリスの母、カノラと申します。娘から話は聞きました。本当にありがとうございます。おかげさまで私はこうやって娘の顔を再び見ることができました!」


 頭を上げた母は頭を上げ、娘とアイコンタクトをしたのち、俺に笑いかける。


 やっぱり家族はいいもんだな。


 なんか二人を見ていたら、やけにデビルニアに行きたくなった。


 早くセクシー爆乳イゼベルの顔が見たいものだ。


 俺の癒し系である可愛すぎるリナちゃんの姿も。


 あと、サーラが向けてくる笑顔も綺麗だよな。


 俺は決めた。


 俺の国に帰るんだ!


 今度は懇願されても無駄だぞ!


X X X



アリアの部屋


「この俺、アークデビルをいつまでここにいさせるつもりだ!?俺は忙しい身だ!」「……」

「……」


 俺がブチギレて机を叩くと、アリアとリアナは顔を俯かせる。


 まあ、帰っても特にやることないんだが。


「ごめんね……でも、やっぱりあなたがいないと不安なの……」

「不安を打ち破ってこそ女王だ」

「……」


 んだよ。


 こいつメンヘラか。


 勇者に抱かれることになる女が俺を頼るなんてとんでもない。


 こっちはなんのメリットもないんだよ。


 利用されるだけ利用され、勇者に食われるのは辛いよ。


 NTRには耐性とかないんだよ。


 お前には勇者がいるんだ。


 え?


 まさか……


 もしかして二股?


 このビッチが!ぶっ殺すぞ。


「そんなに不安なら勇者にでも頼れ。いつもそうだったろ?」


 俺が冷たい言葉を放つと、今度はアリアに仕えるリアナが悲しそうに目を潤ませる。


 女の涙なんか、俺に通用しないぜ。


 いくら綺麗とはいえ、二股かける女には遠慮なくドロップキックだ。


 アリアはしばし口を半開きにしてから、何かに気づいたかのように頷く。


「アークデビル、私が謝るわ」

「ん?」

 

 何?


 なんで謝るんだ?


「あなたは私のことを今までいっぱい助けてくれたのに、こっちはずっと曖昧な態度ばかり取っていたわよね」

「ああ。そうだ。このビッ……」

 

 喉まで出かかった言葉をやっと飲み込んだ俺は、アリアを睨んだ。


 アリアは俺の赤い瞳をまっすぐ見つめてなんの躊躇いなく言い放つ。


「え?」


 


 


 


 


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