第23話 勇者は深淵を覗きかける(意味深)

執務室


 魔王は自分の部屋に戻り、アリアはリアナと共に執務室にある。


 王都全体が騒然とする中、女王である彼女はリストにいない貴族の人事のことを考えていたのだが、


 彼がやってきた。


「女王陛下、勇者が来ました!」

「……」


 ドアの外の護衛の声にアリアは顔を顰める。


「入って」


 彼女の声がするや否や、ドアが開き勇者が入ってくる。


 勇者は隣にリアナがいることを確認すると、小さくため息をしてからアリアを見て口を開く。


「女王殿下……」


 勇者は落ち着かない様子で、彼女にいう。


「外が偉いことになっています!一体なんの騒ぎですか……」


 勇者に問いにアリアは無表情で淡々と言葉を発する。


「見ての通りよ。私の国を蝕む連中をやっつけているの」

「そんな……なぜ、僕に一言も相談せずにこんな大胆なことを……」


 勇者が両手を開いて説得するようにいうも、アリアは微動だにせず、座った状態で言い放つようにいう。


「この国は私のものなの。だからどうしようが私の勝手でしょ?私は貴方に相談しないと何もできない女なの?」

「い、いや……そういうわけではございませんが、僕、女王殿下のことがとても心配で心配で……」


 震える声でいう勇者。


 アリアは一瞬戸惑いの表情を見せるが、やがて眦を決めて勇者を指差した。


「ライト、貴方は私のなんなの?」


 部屋中に響き渡るアリアの言葉に勇者は何かを思い出して一瞬頬を緩めるが、気を引き締めて口を開く。


「アリア女王殿下は僕の大切な人です!」

 

 勇者の言葉にアリアは


 彼を睨みつけていう。


「私と民は一心同体。民は私のもので、私は民たちの支えによって成り立っていわ。でも、貴方が今まで見せた言動から察するに、私の民のことはどうでもいいように思えてならないんだよね」

「ち、違います!そんなことは!」

「魔王を倒して何がしたいのかはわからないけれど、私は目の前にある問題を解決することが最優先よ」

「じゃ、じゃ!僕が手伝います!何なりと命じてください!」


 勇者は跪いて頭を下げた。

 

 そんな様子を見て、リアナは鼻で笑い顔を背ける。

 

 アリアは勇者を見てすっと立ち上がり、腕を組んで勇者を見下ろした。


「ライト」

「は、はい!アリア女王殿下!」

「貴方は私を助けられないわ」

「え?」

「貴方を知ってから5年という時間が過ぎたの」

「……」

「その間、貴方は私の執務室や部屋に一人で出入りしながら私と多くの時間を共にしたわ」

「そう……ですね」

「でも、貴方が囁いてくれた言葉と行動は、いっときの気休めにはなるかもしれないけれど、根本的な解決にはならない」

「そんな!僕はいつもアリア様ことを思って!」


 勇者の必死こいた表情を向けるがアリアは諦念めいた顔で続ける。


「もういいわよ。そんなの……こんな曖昧な関係を続けて、一体なんになる?」

「幸せが……」

「幸せ?それは貴方にとっての幸せじゃなくて?仮に魔王を倒したとしても、このままだと私は不幸な人生を歩むことになるわ。だって、戦争と腐敗した貴族のせいで、私の民たちは苦しんでいるの!」

「……」

「私はね……」


 アリアは悲壮感漂う面持ちで息を深く知って、勇者に向けて大声で叫ぶ。


「私にとっての幸せはエルデニア王国の民たちが、豊かで幸せな暮らしができることよ!そのためなら、魔王とも手を結ぶ覚悟ができているわ!」


 アリアの宣言じみた言葉を聞いた勇者は、


 立ち上がり、


 声の限りに叫ぶ。


「そんなの、絶対ダメだ!!何を言ってるんだ!!」


 勇者の声を聞いて、アリアは確信に満ちた表情で言う。


「なら、私と貴方が行動を共にする必要はないわね」

「え?」

「魔王からの手紙を破った時からおかしいと思ったわ」

「……」

「私の考えを尊重できない貴方と一緒にいても、時間の無駄よ」

「……」


 勇者は悔しそうに握り拳を作って立ち尽くしている。


 すると、


 ずっと隣で二人の会話を聞いていたリアナが勇者のとこへ歩いてきた。


 それから、


 勇者の長い前髪を上げて、彼の瞳を直視する。


「私も貴様に一つ聞きたいことがある」

「っ、な、なんだ」

「5年前、ワイバーンと戦った後、風呂中のアリア様のいる大浴場に落ちた出来事……あれって、偶然じゃなてアリア様に良からぬ想いを秘めて行った貴様の工作か?」


 リアナに言われた勇者は


 目を見開いて、


 体に電気でも走っているかのようにびくんとなった。


「っ!!!!!!」


 勇者は全身を震わせる。


 そして、

 

 顔の筋肉に力を入れながら、大声で返答をした。


「そ、そんなわけないだろ!!!!」


 勇者の顔には小皺だらけだ。


 彼の答えを聞いて、リアナは殺気を向ける。


「ほお、本当か?貴様の口から出た言葉は誠と言えるのか?」

「っ!不愉快だ!」

「っ!」


 勇者はリアナは強く押し退けてドアのへと行く。


 そして、踵を返してアリアを見つめた。


 だが、キツく睨め付けてくるアリアに気圧され、そのままドアを開けて出て行った。


 またしても二人取り残された執務室。


「リアナ、大丈夫?」

「……はい。お気遣いありがとうございます」

「それで、リアナ。どうだった?ライトのこと……」


 アリアの問いに、リアナは顔を俯かせて何も言わずにいる。


 そんな彼女を慰めるべく、アリアはリアナのところへいき、彼女の肩を撫でた。


「言っていいわよ」

「……」


 優しい女王の声を聞いてリアナは安堵のため息をついた。


 そして、意を決したように女王の青い瞳を見つめていう。


「おそらく、勇者は、私たちじゃ想像もできないようなを心に抱えているのではないかと。彼は危険人物だと思います」

「……」

 

 しばしの沈黙が続いた後、またドアの向こうにいる護衛のものの声が聞こえる。


「女王殿下!大変です!!」


 アリアは目を丸くして口を開いた。


「な、なに?」


「通信魔王で配信したリストに載っている貴族を連れてきた平民や冒険者たちや軍人などで、今王宮内が黒山の人だかりです!」

「そ、そう!?」


 まさか、


 こんなに早く捕まえてくるとは。


 アリアは関心したような表情を向けると、リアナが笑顔を向けてくる。


「魔王様がお作りになった暴露動画とやらのおかげですね!」

「そうだね……まだ結論を出すのは早いけれど……」


 リアナは誰のことを思い出したかはわからないが、頬を薄いピンク色に染めて、ガッツポーズを取る。


「リアナ!これから死ぬほど忙しくなるわよ!」

「はい!」



魔王side


「すげ……なんだこりゃ……」


 周辺がやけにうるさかったので、俺は王宮の入り口へ行き、入ってくる行列を見て呆気に取られた。


「ちゃんと歩け!!」

「アリア様を騙し、俺たちを搾取して得たお金で贅沢三昧だったもんな!もうそんなこととできないぞ!首が飛ぶかもな!」

「ザマ!!」

「俺たちのために使われるはずのお金のほとんどが、お前らの懐に入っていたのかよ!」

「よくもアリア様を侮辱したな!」


 平民や冒険者や軍人などが、貴族らを殴りながら連れ込む姿はまさしく壮観であった。

 

 なぜだろう。


 これは勇者のメインヒロインであるアリアの国の人々だ。


 つまり、俺にとっては他人事である。


 しかし、


 この行列を見ていると、


 めっちゃ気分がいい!


 まるで天国にいるかのようだ。


「ふふふ……」


 俺は溢れてくる笑いを抑えつつ、不正を犯した奴らを見つめた。


 俺が通っていたブラック企業も不正だらけだったもんだ。


 説明会では年間休み125日だと聞いたんだけど、いざ会社に勤めてみれば、106日だったり、新入社員が残業手当を支給するように強く求めてもボーナスを減らすぞと偉い人たちに脅されたり、くだらない社内政治が蔓延るようなろくなところじゃなかった。


 だが、俺は不正を見て見ぬふりをしてきたんだ。


 だから後悔をしていたんだ。


 部長からセクハラを受けた子も守れなかったもんな。


 俺は卑怯者だった。


 卑怯者に後悔はつきものだ。


 だから、今世においては後悔の残らんように、自分の力をフル稼働してやっていこう。


 と思ったルビデ姿の俺は通りかかる罪深きものに対して鼻で笑って口を開く。


「ザマ!!」


 すると、向こうに見慣れた男が歩いてゆく。


 勇者だ。

 

 おい貴様。


 またアリアと会っかた。


 なんの言葉を使ってアリアをたぶらかしたは知らんが


 俺は貴様のハーレムごっこに付き合うつもりはないぜ。


 強制力なんか勢いでぶっ飛ばしてやる!


 イゼベル曰く、街づくりは極めて順調に進められているとのことだ。


 つまり、


 夢の実現までそう遠くない。


 俺は去っていく勇者の後ろ姿を見て、


 中指を突き立てた。

 



勇者side


 

「クッソ……こうなったら……俺も……対策を打たねばな……」


 と、人熱をかき分けて進む勇者。


 やがて王宮を出て人のいない路地裏につく。


「にしても、魔王の奴、なんであんな手紙をなんか送ってきたんだよ!あれのせいで全てが狂ったじゃないか!!」


 興奮する勇者。

 

 だが、やがて何かに閃いたように目を丸くする。


「悪役である魔王の行動パターンが突然変わった……戦争を望まない方向に……戦争をしなければ、俺に倒されることもない。つまり破滅回避…………」


 勇者は意味ありげに言うが


「考えすぎか。とりあえず、ハーレムを実現できる最も効率的な方法を探そう」


 と、つぶやいて、歩いてゆく。




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