第22話 アリアは魔王に依存する

王都


 王宮にある塔の上に魔力によって生じた大きな四角い光が現れた。


 まるで巨大なLEDパネルのようだ。


 四角い光はやがて黒く変わり文字を表示させる。

 

『エルデニア王国の腐敗した貴族たちの実態を暴露!』


 まるで暴露系ようつべ動画に出てきそうなそんなタイトルが現れると同時『ドーン』と大きな効果音みたいなものが聞こえてくる。


「あれ?なんだ?」

「これは通信魔法では?」

「ああ。災害や魔物の侵入など、大事が起きた時だけに王様が使うものなんだけど、はて、なんだこれは?」


 と、王都にいるみんなは足を止めて四角い光を見つめる。


 すると、切実なアリアの様子が映る。


『私は、エルデニアに住む私の民のことがとても大切なの。だから、一人でも多く、私の民が幸せになるのなら……』

 

 フェイドアウトしてから再び文字が現れる。


『誰よりも民を愛するアリア女王』

『だけど、こんなまっすぐで凛々しいお方を陥れる連中が存在する!』

『さあ、とくとご覧あれ』


 文字が消え、例の場面が現れた。


『やっぱり戦争特需ってのはいいんですね!税金を人々から巻き上げ、さらに諸外国からの支援金もやってくる。そして!!その莫大なお金が我々、貴族の懐に入ってくる!!これほどまでに完璧なビジネスはなかなかない。アハズ村なんか捨てて大正解でした!』

『でも、やりすぎるとアリア様にバレる恐れがあります。気をつけないと』

『みんな、ご安心ください。アリア様は気付きやしません。なぜなら、アリア様は、私のことを信頼していますから!』


 アハズ村の領主、財務卿、リベラ宰相の談義の様子を捉えた映像が流れる。


「な、なんだ!あれはアハズ村の領主!」

「財務卿……」

「アリア女王殿下を支えるリベラ宰相まで……」

「一体どういうことだ!?」

「俺たちのアリア様を騙してお金を横流ししたってわけか!?」

「許さん!!私たちの女王になんて事を!」


 最初こそ驚きの連続だったが、


 人々は


 徐々に


 徐々に


 殺意を滲ませて握り拳をする。

 

 だが、大勢の中で一部の暗いの高そうな貴族のものは


 顔面蒼白で震えていた。



とある辺境村



『お父様!裏金のことですが、帳簿や、契約書類を含む全ての書類を地下室の一番奥にある金庫にまとめておきました!』

『ほお、素晴らしい。結構大変な作業だったろう?』

『そうですね……でも、これでやっと効率よく裏金の管理ができるようになりました。なんせ、国家予算の10倍に当たる額ですから!愚かな王女殿下のおかげで、僕たちはガッポガッポうははですね!』

『お、おい、息子よ、そんな軽々しく言ってはならないんだ。誰かが聞くかもしれないぞ』

『大丈夫ですよ。邸宅の周辺には高度な結界魔法が張られています。なので、アリ一匹の侵入もわかっちゃいます』

『まあ、そうだがな。うはははは!まあ、エルデニア王国随一の美女様は我々にとっては最高の君主だよ』

『そうですね!うへへへへ!』

『ひひひひ!』


 通信魔法によって辺境にある村に、裏金に関する財務卿と息子の会話の映像が流れる。


「んだよ!あれは!」

「財務卿とその息子だ!!」

「俺たちはこうやって汗水流して魔王軍討伐のために、莫大な税金を納めているのによ!でも、貴族の連中は私腹を肥やすことばかり考えてんのかよ!」

「国家予算の10倍?ふざけんな!」

「よくもアリア女王殿下に……」

「我々の希望の光であられるアリア女王殿下によくも!!許さん!!」

「俺たちが貧乏なのって、奴らが原因だったのか!!!」


 畑仕事をしている男たちが通信魔法によって表示される映像を見て、怒りを募らせている。


 他にも、魔王が作った他の映像も流れていて、共犯どもの姿が映っている。


 しまいには、


 あるリストが表示された。


ーーーー


腐敗した貴族リスト


SS級


ハイデン財務卿(エルデニア金貨300万枚)

アリウス辺境伯(エルデニア金貨250万枚)

リベラ宰相(エルデニア金貨245万枚)


……


S級


……


A級


……



上記のものが着服したお金は、全額王室のものであり、すでに差押手続き作業が行われています。


上記の金額は全額、民の為の福祉に使われる予定です。


上記のものを捕まえてくるものには莫大な褒美をアリア女王が直々に与えます。


ーーーー


 リストが表示されるや否や、畑仕事をしていた男たちは、急に道具を持ち上げて嘯き始める。


「ちくしょ!!俺たちのアリア様を利用した不埒なやつめ!」

「仕事は後回しだ!我々はアリア女王殿下を守るぜ!」

「てか、あのリストに俺たちの領主も含まれてるぜ……」

「領主の奴め……俺たちを散々搾り取って、重い税金を課すもんだから、気に入らなかったのによ……裏であんなけしからんことをやっていたのか!?」

「血が騒ぐぜ……みんな!一緒に領主をやっつけに行こうぜ!報酬は山分けでいいんだよな!?」

「ああ!俺もいく!」

「多勢に無勢だ!」

「領主が魔法なんか使っても、この道具で八つ裂きにしてくれるわい!」

「おい!殺すのはダメだぞ!いけどりにして、アリア様のとこに持っていかねば!」


 だんだん平民の間で、革命の動きが出始める。


X X X


魔王side


「どうしよう……本当にどうしよう……うまくいくのかしら……」


 アリアは俺の周辺を忙しなくぐるぐる回りながらため息をついている。


 まあ、無理もない。


 アリアは大きな選択をした。


 国の形を変えるような重大な選択を。


「アリア様……」


 リアナもそんな彼女のことが心配なのか、アリアを止めて優しく手を握ってあげた。


「……もし、計画通りに進んだとしても、人事の方が大変そう……リベラ宰相も、ハイデン財務卿も……長年仕事をやってくれて、変わりなどそうそう見つかるはずがないわ……他の役職も……」


 こりゃ、相当テンパってるな。


 確かに、短期間で多くのものを首にすれば、人手不足になる。


 つまり、国政において穴が空いてしまうわけだ。


 しかし、問題はあるまい。


 俺はほくそ笑む。


「くだらない心配をしているな」


 俺の言葉にアリアはぷんんすか怒り気味に捲し立てる。


「くだらない心配ってなによ!自分のことじゃないからといって、いい加減すぎるわ!」


 俺に恨みの視線を向けてくるアリア。

  

 見た目すごい綺麗だから、なんかギャップあってとてつもなく可愛く見えちゃうんだよな。


 俺はクスッと笑って、アリアにいう。


「不正を働いたのは、ほとんどが高い地位についているお偉いさんばかりだ」

「……それがどうしたの」

「ブラックなところだと、みんな逃げちゃうからそうそう見つからないかもしれないが、上役なんか変わりはいくらでもある。だって給料高いし、名誉もあるだろ?誰も喉から手が出るほど欲しがってる」


 超ブラック企業で勤めた俺だからこそ言える言葉だ。

 

 もちろん、新しく雇ったやつが部長みたいなクズなら台無しだが、今はそんなリスクは少ない。


 なぜなら、


 俺は魔王っぽく格好つけて言う、


「不正を働いてない貴族も多いはず。そんな清廉な心を持つ人なら、位が低くてもうまくいくだろう」

「あ、そんな手が……」


 アリアは天啓に打たれたように目を大きく開けて、俺を見つめる。


 よかった。


 正直に言って、なんのメリットもないブラック会社だったが、そこから俺は尊い教えを得ることができたのだ。


 ブラック企業の中でも、仕事がとても上手で心優しい人はいる。


 なぜそんな有能な人は評価されずに、口だけ1人前な無能どもが上に立つのか。


 俺はずっと疑問に思っていたのだ。


 要するに、謙虚な人なら国家予算の10倍に当たる大金を横領する確率は低いし、その分民の生活も豊かになるわけだ。


 まさか、会社での経験がエロゲの破滅回避のために使われるとは……


 やれやれ。


 人生生きてみるもんだな。


 てか、そろそろ俺、魔王城に帰りたいんですが?


 たこ焼き以外にも、もっと美味しい食べ物を作りたいものだ。

  

「というわけで、俺はデビルニアに帰る。頑張ることだな」


 と、言って俺は手を振った。


 すると、


「ちょっと!どこいくのよ!」

「ん?」


 アリアが俺の手を思いっきり握りしめて引き止める。


「デビルニアって言ったろ?お前の耳は飾りか?」

「……そういう意味じゃなくて!!」


 アリアはぶんむくれた様子で語気を強めるが、やがて、自信なさそうな表情で言葉を紡ぐ。


「おそらく王国内は大混乱状態のはずよ……だから、政局が安定するまで……その……行かないでよ」

「は?行かない?だったら、この俺、アークデビルはどこにいたらいいんだ?」

「……私のそばにいて」

「え?どういう意味だ?」


 突然すぎるアリアの言葉に、俺は戸惑いを覚えていたら、

 

 アリアは


 上目遣いして


「私は貴方のいうことをちゃんと聞いたわ……だから責任取りなさい……」


 やっべ……

 

 これはまさしく勇者に向けるあの表情だ。


 かわいい……

 

 かわいいすぎる……


 この子の言ってることはめちゃくちゃだが、そんなの相殺してあまりあるほどの可愛さだ。

 

 てか、言い方に悪意を感じる。


 ああいうセリフって普通一夜を共にした後に出す言葉じゃねーのかよ。


 お前は勇者と数え切れないほど寝るんだよな。


 俺はため息をついて答える。


「はあ……あまり長居はできないぞ」

「……わかったわ」


 俺の言葉を聞いて安堵のため息をつくアリア。


 だけど、繋がった手はまだ離れてない。



X X X


勇者side


「なんだこれは!?」


 魔物退治から戻ってきた勇者は目の前に広がる光景を目の当たりにして驚愕する。

 

 王都の人々が高位貴族の屋敷をぶっ壊したり、貴族たちを袋叩きにしているからである。


 隣にいるヒロインズ(ルイス、サフィナ、アンナ)も目を丸くしていた。


「一体なんの騒ぎ?」

「これはただ事ではありません!」

「暴動のようには見えない。特定の人物とそのものの資産だけ狙っているの……あ、もしかして、あの上にあるリストと何かしらの関わりがあるのかしら?」


 大聖女アンナに釣られ3人がリストを見て考え込む仕草を見せるが、勇者は足をガクガクしながら、頭を抱えて小声で漏らした。


「こんな展開はないはずなのに……一体どういうことだ……」


 勇者の反応にヒロインズはキョトンと小首を傾げて勇者を見つめる。


 勇者はというと、かっと目を見開いたのち、冷静を装う。


「アリア王女殿下のところへ行ってくる!」


 言って、勇者は走ってゆく。


 3人はそんな勇者の後ろ姿を呆然と見ているだけだった。


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