第21話 暴露動画


 俺が考案した方法を試すためには、いろんな情報を収集する必要がある。


 この前の千里眼と盗聴(ヒアリング)によって得られた映像だけだと物足りない。


 あの宰相、財務卿、アハズ村の領主以外に共犯はいくらでもいるはずだ。


 なので、掃除係である俺は王宮を綺麗に掃除してから、長期休みをもらって、腐敗した貴族を探すために動いている。


 もちろん、映像の確保も大事だが、奴らが隠し持っている財産の在処を探して確保することが最も重要である。


 転生前の俺は経理社員である。


 超ブラック企業の経理だったのだ。


 なので、部長の仕事も全部俺がやってたから、お金の流れに関しては結構詳しいといえよう。


 普通、大金は一ヶ所に置くことは非常にリスクが高いため、分散して隠しておくのが定石だ。


 そして、そんな不正なやり方で集めた莫大なお金を管理する主体となる人物が必ずいる。


 おそらく財務卿なのだろう。


 財務卿が直接管理するか、彼が最も信頼する人に任せて報告を受けると言う二択が考えられる。


 つまり、


 財務卿を尾行すれば、他の共犯どもも一気に特定出来るはずだ。


 そう思った俺は財務卿の邸宅へと向かった。


 リアナと共に。


 なぜリアナも一緒なのかというと、俺一人にだけ負担をかけるのは申し訳ないと言って、アリアがつけてくれた。


 一人で動いても構わないのだが、なぜかリアナは積極的に俺に協力すると言ったので、断れずに今に至る。


 潜入ミッションと聞くと緊張感漂うそんなシーンを思い浮かべる人が多いが、俺に限ってはそんなことはない。


「……あの、魔王様」

「なんだ?」

「なぜ、たこ焼きを食べているんですか?」


 財務卿の邸宅と少し離れた木下で面倒くさそうに腰掛け、たこ焼きを食べる俺にリアナはジト目を向けてきた。


 俺は淡々と答える。


「お腹が空いたからだ。アツッ」

「……真顔で言われてもですね……私たちは一早く財務卿のことを調べないといけません。警備は厳しいですが、おそらく魔王様と私じゃバレずに潜れるかと……魔王様と私が一緒に……」


 後ろに行くにつれてリアナは照れくさそうにもじもじする。

 

 なんだよ。


 こいつは解せぬ反応を見せることがしばしばある。


 まあ、催促されても行く気はゼロだがな。


 俺はたこ焼きを飲み込んで口を開いた。


「逆に聞こう。なんであの邸宅に入る必要がある?」

「情報収集のためです」

「リアナ」

「え?」

「お前は誠実な女だ」

「女……私を女だと……」


 いや、なんで感心してんだよ。


 突っ込みどころそこじゃないだろ。


 俺は自分の考えを包み隠さず言う。


「楽な道があるのに、わざわざ難しい方法を選ぶのは間違っている」

「ど、どういう意味ですか?」


 俺は座った状態で右手をあげて唱える。


「千里眼、盗聴」


 そして、右手の指に神経を尖らせると、映像が現れた。


 財務卿と息子と思しき若造がいる。


 ふむ。

 

 間違いなくあの若いやつは財務卿の息子だ。


 二人とも見事に禿げている。


 素晴らしい逆ツーブロックカット。


 てっぺんが見事につんつるてんだ。

 

 息子と思しき男は目を光らせて、実に明るい表情で財務卿である父に何かを話す。


『お父様!裏金のことですが、帳簿や、契約書類を含む全ての書類を地下室の一番奥にある金庫にまとめておきました!』

『ほお、素晴らしい。結構大変な作業だったろう?』

『そうですね……でも、これでやっと効率よく裏金の管理ができるようになりました。なんせ、国家予算の10倍に当たる額ですから!愚かな王女殿下のおかげで、僕たちはガッポガッポうははですね!』

『お、おい、息子よ、そんな軽々しく言ってはならないんだ。誰かが聞くかもしれないぞ』

『大丈夫ですよ。邸宅の周辺には高度な結界魔法が張られています。なので、アリ一匹の侵入もわかっちゃいます』

『まあ、そうだがな。うはははは!まあ、エルデニア王国随一の美女様は我々にとっては最高の君主だよ』

『そうですね!うへへへへ!』

『ひひひひ!』


 おお、


 早速裏金の話をしていたなんて、なんという好都合展開!


 まあ、いくら高度な結界魔法を張ったとしても、この世で最も強力である魔王の探知魔法までは感知できまい。

 

 俺は早速千里眼を邸宅の地下にもめぐらせてみる。


 確かに見える……見えるぞ……


 奥深いところに巨大な金庫がみえ、中には数え切れないほどの書類が……


 よし!


 覗かせてもらおうぜ。


 と、俺が口角を釣り上げると、


「アリア様を侮辱するなんて……許さない……絶対許さない!!クッソ!クッソ!……ちくしょ……」


 リアナが怒り狂った表情で木に拳を当てている。

 

 やがてリアナの手が擦れて血が滴り落ちる。

 

 まあ、確かに自分が仕える主をあんなふうに言われたらキレるよな。


 俺は悔しそうに泣きながら木をぶっているリアナの方へ行って彼女の腕を抑える。


「リアナ、やめろ」

「……魔王様」

 

 切なく俺を見つめるリアナ。

 

 俺はそんな彼女の血まみれになった手を握りしめる。


 それからヒーリングをかけてあげた。


 魔王はヒーリングも使えるぞ。


 やっぱりチートキャラだぜ……


 と、心の中でドヤ顔を浮かべたのち、リアナに魔王面で語る。


「これからエルデニアは、我が国と国交を結ぶ予定だ。つまり、俺が世界を支配するにおいて非常に重要な存在といえよう。そこのトップであるアリアを侮辱するのは、この俺、アークデビルを侮辱するのと一緒だ」

「え?」

「つまり、俺も非常に腹が立っているということだ」

「……」

「もう少しの辛抱だ。だから落ち着け。綺麗な手が台無しだろ」

「……」

  

 リアナは俺の言葉を聞いて俯く。


 俺、ちゃんと魔王としての威厳を保ちながらリアナを慰めているんだよね……


 女性経験ないからよくわからん。


 みたいな不安が脳裏を過るが、


 リアナは切ない表情を向け、


 俺に抱きついた。


「おい、リアナ!?」

「魔王様……あなたに害を与えるつもりは全くございません。このまま少しいさせてください……」

「ああ」


 まあ、この子も色々あるもんな。


 両親を亡くしたアリア。


 そんな彼女の手足となってずっと仕えてきた彼女。


 きっとアリアと動揺、精神的に疲れていることだろう。


 数分間、リアナは俺にくっついたまま、動かずにいる。


 俺はその間に、千里眼で金庫の中にある書類の全部をコピー(スクショ)した。


 仕事を終えても、リアナは俺の体にくっついている。


 俺はそんな彼女を優しく押し退け、収納ボックスからたこ焼きを取り出した。


「食え」

「……」


 目元が腫れているリアナは、俺からたこ焼きをもらって、地面に座り、爪楊枝を使ってそれを食べ始める。


「あつっ!ん……美味しい……」

「当たり前だ」

「……あの魔王様」

「ん?」

「魔王様が世界を支配すると、エルデニア王国はデビルニアの属国になるんですか?」


 ん……


 難しい質問だな。

 

 だって、俺は世界を支配するつもりはこれっぽちもないんだからな。


 あれはハッタリだ。


 でも、リアナにそれを明かすわけにはいくまい。


「ああ。そういうことになるんだろうな」

「……」


 言われたリアナは頬をピンク色に染めて、俯く。


 なんで嬉しそうに微笑んでるんだよ。


「本当にあなたは本当に悪い人ですね……」

「魔王だからな」

「……」


 リアナは無言のまま、たこ焼きを食べてゆく。


 ちなみにおかわりを4回もした。


 この子、結構食うな。


X X X


数日後


王宮地下室のとあるところ


 あの逆ツーブロックの息子がまとめてくれた書類のおかげで、腐敗した貴族の全容を掴むことができた。


 それだけでなく隠しておいた裏金の在処も突き止めることができたのだ。


 俺は入手した証拠をアリアに全部与えて、をした。


 現在、俺とリアナとアリアは王宮地下室の奥深いところにいる。


 目の前には巨大な魔石で作った青色の水晶があって、アリアはかなり緊張している様子であった。


「本当にやるわよね?」

「ああ」

「うまくいくのかしら……」

「この魔王アークデビルの知恵を疑うのか?この愚かな女王」

「……」

「それよりもだ。俺の指示通りにしたよな?」

「したわよ……ちゃんと王国内に住む民全員が見れるようにセットしてあるから」

「なら問題あるまい」

 

 俺は目を瞑ったのち、しばし瞑想する。


 そして


 ほくそ笑んで目を開けた。


 俺はアリアに命令する。


「アリア、始めろ!」

「わかったわ!!」


 すると、アリアは水晶に夥しい量の魔力を注ぎ込む。


 それと同時に俺は、これまで千里眼と盗聴(ヒアリング)で作った映像を編集したものを水晶の前に表示させた。


 さ


 見せてあげようか。


 エルデニア王国に住む全ての人々に、


 炎上を目的としたっちゅうもんをな。

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