第20話 アリアと魔王は約束する
俺は王宮内の職員専用の部屋で絶賛休み中である。
まあ、確かに何もせずにダラダラするのはとても心地よいことだが、アリアと勇者との間で交わされた会話のことを思い出すと、怒りが芽生えてくる。
やっぱり強制力か。
やつの目的は俺を倒してエロゲの主人公としての役割を果たしまくること。
だが、そんなことは絶対させない。
俺も生きたいんだもん!
みたいなことを考えながら、何もせずにいると夕方になる。
リアナ曰く、今日アリアに呼ばれる可能性あるとのことだ。
まあ、別に今日じゃなくたって構わない。
会社で死ぬほどこき疲れてきてわかったこと。
それすなわち
急ぐな。
急いで仕事したとしても、あんたたちの給料は上がらんし、社長は『お!こいつなかなか頑張るな!給料上げるつもりないのに、お得感絶大!!』みたいなこと考えてるんだぞ。
というわけで、俺はダラダラ三昧を決め込んだ。
必死にだらけて、王宮のまずいただ飯食いまくってやるん!
収納ボックスにたこ焼きをたくさん入れておいたが、あえて俺は王宮の飯を食うんだ!
そんなことを考えたりもするが、やっぱりアリアのことが心配だ。
俺がベッドで横になった状態でため息をついていると、誰かがドアをノックした。
俺は探知魔法を使って確かめる。
どうやらリアナがやってきたようだ。
「入っていいぞ」
すると、ドアが開けられる。
「魔王様」
フードを被ったリアナが俺を見つめてきた。
誰もいないし、魔王口調でいいよな。
「なんの用だ?」
「アリア様が呼んでおります。部屋でご食事でもと」
「おお……そうか」
「すでに用意してありますので、ご一緒にどうぞ」
「ああ」
俺はルビデから元の姿になり、彼女と窓から降りた。
アリアの部屋
アリアの部屋に行くと、4人用のテーブルに実に美味しそうな食事が並んでいる。
いい匂いがするパンと肉の数々、新鮮な果物と野菜、高そうなワインなどなど……
ただでさえ財政逼迫してんのに、こんな贅沢な食事を用意させてもいいのだろうか。
「とりあえず食べながら話しましょう」
「……」
アリアが提案するも、俺は無言のまま立って、テーブル見つめている。
そんな俺を怪しいと思ったのか、アリアは
「何?」
視線で続きを促すアリア。
ここは魔王モードだぜ。
「愚かな。お前らの民は貧困な生活を強いられているのに、こんな贅沢な食事が喉を通ってもお前は何も感じないのか!?」
俺が剣幕で怒ると、アリアが唇を噛み締めて顔を俯かせる。
ストーリーが変わったことで、アリアが贅沢に目覚めでもしたというのか?
俺は疑ったが、アリアは何かを思い出したように、顔を上げて俺を睨みながらいう。
「違うわ。あなたと話があるから凝った食事を用意させたの!普段は私も乾いたパンに水っぽいスープだから!」
マジか。
一国の王女がそんなまずいもの食ってもいいのかよ。
俺がやれやれと言わんばかりにため息をついていると、アリアがプンスカ怒ったように頬を膨らませる。
「とにかく食べるわよ!座って」
おお、なんだか、素のアリアの姿が見れた気がする。
俺たち2人は食事をした。
リアナは俺たちを見守っているだけだった。
食事を終え、お茶を飲んでいると、アリアが何かを決心したように頷いて俺の瞳を見つめ話す。
「アーク・デビル」
「なんだ?」
「確かめさせて」
「何をだ?」
「本当に……あなたは、腐敗した貴族を一網打尽にする方法を知っているわよね?」
「もちろんだ」
「……」
アリアは考え込む仕草を見える。
真っ白な皮膚を保つ彼女の思案顔はあたかも彫刻師によって作られた一つの作品を連想させるほど魅力的だ。
アリアは短くため息をついた後、目をカッと見開いて立ち上がった。
そして宣言するようにいう。
「私は、エルデニアに住む私の民のことがとても大切なの。だから、一人でも多く、私の民が幸せになるのなら……」
一旦切った彼女は深呼吸をしながら、俺を指差していう。
「あなたか示した条件を飲む!魔族との戦争を辞めて、私のエルデニア王国は、あなたの国・デビルニアと国交を結ぶと約束するから!だから、私に悪徳貴族を処分する方法を教えなさい!」
「……」
驚いた。
もちろん原作での彼女もプライドが高く、幼いながらそれなりに女王としての役目を果たし、民を愛するツンデレキャラとして描写される。
しかし、それは勇者や信頼する助力者あってのことだ。
だが、信頼していた宰相の実態を知ってしまった。
精神的に結構きついはずなのに、こんなに堂々としている。
それだけじゃない。
自分の民のためなら、勇者が毛嫌いする俺とも手を結ぶという勇断を下す。
並の人間にできることじゃない。
いや、アリアはエロゲのメインヒロインだから並という範疇には入らないか。
柔らかい青い髪、整った目鼻立ち、透き通るような青い瞳、華奢な肢体、そこそこある胸、それらを包む青と白を基調としたドレス。
神様の息吹ですぐにでも飛んでなくなってしまうほど、彼女は儚くも美しい。
だが、決して踏み込めないオーラがある。
このオーラが彼女を彼女たらしめる働きをし、原作とは違う魅力を俺の脳に刻む。
やっべ……
今まで勇者のヒロインとしてしか見てなかったが、
こりゃ、
勇者には勿体無いかも
みたいなことを思う俺であった。
「……何か言いなさいよ……黙られると、たまったもんじゃないわ」
彼女は頬を若干ピンクに染め、俺にジト目を向けてくる。
ゲームでなら、こんな展開はありえない。
だから、こっちとしても
全力で助けるべきだよな。
俺はほくそ笑む。
「終戦と国交に関しては、悪徳貴族を全員成敗してからでも構わない」
「うん……ありがとう」
「俺が考えた方法を試したら、間違いなくあの貴族らは壊滅的なダメージを受け、王権の強化も見込める。お前が動く必要もない」
「……そんな方法ってあるの?魔王のあなたに言うのもアレなんだけど、相手はエルデニアでも、かなりの権力を持つ貴族たちよ。私ですら始末に負えないわ」
「ふっ愚かな人族がいくら頭を振り絞って頑張っても、この俺、アークデビルの知能の前では赤ちゃんレベルだ」
「……」
「本当に、お前は運が良かったな。この俺、アークデビルの知恵を借りることができて」
「……勿体ぶらないで早く言いなさい!!」
おい、この子、素丸出しでいきなりきつい言い方になってるよ。
これは魔王としてのメンツが……
と、思ったが、アリアは最初こそ仏頂面だったが、次第に頬が緩む。
なんだよ。
かわいいだろ。
俺が彼女から目を逸らすと、リアナの姿が見えた。
リアナは、とても満足そうに俺たちを見て頷いている。
いや、まだ何も言ってないのに、そんな顔されると面映いよ。
俺は胸を撫で下ろし、二人に方法を説明した。
アリアside
魔王が去った後、アリアは口を半開きにしつつしばしボーッとする。
そして驚いたようにリアナに話した。
「あんなことを思いつくなんて……アークデビルは本当にとんでもない男だわ」
「そう……ですね。いったい何を食べたらあんな発想ができるんでしょうか……あ、たこ焼きか、ジュル」
リアナが涎を垂らしているが、アリアが心配そうにため息をついた。
そんな彼女の様子を見て、急に唾を飲み込むリアナは問う。
「どうかされましたか?」
「……」
しばし沈黙が流れた。
だが、アリアは吹っ切れたように笑顔を浮かべる。
「なんでもないわ!やるからには徹底的にやらないとね!だって、私は女王だもの。民たちを養う義務があるから!」
アリアの発言を聞いて、リアナは頭を下げ、微笑みながら言う。
「私はアリア様がどのような立場に置かれても、身命を賭して助けます」
「ありがとう!」
「きっとうまくいくはずです!」
「そうね!そう信じなくちゃ!」
色めき立つアリアの部屋。
ここに勇者の面影は見えない。
魔王side
『うわあああああ!!!!!魔王様しゅごおおおい!!』
「っ!イゼベル!うるさい!」
『すみましぇん』
部屋に戻ってイゼベルにアリアと交わした約束のことを話すとこの有様だ。
『にしても魔王様、悪役貴族をどのように一網打尽にできるのか、私にもその方法とやらを教えていただけますか?』
「あ、そうだな。かくかくしかじか……」
『なっ!?そんなことを思いつくなんて……実に魔王様らしくドSでございます……これは悪徳貴族たちがかわいそうに見えるほどですね……いや、かわいそうなんかじゃございません。羨ましい!羨ましすぎる!!どうかこの私の体にもドSな魔王様の逞しいあ』
「切るぞ!イゼベル!」
『ああ!待て!待って魔王しゃま!!』
本当にこの子は色々いかれていやがる。
まあ、これがイゼベルの持ち味なんだから仕方ないんだよな。
俺がため息をついていたら、今度はイゼベルがとても落ち着いた声音で話しかけてきた。
『ところで魔王様』
「なんだ?急に改まって」
『アリアというクッソ生意気な子も、魔王様のハーレムに入れるのはいかがですか?』
「君は何言ってるんだ……今は色々忙しくてな。連絡事項がないなら切るぞ」
『うっふふ。そうですね。今は、お仕事頑張ってください。このイゼベルは、いつも魔王様の味方でございます』
イゼベルと話を終えた。
ドット疲れが押し寄せてくる。
明日からは本格的に動くことになるんだろう。
悪徳貴族らは部長みたいなクソ連中だ。
徹底的に潰してやろう。
徹底的にな。
決して私情を挟んでない。
本当だぞ。
俺はほくそ笑む。
「ふふふ」
見てろよ。
原作のシナリオと強制力なんか
俺がぶっ壊す!!
「ふふふふ、あはははは……あはははは!!!あははっゲホ!ゲホゲホ!!ゲッホ!!!!」
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