第16話 勇者は疑われる

 正直に言って俺もかなりショックを受けている。


 アリアの部屋に行く時に千里眼を使ったけど、王宮の地下でこの3人が談義する姿が見えたんだ。


 3人の顔がどう見ても絶賛悪役面だったから盗聴を使ったら、これだ。


 特にリベラ宰相。


 彼は作中でも、アリアが信頼する助力者としてしばしば登場する。


 両親を殺されてからのアリアは精神的に追い詰められるが、リベラ宰相、リアナ、勇者が彼女を助けるんだ。


 作中でのリベラは好印象のはずだが……


 こんな悪巧みをするほど腐敗してしまったとはな。


 待てよ。


 よく考えてみろ。


 原作通りだとすれば、魔王である俺を倒した勇者のハーレムにアリアが加わる。


 ひたすらエッチシーンが延々と繰り返されるのだ。


 つまり……


 !!!


 これはあくまで個人的見解の域を出ないが、おそらく原作の中でアリアが勇者とピンク色溢れる生活を送っている間に、アリアの国は相当やばいことになってゆくんだ。


 それってハッピーエンドって言えるのか?

  

 もちろん、ゲームをプレーする男性ユーザからしてみれば、それはもうハッピーなわけだが、アリアに焦点を当ててみれば、明らかにバッドエンドだ。


 俺も結構動揺しているんだが、アリアは大きなショックを受けているらしい。


「……」


 そりゃ長年信頼していた人があんなだったら誰もこうなるわな。


 落ち込んでいるアリア。


 そんな彼女にリアナが物憂げな表情で近づく。


「アリア様……」


 そっと彼女の肩に手を乗せるリアナ。


 そんなリアナの手を思いっきり振り解いて睨むアリア。


「私に触れないで!!あなたも、あの人と同じ……」

「アリア様……」

「っ、ごめんなさい」

 

 我に返ったアリアは俯いたままリアナに謝る。


 なんか可哀想だな。


 今のアリアは誰も信じられない状態にある。


 それに加えて自分の醜態を魔王である俺にまで晒してしまったのだ。


 やべ……


 めっちゃ助けたい。


 俺、超強い魔王だし、その気になればできんことはない。


 困った人を見たら助けるという俺の人間としての性は転生しても無くなっちゃいないか。


 父ちゃん、母ちゃん、俺をこんな息子に育ててありがとうございます!


 でも俺魔王だし、下手に動いたら返って不審を買うだけだ。

  

 自分の破滅フラグを回避することも肝要だが、他人がバッドエンドを迎えることを見て見ぬふりをするほど、俺は腐っちゃいない。


 俺は口を開く。


「ふ、お前は無能な王だ。他人に振り回されて、利用されて、自分一人では何もできない」

「……」

「魔王様、口を慎んでいただけますか?それ以上アリア様を貶すつもりなら、容赦致しません。私があなたより弱いとしても」


 いつしか短剣を持って俺を威嚇するリアナ。


 俺はリアナを指差してアリアに言う。


「こんな立派な忠臣を疑うような醜態を晒すとはな」

「ふえ!?」


 リアナは変な音を出しながら短剣を落とした。


 なんだよ。


 反応がいちいち可愛いだろ。


 俺はアリアにさらに続ける。


「悲しいか?悔しいか?虚しいか?心が痛いか?何もかも諦めたいか?どうせ自分が頑張っても何も成し遂げられないと思うのか?」

「……」


 俺の問いにアリアは目を丸くして俺を見つめてくる。


「だがな、お前が中途半端な態度を見せると、奴らはもっと調子に乗ってマウント取りたがるんだ」

「……」

「やられたぶんやり返さないと、お前が抱えている負の感情は解消されることなく永遠にこびりついたままだ」

「そ、そんな……」


 と、アリアが悲しい面持ちでため息をつく。


 俺は力んでさらに嘯く。


「泣き寝入りは美徳じゃない。お前の泣き寝入りは、お前とお前の王国を搾取しようとする貴族らの養分となるだけだ!」

「……」


 そう。


 アリアはずっと泣き寝入りしてきた。


 いくらプライドが高くても、所詮少女だ。


 諸外国の軍が自分の王国に駐屯して理不尽なことをしたとしても、泣き寝入りし、時々貴族らになめられることがあっても彼女は我慢した。


 けれど、彼女は凛々しくあろうとする。


 その想いを勇者にぶつけるけど、勇者はたらしみたいな言葉でアリアを丸込んで自分に依存させる。


 だが、そんな勇者の行動が果たして正しと言えるのだろうか。


 ふと、そんな疑問が浮かんでくる。


 あと俺がここまで熱くなれる理由ってもんも確かに存在する。


 アリアを助けたい気持ちももちろんある。


 けれどそれは1割弱だ。


 俺が熱くなれる理由、


 それは


 クッソ部長のせいだ!!


 今まで散々パワハラしまくってよ!


 バカみたいに泣き寝入りしてバカみたいに働いた俺は愚かだった。


 クッソ……

 

 パワハラと労働基準法違反で、労基に訴えればよかったんだ。

 

 今頃、あの部長は他の社員をいじめていることだろう。


 つまり、


 アリアにとって財務卿、アハズ村の領主、リベラ宰相は、俺にとって部長みたいなもんだ。


 それっぽいことをほざいて、自分の私利私欲を満たすような連中に他ならない。


 だから俺は言ったのだ。

 

 しかし、


 俺がアリアに発した言葉は単なる自己満足に過ぎないだろう。


 彼女を助けると言っておきながら、自分勝手なことをいうなんて、俺も人間できてないな。

 

 まあ、俺魔王だしな。


 と、若干落ち込んだ表情をしていたら、アリアは、深海のような目を丸くし、俺に近づいて、


 叫ぶ。


「本当にそうだわ!!!」

「え?」

「どいつもこいつも!!私を利用しようとするヤツばかりで、うんざりだわ!!ああ、なんかあんたの話を聞いていたら、無性にムカついてくるわよ!!」


 アリアは地団駄を踏んだ。

 

 すげ……

 

 アリアのツンデレはいっぱい見てきたつもりだが、こんな心の底から本音をぶつけるアリアの姿は初めて見る。


 なんか、初々しくて愛着が湧くぜ。


 彼女も俺と同じ感情を抱いているのだろう。


 なんか同士って感じがする。


 同士には特別なプレゼントをあげる必要があるんだよ。


「おい、アリア」

「なに?」

「魔族との戦争を辞めて、我が国と国交を結ぶと約束したら、お前を利用する腐敗しした連中を一網打尽にする方法を教えてやろう」

「え?」


 聞き返したアリアの目には好奇心が宿っているように見て取れる。


 リアナはというと、俺に憧れの視線を向けているようであった。


 長年鬱積した社畜パワーは異世界でも通じるようだ。


 

数分後

  


「と、思っていた俺がバカだったな。やっぱりうまくいくわけないよな」


 姿を変えた俺は頭を抱えながら自分の部屋に向かっている。

 

 アリアは『あんたの言葉を丸ごと信じるわけにはいかないわ!だから今日のところは出ていって頂戴!ふん!』って言って俺を追い返した。


 なんだよ。


 なんでいきなりキレるんだよ。


 どんな思考持ってるんだい。


 ったく、これも原作の強制力ってやつか。


 俺はぶつぶつ言いながらお月様を見上げた。


「今日は月が綺麗だな」



アリアside


アリアの部屋


 二人取り残されたアリアとリアナ。


「全く……魔王って本当におかしな人だわ」

「そうですね……まるで、アリア様を口調でした」

「……」


 リアナの意見にアリアは口をキリリと引き結ぶ。


 そんなアリアに、リアナは問うた。


「それで、アリア様は、これからどうされるつもりですか?」


 言われてアリアはため息をつき、それとなく言う。


「ライトに話してから決める」

「そうですか……」


 ライトという名前が出た途端、リアナは目を細めた。

 

「それでは、私はそろそろ失礼致します」


 言ってリアナは頭を下げたのち、踵を返した。


 すると、アリアがリアナを呼び止める。


「あ、待て!」

「ん?」


 リアナは再び踵を返してしてキョトンと小首を傾げた。


「もう一度言うね。あなたを疑うような言葉を言ってごめんなさい」


 アリアの言葉にリアナは微笑みながら言う。


「私は、アリア様のこういうところが好きです。これからもよろしくお願いします」

「うん!おやすみなさい!」

「おやすみなさいませ」


 部屋を出たリアナは考え込む仕草をする。


 魔王が見せた映像は作られたものではなく、本物だ。


 口の動き、シワの数、音、目、などなど……


 間違いなく本物だ。


「……」


 リアナは映像に出てくる3人の会話を思い出す。


 その中でも、特に気になる言葉がある。


 それは


『ご心配には及びません。勇者様は自分の欲望を満たすことしか興味ない半端者ですから』


 宰相であるリベラの口から出た言葉だった。


 リアナは疑り深い目で呟くのだ。


……」







追記



これからだんだん面白くなりますので、★とハート、お願いしまっす!

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