第15話 物語の裏面が明かされる
奴らは間違いなく勇者とメインヒロインたちだ。
魔女の姿をしたルイス、エルフ族の姫サフィナ、そして大聖女のアンナ。
状況から見ておそらく王宮で魔王軍討伐のための会議をした後なのだろう。
どうする?
今の状況においては勇者より俺の方が強い。
ということは、今早速勇者を葬り去って……
待て!
それはやっちゃダメなやつだ。
んもう、勇者を見るなり殺意が芽生えてくるあたり、俺もどうかしている。
仕方ねーだろ。
あんな前髪だけクッソ長いモブっぽいやつが、絶世の美少女たちを抱くんだよ?
エロゲをプレーした時の勇者容姿なんて、気にも留めなかったが、あんな顔もよく見えないやつが、俺を倒してピンク色溢れるハーレムを味わうんだよ。
怒らずにはいられねーだろ。
てか道ゆく人々ってなんの疑問も抱えないのだろうか。
どう考えても釣り合わないだろ。
勇者のヘアスタイルって家に引きこもって半年くらい自堕落な生活をすればできるあれだぞ。
あんなワカメを顔全体にくっつけたような奴を勇者だと褒め称えていいのかよ。
ゲームをプレーした時の俺は何の疑問も抱かなかったけど、違う立場になってみたらやっぱりこれはおかしい。
てめえはヒロインたちとイチャイチャしないで、迫害を受けている弱い人族を助けろよ。
魔王である俺が助けてどうすんだ!
だが、ここで騒ぎを立てるわけにはいかない。
やつは救国の英雄扱いを受けているんだ。
下手に動くと俺の方が不利な立場に置かれる。
なので、俺は歯軋りしながら、勇者御一行様を見つめるだけに留まる。
そしたら、勇者を除くヒロイン3人が俺の視線に気がついて、目を丸くしたのち、俺を見つめる。
やっべ……
いくら姿を変えたとはいえ、気をつけないと!
なので俺は咳払いをし、平静を装う。
まあ、大丈夫だろう。
魔王の強過ぎる魔力はすでに隠蔽魔法を使ったので探知魔法を使っても正体はバレまい。
みたいなことを考えている矢先に、
勇者のヒロインでありヤンデレ属性の大聖女アンナが俺を見て目をカッと見開く。
おいなんだよ。
なんでまじまじみてんだよ。
俺は正体を隠してんだ。
あの子はヤンデレ属性だから目つきが怖いだけか。
にしても、アンナを見ていると、エッチシーンが思い浮かぶぜ。
聖女でありながらヤンデレ属性ってのがギャップありすぎて、マジですごかった。
目の色を無くし、沸る欲望を勇者にぶつけたのは、鳥肌ものだった。
あれはエッチじゃなく、単なる捕食だったな。
俺は苦笑いを浮かべながら、王宮の中へと入った。
ルビデと名乗って推薦状を見せたら、王宮の中にいる行政官は俺に王宮清楚員であることを証明する札とユニフォームを与えられ、泊まる部屋に案内された。
夜になった。
飯は職員用の食堂で食べた。
お世辞にも美味しいとは言えなかった。
乾いて硬くなったパンと水っぽいスープが全てだからな。
王宮に勤める職員たちもこの待遇だ。
他はもっとひどい生活を強いられているのだろう。
にしても、おかしい。
エルデニア王国は俺の国と隣接しているため、緩衝地帯としての役割を果たす。
ゆえに、帝国を含む様々な国から援助をもらっているはずだが、こんなに財政が逼迫しているとは思わなかった。
ご飯を食べて部屋で休んだら約束の時間になった。
いよいよ活動開始だな。
俺は部屋を出る。
ここは職員棟。
アリアの部屋まではだいぶ離れている。
だが、問題ない。
「クロッキイング」
小さく唱えると、俺の姿は見えなくなった。
これは物体を透明にする魔力を体に纏うことで、周りから見えなくすることができる技だ。
男なら是が非でも欲する能力である。
あらかじめ決めておいた約束の場所へと向かう俺。
途中、探知魔法である千里眼を使って罠とかがないか確認しておく。
「ん……少なくともアリアが住んでいるところは大丈夫そうだな。あと……」
俺は地下に視線を向けて顔を顰める。
「ふっ、なんで財政がヤバいのかわかった」
俺はジャンプをし、アリアの部屋のベランダに着地した。
中を覗くと、青を基調とした綺麗なドレスを着用したアリアといつもの感じのリアナが緊張した面持ちでいる。
やっぱりメインヒロインだけのことはある。
めっちゃ綺麗だ。
イゼベルのような爆乳キャラではないが、男心をそそる見た目だぜ……
すでに防音魔法は施してあるな。
俺は胸を撫で下ろし、自分を元の姿に戻した。
ツノが2本、赤い瞳、整った目鼻立ち。
そして格好いい魔王の服。
一国の女王に会うんだ。
これが礼儀ってもんだろう。
クロッキングを解除した俺は、窓を開く。
そしたら、二人が目を丸くして俺を見つめたのち、安堵のため息をついた。
作戦通りにことが運んだことへの安堵なのだろう。
よし。
社畜モードは終了だ。
これからは魔王でいくぜい。
と、気持ちを切り替えた俺は傲慢極まりない表情で口を開いた。
「待たせたな」
と、手を挙げて挨拶すると、アリアが透き通るような青い目を細め、俺を検分するように見つめる。
「あなたが魔王アークデビル」
「そうだ。初めまして、だな。アリア」
「……そうね」
ごめんよ、アリア。
実はゲームで飽きるほど見てたわ。
一瞬、俺の頭にピンク色溢れるアリアの姿が浮かんだのだが、俺は咳払いをして誤魔化した。
アリアは手を組んで、俺を横目に見ながら言う。
「あなたの話はリアナからたくさん聞いたの」
「そうか。この魔王アークデビルの優秀を知ることができてよかったな」
それとなく俺がリアナに視線を向けると、彼女は目を逸らし頬をピンク色に染める。
おい、一体アリアに何を言ったんだい。
俺がちょっと不安そうにすると、アリアは頭を下げる。
「早速だけど、あなたの手紙を破ったこと、謝るわ。ごめんなさい。それに、リアナのこと、気にかけてくれてありがとう」
ほお、プライドが高いことで有名なアリアが頭を下げるとはな。
それほど、彼女は追い込まれたってことだ。
「ふっ、手紙を破ったのはお前じゃなく、けしからん勇者だと聞いた。それに、あの小娘は俺にとって子猫以下だ。そんな弱い女の子に手を出すほど魔王の器は小さくないんでね。だがな」
と、俺は勿体ぶるように間をとってアリアを指差していう。
「俺の補給部隊の下位魔族らを侮辱したてめーらの秘密部隊の男4人には厳罰が降りることだろう。俺のものに手を出したやつは誰であっても容赦しない」
うわかっけ……
俺、今主人公っぽいセリフ吐いたぜ。
アリアは人族だ。
勇者との接点も多く、このままだと間違いなく勇者と結ばれるのだろう。
つまり、赤の他人だ。
どっかの安っぽいNTRものだと、ヒロインを強引に奪う竿役に成り下がるわけだが、俺にそんな趣味はない。
だから割り切れたと思う。
俺に言われたリアナは悔しそうに握り拳を作る。
「わかったわよ。それより確かめたいの」
いってアリアは俺の瞳をまっすぐ見つめて問うのだ。
「本当に人族と争うつもりはないの?」
鋭い視線を向ける彼女の顔は決して嘘を吐くことを許さないとでも言いた気である。
俺は答える。
「俺は争いを望まない。戦争は正しいものとってなんの利益ももたらさない儚い行いだ」
アリアは数秒間、俺の瞳をじっと見つめたのち、関心したように口を半開きにする。
「まさか、魔王であるあなたからそんな言葉を聞けるなんて……」
いって、アリアは何かを考える仕草をし、俺にジト目を向ける。
「んで、魔族と人族の間に争いがなくなったら、あなたは何をするつもりなの?」
問われた俺は、両手を広げて言う。
「戦争に使われるはずの資金を、富国強兵を実現するために使う。そして我が国を誰もが羨む最強の国にして、この世界のトップとしてこの俺、アークデビルが君臨するんだ」
「あんた……めちゃくちゃね」
知ってるよ。
これは単なるハッタリだ。
ひょっとして見抜かれているとか、そんなじゃないよな?
冷や汗が出そうになったが、アリアは真面目な表情で問う。
「アハズ村の住民もあなたのものに含まれるの?」
「もちろんだ。奴らも魔族と等しく、我が国の住民たちだ」
「……」
アリアは一瞬落ち込む様子を見せたのち、切ない表情で言う。
「戦争を辞める。それに関しては私も同じ考えを持っているわ」
「ほお……」
ある程度予想はしたのだが、こんなにあっさり本音を言ってくれるとは思わなかった。
「長きにわたる戦争のせいで、国の財政は厳しくなっているの。多分あなたも知っているはず」
「ああ。食事が乾いたパンと水っぽいスープのみだったからな」
「戦争のせいで、全てが台無しだわ……もっと金があれば、恵まれてない民らが豊かな生活を送れたのに……」
アリアは悔しそうに握り拳を作りテーブルを叩く。
俺はそんなアリアを
鼻で笑った。
「ふっ!馬鹿馬鹿しい!戦争を言い訳に逃げるな!」
「え?」
突然語気を強めた俺に対して、アリアとリアナが目を丸くして驚く。
「お前らに現状を教えてやろう」
俺は彼女に現実を教えるべく、千里眼と盗聴を映像のようにして彼女らに見せる。
俺が見せる映像には3人の貴族が写っており、何やら話している。
うち、お腹が出た貴族が口を開く。
『やっぱり戦争特需ってのはいいんですね!税金を人々から巻き上げ、さらに諸外国からの支援金もやってくる。そして!!その莫大なお金が我々、貴族の懐に入ってくる!!これほどまでに完璧なビジネスはなかなかない。アハズ村なんか捨てて大正解でした!』
「あれは……アハズ村の領主……」
アリアが衝撃を受けたように口を半開きにする。
そしたらメガネを掛けた賢そうな人が言う。
『でも、やりすぎるとアリア様にバレる恐れがあります。気をつけないと』
「財務卿……」
アリアは唇を震わせながら言う。
財務卿までグルだったのか。
そして、もっとも衝撃だったのは
『みんな、ご安心ください。アリア様は気付きやしません。なぜなら、』
年老いた老人が、ほくそ笑んで
『アリア様は、私のことを信頼していますから!』
と言った。
「リベラ宰相……どうして……どうして……」
アリアは絶望に打ちひしがれながら跪く。
にもかかわらず、3人の会話は途絶えることがない。
アハズ村の領主が言う。
『リベラ様、アリア様には勇者という厄介ものがございます。こいつがちょっと気になりますね』
問われたリベラはまたほくそ笑んで答える。
『ご心配には及びません。勇者様は自分の欲望を満たすことしか興味ない半端者ですから』
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