第13話 魔王は変装する

 俺の動揺にリアナも釣られてギョッとなる。


 くっそ勇者のやつ。

 

 ただでさえてめーはハーレムルート順調に築いているのに、俺のささやかな夢を壊そうって言うのか。


 死体蹴りにも程があるだろ!

 

 俺が怒りを募らせていると、リアナは慌てながら仲裁に入った。


「ああ、あの……落ち着いてください……私がここにきたもう一つの理由をその……言えませんから」


 オドオドするリアナ。


 おっと、これはこれは失礼。


 俺は急遽至極真面目な顔をして口を開く。


「言ってみろ」


 言われて彼女は内ポケットに手を突っ込んで手紙を差し出した。


「アリア女王殿下からの手紙です」


 と、言われて俺はリアナから手紙を取る。


 その際に彼女の指と俺の指が擦れた。


「っ!」


 リアナはギョッとなって俺との距離を取って、俺を見上げた。


 んだよ。

 

 別に変なことをするつもりはない。


 俺は絶倫勇者とは違うんだよ。


 と、考えながらため息をついた俺は早速手紙を開けてみる。


「ほお」



ーーーー


魔王アークデビル殿へ


私の名前はアリア・デ・エルデニア。


以前、貴方が送った手紙を真っ二つにして送り返したこと、誠に申し訳ない。


戦争を望まない話、大変興味がある。


よって、貴方のその意志が真か偽りか、直接会って確かめたい。


できれば内密に


返事はリアナへ


ーーーー


「ふむ……なるほど」


 要するに、エルデニアの女王様は戦争を望まぬ話に興味津々で俺に会いたいと。


 やっとアリアの本当の気持ちを聞けてよかったぜ。


 勇者の邪魔はあったものの、これは中々の進捗である。 


 にしても内密か。


 理由はいくつか考えられるが、おそらく勇者や他の貴族たちのことを気にしているのだろう。


 悪巧みである可能性もある。


 いや、アリアに関してはそれはないか。


 まあ、もし悪巧みだとしても、現在、この世で最も強い存在は他ならぬ俺。


 勇者がエクスカリバーを覚醒させてない今においては俺の右に出るものはいない。


 よし。


「……」


 リアナは焦る様子で俺をチラチラ見つめている。


 どうやら俺の返事を待っているようだ。


「良かろう。秘密裏に会うこと自体は問題あるまい」

「は、はい!」


 俺からの返事を聞いてリアナは喜んでいるようだ。


 だが、このまま終わりってのはちょっと勿体無い。


 威厳じゃ。


 魔王としての威厳なのじゃ!

 

 俺は目を瞑って小声でいう。


「しかし……」

「え?」


 厳かな雰囲気を出す俺は目を開けて、リアナの肩を押さえ壁のところへぶつける。


「もし、いけないことを考えてんなら、その時はお前の国、全部滅ぼしてやる」


 そう。


 これくらいやんないと、なめられるんだろう。

 

『謝りますはいオッケー』ってなるほど魔王ってのはお人好しじゃないんだ。


 俺はリアナの瞳を見つめた。

 

 すると、


「っ!!!!!」


 目玉が飛び出るほど、目を大きく開け、口もぽかんと開いている。


 顔は全体的にピンク色だ。


 うん。


 ちょっとビビらせるつもりだったがやりすぎたのか。


 相当怯えているぞ。 


 俺は後ろ髪をガシガシしてすすすっと距離を取る。


「……しょ、しょんなこと……ありません」

「あ、ああ……ならばよろしい」


 なんかリアナのやつ、表情がちょっとえっちな気がするけど。


 腐ってもサブヒロインってわけか。


 くっそ……

 

 こんなえっちな女の子が勇者のものに……


 おい、アークデビル、冷静になるんだ。


 俺にもめっちゃエロ可愛いイゼベルがいるじゃないかい。


 それに、サーラもいる。

 

 あとはかわいいリナちゃんも。


 リナちゃんは癒し系だ。


 元捜査官のラハクセのようなエッチな視線をリナちゃんに向ければ、誰であっても首チョンパだ!!


 ああ……


 3人の事を思い出したら、どんどん頭の中が冴えてくる。


 にしても、どうやって会えばいいのか。


 アリアをこっちまで来させるわけないは行かない。


 と言うのも、あの子は女王として忙しく働いている。


 つまり、

 

 ここは、


 だ。


 息を切らしているリアナに俺は言う。


「俺が直接エルデニア王国へ向かおう」

「は、はい……そうしていただけると助かります」


 安心したように胸を撫で下ろすリアナ。


 そんな彼女の顔を見ていたらあることに気がついた。


「あ、」


 目を丸くした俺はいそいそと玉座のサイドテーブルに向かった。


「……たこ焼き、冷めてるじゃないか」


 そう。


 たこ焼きが冷めた。


 モッツァレラチーズを入れたんだから、冷めると一気に硬くなる。


 モッツァレラチーズって硬くなるとゴムタイヤのような食感と味になるんだよな。


 なので、俺はたこ焼きに魔法をかけて温める。


 ジュワジュワと美味しそうな音と匂いが執務室のあたりを包み込んだ。


 俺は爪楊枝でチーズたこ焼きを口の中に入れる。


「あつっ、ふむふむ……」


 おいちい。

 

 やっぱりたこ焼きはアツアツの状態で頂くに限るよな。


 元々俺は食事中だったんだ。


 勝手に邪魔してきたのは向こうだから、こっちはこっちで堪能させてもらうぞ。


 俺が本格的にチーズタコを食べようとした瞬間、


ぐうううううう!!!


 リアナのお腹が鳴った。

 

「あっ!ん……」


 そういえばもう夕方だし、時間的にお腹がペコペコになる頃合いなのだろう。


 前にも言ったが、俺は食べ物に関しては寛大な方だ。


 恥ずかしがるリアナ。


 アハズ村にいたときは何も食わずに去っていったからな。


 俺は自分の爪楊枝でチーズがたんまり乗っているたこ焼きをブッさし、それをリアナの方へ向ける。


「食うか?」

「……」


 俺に言われたリアナは、モジモジするが、


 やがて、

 

 目をグルグルさせたのち、俺のたこ焼きにパクつく。


 なんだか小動物みたいでかわいい。


 実際小柄でもあるしな。


 あ、


 そういえば、この爪楊枝俺のだった。


 俺は気まずい表情で爪楊枝を抜くと、リアナはモグモグしたのち、


「っ!」


 電気でも走っているように上半身と下半身をくねらせ、恍惚感に浸る表情で


「お、おいしい……」


 熱い息を吐きながら、右手で頬を撫でて目を潤ませる。


 俺は得意げに頷いて、傲慢極まりない表情で言う。


「ふっ、天啓にでも打たれたような顔だな。そんなにおいしいか?」

「……」

「おいしいと認めたら、残りのもの全部くれてやろう」


 俺に言われたリアナは、複雑な顔で唇を噛み締めたのち、口を開く。


「お、お、おいしいです……こんなおいしいものは初めて……」

「良かろう。食うがいい」


 言い終えた途端に、リアナは俺の爪楊枝を奪って早速残りのタコ焼きを堪能し始める。


 ああ、


 チーズたこ焼き、俺の力作だったのにな。


 また後で作るとしよう。


 俺は残念がっていたが、たこ焼きをとても美味しそうに食べている彼女の姿を見ると、気分が良くなる。


 十数分後


「申し訳ございません。その……魔王様のだったのに……」


 食事を終えたリアナは頭を下げて謝った。


 ここでも、格好いい魔王を演じるのだ。


「小娘が、よくも魔王のものをなんの疑いもなく食べる気になったな。毒、或いはもっと酷いものを入れることもできたが」


 と、探りを入れてみるが、リアナは上目遣いをして消え入りそうな表情をする。


「そんなことをするような方には見えませんでしたので」

「なに?」


 やっべ、めっちゃ可愛いこと言うじゃんか……


 魔王の俺を信用してどうすんだ。


 と、俺が若干戸惑いの色を見せたら、リアナは何かを思い出したように目を丸くして問う。


「それはそうとして、魔王様、アリア女王殿下に頼んで、エルデニア王国の王都に秘密の場所を用意させていただいたら良いのでしょうか?」

「あ、会談の場所のことか」

「そうでございます」

「その必要はない」

「なぜ?」


 はてなと小首を傾げる彼女を見て俺は自分の体に魔法をかける。


 そしたら、俺の頭に生えている2本のツノは姿を消し、真っ赤な瞳は灰色に変わる。

 

 服も魔王っぽいものから平民が着ていそうなものへと一瞬にして変わる。


 やっぱり魔王の力って超便利だぜ。


「え?魔王様……これは一体」

 

 姿が変わった俺を見てリアナはびっくりしながら口を半開きにする。


 俺は魔王らしく怠惰で傲慢な顔をしてほくそ笑んだ。


「アリア女王に伝えろ。俺を雇えと」

  

 リアナは俺の言わんとするところをちゃんと察したらしく頭を縦に振って返答する。


「はい!」


 さて、ちょっとアリア含む人族の様子を探ろうか。


 全ては俺の夢を叶えるためだ!


 目指せ!


 破滅フラグ回避!


 自堕落な生活!





追記


リアナの裏設定:美味しいものには目がない








遅ればせながら明けましておめでとうございます!

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