第12話 内幕を知る魔王
数日後
リアナside
アリア女王からの手紙を預かった彼女は任務を遂行するべく、王宮を出た。
すると、魔王軍討伐から帰ってきた勇者と美人3人が馬に乗った状態でこちらに向かってくる。
美人3人のうち、一人は先の尖った帽子を被った魔女っぽい格好をしており、もう一人は弓矢を背負った綺麗なエルフ、最後は聖女を思わせる服装をした美女。
3人とも絶世の美女ともいうべき美貌で、道ゆく人々は3人を見て視線が釘付けた。
「ほら見て!勇者パーティーだ!」
「魔王軍討伐から帰ってきたのよ!」
「にしても本当に綺麗だよな、あの3人」
「そうそう。大魔女であるルイス様、エルフ族の姫サフィナ様、そして大聖女のアンナ様……神々しいわ」
と、嘆息を漏らす民ら。
そんな彼氏彼女らを見て、勇者は手を振った。
「あら、勇者様が手を振ってくれたわ!」
「人族を邪悪な魔王から守ってくださる救世主!」
「素敵だわ……」
「俺も勇者みたいに強くなりたいぜ……」
老若男女問わず、勇者に憧れの視線を向ける大衆。
勇者は明るく笑いながら一人一人に懇切丁寧に手を振る。
前髪が長いので表情は見えないけれど、きっと勇者は微笑んでいるのだろう。
リアナが4人を見てぼーっとしていると、勇者と目が合う。
前髪が長いので、目はほとんど見えないが。
勇者であるゼン・ライトは馬を止め、早足でリアナの方へと向かう。
「よ、リアナちゃん」
「……勇者様」
笑顔を向ける勇者にリアナは戸惑いを覚える。
「仕事?」
「そ、そうですね」
「何か困ることとかない?僕でよければ協力するよ」
「い、いいえ……私は別に」
オドオドするリアナに、勇者はにへたとうっすら笑いを浮かべて、在りし日に想いを馳せるように思索に耽るそぶりを見せる。
「リアナちゃん、本当にどうした?なんだかいつもと様子が違うけと?」
「い、いいえ。私はいつも通りです。どの辺が違うのかご教示願えますか?」
長い前髪の持ち主である勇者は考え込む仕草を見せたのち、話す。
「そうだな。リアナちゃんはいつも僕を警戒しているよね?あの出来事から」
「あの出来事……あ、」
あの出来事。
それつまり
勇者とアリア女王の初対面のことである。
勇者がワイバーンを空中でしとめてから堕ちた先が、アリア女王(当時は姫)がシャワーを浴びている浴場だった。
あの時からリアナは、ことあるごとに勇者に『変態勇者』とツッコミを入れてきた。
勇者とアリアの距離が急激に近づくことへの防波堤のような役割を果たしているのだ。
なのに今のリアナにはいつもに切れ味がなく、どちらかというと普通の女の子といった感じだ。
リアナは気を取り直すための咳払いをしたのちジト目を向ける。
「私、いつも見張ってますよ」
「ふふ、なんか今のリアナちゃん、かわいいかも」
「え!?」
予想だにしなかった言葉を聞いたリアナは目を丸くする。
けれど、頬はピンクではなくいつも通りだ。
「何か困ることがあれば、僕のところに来て。相談に乗るよ」
「……結構です」
「ふふ、またな」
言って勇者は3美女のいるところへと歩く。
そんな彼を見て魔女の服装をした女の子がジト目を向けてきた。
「へえ、ライトくん、随分と親しいじゃない」
まるで揶揄うような、Sっ気のあるような表情と話し方に隣にいるエルフが興味津々な顔をして言う。
「ライトさんは元々こういう男ですからね!ひひひ!」
エルフの声を聞いて隣にいる聖女は品のある笑い方をして言葉を発する。
「ふふ、ライト、行こうね」
なぜか聖女は微笑んでいるが、爆乳の奥にはドス黒い何かを感じさせる表情である。
リアナは勇者一行の後ろ姿を見つめる。
勇者は言葉巧みに3人と会話しながらボディータッチなどもしている。
「……」
なぜ勇者は魔王の手紙を切り裂いたんだろう。
リアナの心の中に謎の違和感が生じる。
X X X
アークデビルside
デビルニア
魔王城
たこ焼きは平和をもたらした。
魔族も人族も、みんなたこ焼きの虜となっており、作り方を教えてほしいとの声が殺到した。
んで、俺はたこ焼きのレシピを教え、さらに醤油と鰹節の作り方を代謝促進が使える魔族に伝授した。
んでたこ焼きはあっという間にデビルニア全土に普及することとなった。
やっぱりうまいもんはいくら隠したって我慢できないんだよな。
あと、アハズ村のことだ。
総司令官ヘーゲルに頼んで、兵をアハズ村にもっと遣わしてもらった。
安定的に食料や兵站を供給できているし、治安は極めて安定している。
あと、アハズ村にもたこ焼きブームが巻き起こっているらしい。
報告によると、魔族人族関係なく、こんなうまいもんを食わせてありがとうございますと俺を崇拝しているらしい。
気持ち的にお好み焼きや焼き鳥など、もっといろんなものを紹介してやりたいのだが、ネタを一気に放出するわけにはいくまい。
ほら、めちゃくちゃできる新入社員がいたとしよう。
もし、その新入社員が初っ端から自分のスキルを存分に発揮し、頑張りすぎて二人分の仕事をしたとしたらどうなるんだろう。
悲劇だけが待っているのみ。
頑張っても給料は上がらんし、有能なら上司が牽制しまくるだけだ。
だから使えそうなネタは時と場合に応じて小出しするって感じでいい。
つまり、
俺は時間が有り余っている。
ってことは
「はあ……やっぱりいいな」
俺は執務室にいながら、一人でダラダラしている。
テーブルには改良を重ねたたこ焼きが置かれていた。
チーズ、パセリ、マヨネーズ、などを用意させて、本場のたこ焼きに近い味を再現することに成功したんだ。
「やっぱりおいちいよな……一年中食べられるかも」
やっぱり魔王に転生したとしても俺は正真正銘の日本人だぜ……
現在、街づくりは順調だ。
俺の仕事は報告を待つことだけ。
「あとは……人族が戦争をやめてくれたら願ったり叶ったりだが」
玉座に座った状態で俺は伸びをする。
くっそ勇者め、
お前はただでさえ、SSS級ヒロインたちをたくさん持ってるだろ。
俺の幸せを奪うなよ。
と、勇者に対して怒りを露わにしていたら、
気配がした。
確かにこの気配は……
たこ焼き頬を張って頬を緩めていた俺は、早速顔を顰めて低いトーンで言う。
「ふっ、気配を消してここまできたことに関しては褒めてやろう。だが、言ったはずだ。お前は俺の掌の中にあると」
格好つけて言うと、窓から見慣れた女の子が現れる。
フードを被った女の子。
彼女は俺の執務室の中に入ってフードを脱いだ。
すると、彼女の整った綺麗な顔が俺の視界に入った。
フードを脱いだと言うことは敵意はないってことか。
「……わかっています。別にあなたに挑むためにきたわけじゃありません」
タメ語じゃないな。
俺は立ち上がって、リアナのいる窓際のところへ行く。
そしたら、彼女は急に頬をピンク色に染め、すすすっと俺と距離を微かにとった。
やっぱり警戒しているのか。
まあ、それはそうとして
「勝負を挑むわけじゃないなら、一体なんのようだ?」
と彼女を睨んでいると、彼女は一瞬ビクッとなる。
だが、リアナは自分の両手でほっぺたを叩いたのち、俺に至極真面目な表情を向ける。
「私がここにきたのには二つの理由がございます」
「理由……言ってみろ」
視線で続きを促したら、彼女は俺の顔を一瞬上目遣いしてから、口を開く。
「一つ目は……謝罪です」
「謝罪?」
聞き返すと、彼女は頭を下げたのち俺の顔を見て話す。
「はい。魔王様からの手紙を真っ二つに切り裂いて、そのまま送りつけた無礼、本当に申し訳ございませんでした」
「……」
「もちろん、これくらいで魔王様の怒りが収まることはないと知っております。ですので、それに関しては女王殿下が責任を持って償うとおっしゃっています」
「ほお」
「ですが、一つ事情を知ってほしくて」
「事情?」
「はい……実は、手紙を切り裂いたのはリアナ女王殿下ではございません。殿下はそんな野蛮なことをするお方ではございません!」
「……じゃ、一体誰だ?」
俺は小首を若干傾げて問うた。
そしたらリアナは意を決したよう頷いては、俺を真っ直ぐ見つめ
言い放つ。
「手紙を勝手に切り裂いたのは勇者ゼン・ライト様です」
「な、なに!?」
ゆ、勇者が勝手にやったことだと!?
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