第11話 明かされる真相
エルデニア王国の首都
王宮
若い年でエルデニア王国を治めるアリア王女は口をぽかんと開ける。
「リアナ……どういうことなの?」
美しいアリアの瞳に映っているのは執務室に入るなりいきなり跪くリアナの姿だ。
「申し訳ございません……アハズ村周辺を調査したところ、魔王に遭遇し私を除く4人全部捕まってしまいました……私もまた魔王に……っ!」
リアナは頬をピンク色に染めながら悔しそうに握り拳を作り、唇を噛み締めて覚悟を決めたような表情をアリアに向けるのだった。
「王女殿下……任務に失敗した私にどうか厳罰を……死ぬ覚悟もできております!」
切実な表情をするリアナ。
アリアは寂しそうな表情をしたのち、跪いている彼女のところへ向かいそっと抱き締める。
「そんなこと言わないで。相手は魔王よ。こうやって生きて帰ってくれただけでも私は嬉しいわ……」
「王女殿下……」
「二人の時はアリアでしょ?」
「……アリア様」
二人はいわゆる幼馴染関係だ。
貴族や他の年老いた権力者たちを牽制しながらこの国を治める立場にある彼女が気を許せる人は宰相であるリベラ、リアナ、勇者くらいのものだ。
アリアはもっと力を込めて自分の大切でかけがえのない存在であるリアナは抱き締める。
「どんなひどいことをされたか……今は何も聞かない。辛かったでしょ……諸悪の根源たる魔王だもの。こうやって正気を保っていられるのも奇跡みたいなものよ」
と、目を潤ませて自分の幼馴染が魔王に何をされたか想像するアリアは、顔を顰める。
リアナの服はところどころ破れている。
彼女は外見だけならとても綺麗な方だ。
ゆえに秘密任務の中には色仕掛けなどもしたりする。
任務達成率は100%。
きっと魔王にひどいことをされたに違いない。
と考えて涙を流すアリア。
そんなアリアの顔を見つめてリアナは困り顔をした。
「あ、あの……アリア様」
「何?言いたいことがあれば全部言ってごらんなさい。私が全部受け止めるから」
悲しむアリア。
リアナは口を開いた。
「じ、実は……」
「うん」
「何もされてません」
「そうよね……やっぱり魔王は……え?今なんと?」
「何もされてません」
「はあ?」
さっきまで大いに悲しんでいたアリアは目を丸くして驚く。
「私は魔王に負けました……十秒も経たないうちに私は完全にやられました。しかし、魔王は私になんの危害を加えることなく、それどころか飢えに苦しんでいるアハズ村の人々に美味しい食料を与えました」
「ま、魔王が、アハズ村の人々に食糧を!?」
「はい……それもとても美味しそうな丸っこい形をした料理を与えました。魔王曰く、自分が作ったとか。ジュル……」
口の中から分泌される唾液をおいしそうに飲み込むリアナ。
「うそ……あり得ない……」
「嘘ではございません」
「……その顔……本当のようね」
いつもリアナのことを見ているアリアだからわかるのだ。
これは絶対嘘ではないと。
「じゃ、アハズ村の人々は無事ってことね……それならいつか絶対取り返してみせるわ!」
安堵のため息をついて気合を入れるアリアにレイナは物憂げな表情をした。
「それは難しい話かと。アハズ村の人々はエルデニア王国の為政者を憎悪をしています」
「え?なぜ?」
「アハズ村の領主と権力者たちによる搾取。そして魔王軍の侵略を受けるやいなや、食糧を持って逃げたという責任のなさ。おそらくアハズ村を取り返したとしても一度領民の心に根差した感情は消えません」
「え?いや、アハズ村の領主は最後の最後まで必死に領民を守ったと報告を……」
「……」
「あ……そういうことね」
リアナの目配せにアリアは一瞬にしてリアナの思惑を看破する。
「これは爵位の剥奪だけじゃ済まされないわよ」
「私にできることならなんなりと」
「そうね。その前に一つだけ聞いてもいい?」
「は、はい」
アリアは至極真面目な面持ちでリアナを見つめ質問を投げかける。
「リアナが見た魔王はどんなイメージなのか教えて」
「魔王のイメージ……」
「そう」
「……」
リアナは頬をピンク色に染め、モジモジする。
「私が今まで抱いていた印象とは真逆でした。ううん。確かに暴君そのものでしたけど、その……何と言いますか……」
口をもにゅらせつつ、恥ずかしがるリアナ。
「……」
恋する乙女のような表情をするリアナを見てアリアは……
「リリ、リアナ……」
ショックを受けている。
これは惚れている。
完全に堕ちた顔だ。
あり得ない。
一体魔王との間に何があったの?
「さっきの話はなし!何があったのか気になりすぎるわよ!だから洗いざらい吐きなさい!!」
「え?アリア様!?」
凄まじい形相でアリアはリアナも両肩を抑える。
なにでリアナはアハズ村でのことを全て話した。
アリアはリアナの話を聞くにつれて、これまで当たり前だと思っていた固定観念に徐々に亀裂が生じ始めた。
そのあとも手紙の件を含めて色んな話をした。
アリアは、手紙を誰が破いたのかまでは、明かさなかった。
「以上でございます……」
「……リアナの左胸にほくろがあるのは私だけが知っているトップシークレットだったのに」
「アリア様!!言わないでください!」
慌てふためくリアナを見てクスッと笑ったアリアは明るい表情で口を開く。
「アハズ村の領主と関係者の粛清はもっと証拠を揃えてから行うわ。それよりも、一つ頼みがある」
「は、はい!なんなりと!」
「魔王に手紙を渡してほしい。伝書鳩じゃなくあなたが直接」
「手紙……わかりました。あ、そういえば私からも一つ確認したいことがございます」
「ん?なに?」
「手紙……魔王からの手紙、誰が破いたのですか?」
「え?」
「アリア様はそのような事をするお方ではございません」
リアナの問いにアリアは一瞬口籠もるが、リアナ相手に嘘はつけないと考え、素直に答える。
「そう。私じゃないわ……」
「え?じゃ誰が?」
「ライトよ」
「ゆ、勇者様が!?」
予想外の返事を聞き、リアナは
目を細めて、
「ほお……勇者様がですね」
意味ありげな表情で口を開いた。
垂れ目のリアナであるが、彼女の目から発せられる視線には鋭いものがあった。
「そうよ。切羽詰まった表情で、私に断りも入れずに破いちゃったのよ」
アリアはあの時の勇者を思い出して物憂げな顔をするのだった。
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