第10話 変わる関係性
補給部隊のうち数人は秘密部隊の男ら4人を魔王城に連れていき、残りのものは俺とリアナと共にアハズ村へと向かう。
リアナの首には令呪を入れてあるので、もし俺に歯向かったりしたら凄まじい苦痛を味わうこととなる。
彼女は俺に怪訝そうな視線を向けながらも、自分には選択肢がないことを知ったのか、渋々俺の後ろをついてきてくれている。
やがてアハズ村に到着した。
「え、え!?」
「魔王……魔王だ!」
「サーラが言った通り、魔王がやってきた!」
「見てみて!馬車には食料見たいなものがいっぱい積まれているぞ!」
「やった!」
村人は俺たちを見るなり明るい表情を浮かべ、羨望の眼差しを向ける。
俺は周りを見渡す。
すると、幼子を抱えている若い女性が視界に入った。
俺はその女性のところへ行って声をかける。
「サーラはどこだ?」
問われた彼女は感動したように目を潤ませて口を開く。
「教会にございます!」
「そうか」
「よろしければ、私がご案内しますが」
「頼む」
「はい!」
と、幼子を抱えている女性はテクテクと歩き始める。
俺は他の人族に向かって口を開く。
「お腹が空いているものは俺についてこい」
言われた人族は目を丸くして、一人、そして一人とついてきた。
やがて教会についた俺たち。
俺はリアナを連れて教会の中に入ってきた。
すると、
「ま、魔王様がきた!魔王しゃまあああああああ!!!!」
真っ先に俺を歓迎してくれたのはイゼベルだった。
イゼベルは目をハートにしたのち、俺を思いっきり抱きしめる。
お、おいイゼベル。
ちょっとスキンシップが激しすぎないか?
お前のでかいメロン二つが俺の顔を圧迫しているぞ……
はあ、幸せだ。
こんな美女が迎えてくれるなんて……
でもいかん。
喜ぶ姿を見せるわけにはいくまい。
俺は魔王。
暴虐の限りを尽くす存在。
まあ、昔のようなクズじみたことはしないが、それなりのカリスマは見せねばならない。
そう思った瞬間、
「魔王様!!」
「ん?」
リナちゃんが俺の足にくっついて顔を埋めている。
「私、魔王様がくるのずっと信じてた!やっぱり大好き!」
「っ!」
やっば……
体が反則級に魅力的なイゼベルに加え、可愛いリナちゃんまでもが……
守る。
絶対守って見せる。
この幸せ。
と、心の中で決心した俺は咳払いをして二人を優しく押し退ける。
二人は名残惜しそうに互いを見つめたのち、ドヤ顔を浮かべた。
そんな俺たち3人をサーラは微笑みを浮かべて見つめている。
俺は気分を切り替えるための咳払いをしたのち、集まっている人族に向けて言う。
「お前らをたらふく食わせられるのは、このアークデビルただ一人だ!」
言って俺は、小さく唱える。
「収納……」
すると、下から謎の空間が生じ、そこから熱々のたこ焼きが入ったでかい皿と、お水の入った樽が現れる。
さっき俺が力仕事をする魔族のために作ったものと同じだ。
ふっ
実はこの魔王、収納も使えるんだ。
俺の
ちなみに、収納ボックスの中での時間の流れはゼロに等しく、こうやって作ってから1時間が過ぎても、作りたてのふわふわ感が減らないのだ。
「さ、食べるがいい!俺が作ったたこ焼きを!!」
俺の言葉を聞いた途端、人族はなりふり構わず食らいついた。
それほど奴らは追い詰められていたのだろう。
「あつあつ……美味しい……美味しい!」
「なんだこれは……初めて食べるのにこんなに美味いなんて……」
「お母さん、いつも食べるカビの生えたパンなんかと比べ物にならないほど美味しいよ」
「こんなうまい味は生まれて初めてだわ……」
人たち感動を受けたように、一同涙を流し始める。
「もぐもぐ……魔王しゃま!これ美味しい!美味しいれしゅ……んぐんぐ、まお」
「おい、イゼベル。全部食ってから言え」
「ひゃい」
イゼベルはまるでリスのように頬にたこ焼きを詰め込んで幸せそうにしている。
「魔王様!これ美味しい!!」
「本当!こんな素晴らしい料理を作れるなんて……」
リナちゃんもサーラもご満足いただけたようで何よりだ。
てか、
日本の料理、異世界の人たちに反応良すぎだろ……
これはお好み焼きとか串カツ、お好み焼き、焼き鳥などなど、他の日本のソウルフードを作ってあげたらどんな反応を示すんだろう。
恐ろしい……
今はそんなことよりもだ。
まるで誰かに取られてたまるかと、いそいそ食べているな。
俺は人族を安心させるべく口を開く。
「量はたっぷりある。だから安心して食べるがいい」
というと、感極まった人族らがたこ焼きを頬張りながら言う。
「領主のやつとお偉い人たちは、俺たちを見捨てて、ありったけの全ての食料を持って逃げ込んだから、もう死ぬと思ったのによ……」
「まさか、魔族によって救われるとはな……」
「クッソ……エルデニア王国なんかもういらん!」
「私たちを搾り取れるだけ搾りとっておいて、魔族の侵略を受けた途端、あっさり逃げたのよ!」
「こっちはいっぱい人が死んだっていうのに、お偉い貴族たちは今頃贅沢な思いをしているんだろうよ」
と、えらい人たちに向けて怒りを露わにしている。
これはいいチャンスになれるかもしれない。
と踏んだ俺は早速口を開いた。
「ふ、もうエルデニア王国に忠誠を誓う必要はない。お前らに主はこのアークデビルただ一人だけだ!」
と、目力を込めて言うと、一通りたこ焼きを食べた人族らは俺に平伏した。
その様子を深刻な表情で見つめるリアナ。
俺はさらに続ける。
「サーラから話を聞いたと思うが、俺は戦争なんかごめんだ。俺はデビルニアを誰もが羨む最も豊かな国にするつもりでな。しかし、エルデニア王国の連中は戦うことを望んでいる。お前らのことは眼中にもいない。だか」
続きを言おうとしたが、ずっと俺を見つめていたリアナが割り込んでくる。
「それは違う!アリア殿下は平民だろうと貴族だろうと、みんなを大切にするお方だ!!」
一瞬にして人々の視線は彼女の方へ集まる。
「ふざけるな!俺たちを見捨てておいて!」
「ずっと気になっていたが、お前、エルデニア王国の関係者か?」
「出ていけ!てめーらのせいで俺の家族は全部死んじまったんだ!」
「私たちを搾取することしか取り柄のない無能な王女!」
と、人々はアリアに罵声を浴びせる。
俺はそんな人々を落ち着かせるべく、言葉を発する。
「静かに!」
俺の言葉に辺りは静かになり、虫の鳴き声だけが聞こえる。
「お前らはもう我がデビルニア王国の住民だ。だからこの女の言葉に耳を傾ける必要はない。俺は食事の時に取り乱す連中が嫌いだ」
言うと、人族は口を揃えて俺に謝る。
俺はリアナを見つめた。
すると、リアナはショックを受けるような様子を見せ、口を半開きにしていた。
所詮、リアナも勇者のハーレムに加わるんだ。
だからちょっといじめてやることにするか。
俺はリアナを見て、言う。
「ふっ、お前の言動から察するに、おそらく昔からアリアに仕えてきたんだろう」
「……」
俺は彼女に近づいて、壁に押し付ける。
それから、俺は彼女の令呪を消してあげた。
「ほら、令呪を消してやったぞ」
「な、なんで?」
「所詮、お前が暴れても、俺にとって子猫一匹が猫パンチするようなものだ」
「っ!私をなめるな!」
「お前がいくら頑張ったって、俺の掌の中にある。俺はお前を知り尽くしているんだ」
「なに?」
戸惑うリアナに俺は至近距離で耳打ちする。
「お前の左おっぱいに大きなほくろがついているのもお見通しだ」
「ひゃっ!?」
リアナは奇声を上げる。
俺は彼女から若干離れて、何食わぬ顔をして言う。
「情報収集が目的だろ?俺は寛大だ。別にお前に危害を加えるつもりはない。さあ、お前の無能な主君のところへ行くがいい。行ってここでの一部始終を全部伝えるんだ」
「……」
言われたリアナは悔しそうに俺を睨め付ける。
だが、ちょっと不思議だ。
彼女の頬が赤い。
どこか、調子悪いところでもあるのか。
と、俺がしばしリアナを見つめていたら、
イゼベルが前に出て挑発する感じで言う。
「行きたくないのなら、魔王様のハーレムの一員になっても良いぞ」
は?
イゼベル。
一体お前は何を言っているんだ?
と、考えていたら、リアナは
「っ!」
逃げるように立ち去った。
俺はイゼベルにジト目を向けた。
「おい、イゼベル、余計なことは言うな」
俺に言われたイゼベルは妖艶な表情をし、クスッと笑う。
普段、俺を盲目的に支持する様子とは打って変わり、何か含みのある表情で呟く。
「余計なこと……私はそう思いません……ふふ」
一体イゼベルは何を考えているのだろうか。
リアナside
アハズ村を抜け出して王都へと向かうリアナ。
「……」
彼女の頭に魔王の姿がよぎる。
圧倒的な力で自分を平伏させた姿、人族にご馳走する優しい姿、自分を支配するために令呪を入れたのにあっさりそれを解除する寛大さ。
そして、
そして……
『俺はお前を知り尽くしているぞ』
「っ!!!」
リアナの頭に電気が走った。
その電気はだんだんお腹のところへ集まる。
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