第9話 魔王はサブヒロインに出会う

 補給部隊が人族の軍に襲われた。


 アハズ村にはイゼベルとリナ、サーラがいて、村人の管理をしているはずだ。


 もし食料が到着しないのであれば、村人らが暴徒と化す恐れがあり、村を守る魔王軍の士気は下がること間違いなしだ。


 由々しき事態。

 

「魔王様、いかがなさいますか?」

 

 と、護衛のものが心配そうに訊ねてきた。


 はあ、


 やっぱり原作ストーリーの強制力からは逃れられないというのか。


 なら俺のとるべき行動は一つだ。


 みんなが動揺しながら俺を見つめる中、俺は後ろ髪をガシガシしながら面倒臭そうに口を開く。


「お前らは宴を楽しむといい。この俺が向かおう」


「「「ま、魔王様が直接!?」」」


 俺の返事にみんな口を揃えて驚愕する。

 

 なので、俺は翼を生えさせ飛び上がり、見下ろして言う。


「アハズ村もそこに住む人族も我がデビルニアの一部だ。つまり、身の程弁えぬ下賎な連中が我がものを奪いにきたってことだ。そんな不埒なやつらにはこの俺、アークデビルが裁きの鉄槌を下す!!」


「「「っ!!」」」


「それじゃ、俺は行ってくる」


「「「は、はい!いってらっしゃいませ!」」」


 どうやら魔族たちは怯えているようだ。


 ふむ。


 魔王としての威厳を示しつつ、アハズ村とそこに住む人たちにひどいことをしないように再三警告することができた。


 我ながら完璧!

 

 だんだん魔王としての姿が板についたんじゃなかろうか。


 俺は飛んで魔王場へ行き、そこでをしてから早速アハズ村へと向かうのだった。


X X X


アハズ村


 半分廃墟になった教会には魔王軍幹部であるイゼベル、アハズ村の代表であるサーラとその妹であるリナがいて、痩せ細った人々が押し寄せ切実な表情で言う。


「食料はまだか……」

「食べ物……食べ物が欲しいんだ……」

「一体食料はいつくるんだよ……」

「子供が病気なの……早く栄養のあるものを食べさせないと……」

「もう動く気力もない……魔族でも人族でもいい。誰かお水を……」

「サーラ、本当に物資は来るの?」


 補給部隊が人族の襲撃を受けたことは、イゼベルとサーラ、そしてアハズ村を守る一部の魔族くらいしか知らない。


 当然、事情を知らない人族は、アハズ村の代表となったサーラに抗議しているわけである。


「みんな、落ち着いてください!ん……」


 サーラは悔しそうに握り拳を作る。


 それもそのはず。


 抗議しているのは、自分の生まれ故郷の人々。


 当然、ここにいる全員の顔を知っているのだ。


 そんな自分の家族のような人たちがこんなに苦しんでいる姿を見るのは、しのびがたい。


 そう思うサーラであった。


「……」


 イゼベルもこの惨憺たる状況を見て、ため息をついた。


 色気を振りまく彼女のことだ。


 種族問わず、彼女の体を見ると男は当然反応するはずだが、


 何も食べてない人族の男たちは、イゼベルの体を見ても微動だにしない。


 負の感情が鬱積してゆく教会の中。


 そこで、リナが手を挙げて言葉を発した。


「絶対くる!!魔王様は私たちを捨てたりしない!!私、信じるもん!!」


 リナの言葉はまるで鶴の一声のようで、これまで騒然としていた教会は一瞬シーンと静まり返る。


「リナちゃん……」

「あのリナちゃんがここまでいうなんて」

「一体魔王はどんな人だろう」


 リナの確信に満ちた言葉を聞いて、人々は唾を飲み込み、座り込む。


 どうやら待つという選択肢を選んだようだ。


 そんな彼ら彼女らの様子を見て、イゼベルは外で待機している魔王軍の兵士に聞こえよがしに問うた。


「軍の兵站は残っているのか!?」


 問われた魔王軍の兵士はすぐさま返答をした。


「残念ながら尽きています」

「……そうか」


 イゼベルは歯を食いしばって悔しがる。


X X X


アークデビルside


 俺は手ぶらのまま凄まじいスピードで空を飛んでいる。


「やっぱり魔王の能力ってチート級だよな」


 メーターがないから正確な数値はわからないが、おそらく時速500キロは超えるんじゃないのかな?


 邪魔をしてくる風は、暗黒魔法で作った透明な防御膜で防いでいる。


 1時間ほどが過ぎると、境界線から村っぽいものが見えてくる。


 転生前のこいつの記憶だと、間違いなくあそこがアハズの村のはずだ。


 そして、

 

 数十キロほど離れたところに、煙が上がっている。


 何事か。


「千里眼、ヒアリング」


 魔王の持つ探知スキル『千里眼』と『ヒアリング』を使って煙が上がっているところの様子を見てみる。


 小規模の人族の集団が見える。


 人数はざっくり5人ほど。


 甲冑姿の男4人、ローブを被った女の子1人。


 周りには補給部隊の魔族が捕縛された状態で座り込んでいる。


「うっへへへ!魔族のくせになかなかいいもん食ってんじゃねーかよ。リアナ様、これはやっぱり大当たりですね!」

「リアナ様、こんな魔族どもは全部皆殺しにして、首だけ持っていきましょうよ!」


 甲冑姿の男二人が猿轡を噛まされている下位魔族らを蹴りながら言った。


「私たちに任された任務はあくまで情報収集だ。余計なことはするな」


 といったリアナという女の子はやれやれとばかりにため息をつく。

 

 それにしても、あのリアナという女の子、すごく綺麗な顔しているな。


 紺色のセミロングヘア、整った目鼻立ち、そして手に持っているのは短剣。


「ちょっと待ってよ……リアナ?短剣?まさか……」


 リアナ。


 確かに覚えている。


 ゲームだと確か、アリアのルートの序盤あたりから登場するキャラだ。


 エルデニア王国のアリア女王に昔から仕えてきた彼女の幼馴染であり、その素晴らしい戦闘能力のおかげでアリアの秘密部隊の長をやっている。


 ということは、ここにいる人族はアリアが送り込んだ秘密部隊の面々ということになるのか?

 

 情報収集。


 つまり、魔王軍に占領されたアハズ村の様子を探るべく、捜索班を遣わしたってわけだ。


 んで、偶然通りかかった補給部隊を襲って、情報収集を行っていたんだ。


 にしても、リアナ以外の男秘密部隊員の連中は下位魔族に対して結構ひどい扱いをしていやがる。


 おのれ……


 俺の部下たちをいじめるなんて……


 俺は暗黒の剣を生じさせ、素早く奴らのいるところへ向かう。


 やがて、俺を発見した人族は、


「「「っ!?」」」


 目をカッと見開いて戸惑う。


 捕縛されている魔族らも、俺の登場に相当驚いているようだ。


 そんな奴らに俺は挨拶をする。


「俺は、魔王アークデビル。てめーら、部下たちを随分と可愛がってくれたな」


 と、奴らを睨んでいたら、リアナが驚愕しながら早速4人に命令する。


「あり得ない……馬鹿な……みんな!戦闘準備!」


 リアナの声に4人の秘密部隊員らは鞘から剣を抜いて俺に向けて敵意をあらわにした。


 俺はそんな彼らを見て鼻で笑った。


「ふっ、そんなもので俺を倒せるとでも思うのか?」


 俺は暗黒の剣を彼らに向けて一振りした。



1分秒後



「あ……これが魔王の力……っ……」

「「「……」」」


 男秘密部隊員の4人は気絶しており、リアナだけが息を激しく切らし呻き声を上げている。


 これまで身柄を拘束されていた魔族は全員俺が解放してやった。


 勝負は一瞬で終わった。


 まあ、当たり前といっちゃ当たり前だがな。


 男4人は俺の部下をいじめたのでちょっと強めにお灸を据えてやった。


 俺は横になっているリアナの方へ歩く。


 やがて彼女のすぐ近くにやってきた俺は、彼女を見下ろした。

 

 やべ……


 近くで見ると、めっちゃ綺麗じゃん。

 

 なんか美少女暗殺者っぽい感じがして燃えるぜ……


 彼女はサブヒロイン的な位置付けで、ゲーム本編ではエッチシーンは出ないが、ゲームをクリアすると、サブストーリーが解禁され、エッチな姿を見ることができる。


 おそらく今の段階で、あの勇者との関わりはあまりないはずだ。


 少なくともエッチはしてないはず。

 

「……早くトドメをさせ。もし私を汚すつもりなら舌を噛んで死んでやる」

 

 これはこれは殊勝だな。


 お前を殺すつもりはない。


 俺はお前の正体を全部知っているぞ。

 

 お前の生い立ちや能力、そして、体のどこにほくろがあるのかも熟知しておる。


 一瞬、脳裏にリアナのピンク色溢れるシーンが過るが、なんとか感情を抑えて、傲慢な顔で口を開いた。


「あの気絶した男4人はいらない。奴らは呪いにかかっているから逆らえない状態だ。魔王城にある牢屋にぶち込んでおけ」

「「は、はい!」」


 元気よく返事をする補給部隊の下位魔族たち。


 俺はふむと頷いたのち、リアナの方へ再び視線を向ける。


 リアナは悔しそうに目を潤ませていた。


 悔しがっている顔もかわいいな。


 ちくしょ!


 勇者のやつ、マジで許さん!


 こんなSS級美少女たちとハーレムライフを送るのか!?


 ああ、腹たってきた。


 でも、今は破滅フラグを回避するのが最優先事項だ。


 こいつは俺の手紙を真っ二つに切り裂いたあのアリア女王の幼馴染だ。


 これは使える。


 俺は息を整えてからリアナに対して口を開く。


「お前は、俺と一緒にアハズ村に行くぞ」


 言われたリアナは、紺色の丸っこい瞳を揺らして口をぽかんと開けた。


「は、はあ?」

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