第8話 魔族はたこ焼きをみんなにご馳走する

 俺がここにきてから一番困ったこと。


 それすなわち食事である。


 もちろん、俺は魔王だからデビルニアデで採れるありとあらゆる山海の珍味は味わえるが、やっぱり日本のものが欲しいんだよな。


 転生したとしても、俺の日本人としてのアイデンティティーは遺伝子レベルで刻み込まれている。


 だから部屋にこもっていろんなことを試したのだ。


 まずは醤油。


 原料となる大豆はこの世界にもたくさん採れる。


 それを使って蒸したり炒めたりした。


 問題なのは麹作り。


 麹作りに関しては、俺が持っている魔法が生かされる形となった。


 スキルの中に代謝促進なるものがある。


 代謝促進とは、魔法によって対象の代謝を促進させ、エネルギーを減り具合が早い代わりに、身体能力が向上される。


 それを大豆にかけると、見事、麹作りに成功して醤油が作れたわけだ。


 魔王のスキルはどれも規格外だが、逆にそれを生活に活かせるとより大きな相乗効果が見込まれる。

 

 それから俺は代謝促進を使ってカツオ節を作ることにも成功した。

 

 魔海にもカツオはあったので、昔見たサイエンスなんちゃらのヨウツベ動画を参考に作ってみた。

 

 戦争なんかごめんだ。


 俺は魔王の規格外スキルを使って思う存分俺の理想郷を形作っていくんだ。


 俺は目の前にある材料を見て魔法をかける。


「浮遊」

 

 すると、材料が宙に浮かぶ。


 俺が視線で合図すると、卵が割れ、水と小麦粉と牛乳が混ざってゆく。


 あとはタコだ。


「暗黒のダークソード


 と小さく唱えると、魔王のシンボルというべき黒い剣が現れた。


 そしてそれをジャイアントタコに向けて一振り。


 あっという間に食べごろサイズにカッティングされてゆくジャイアントタコ。


 もちろん野菜のカッティングも忘れてはならない。


 そして、


 俺は目を瞑ってある形を思い浮かべる。


 限りなく広がる半円。


 俺は暗黒の剣ダークソードを空に向けて投げ


 格好つけて唱えるのだ。


いでよ!たこ焼き器!」


 すると、俺の暗黒の剣ダークソードは形を変え、穴が1000個ほどある巨大なたこ焼き器と化す。


 あと必要なのは火だ。

 

 問題はない。


 なぜなら、


「ダークファイア」


 そう。


 強力な闇属性の持ち主である魔王はダークファイアが使えるんだ。


 めっちゃ格好いい名前だよな。


 中二の時、痛かった時代を思い出すぜ……


「おお……鮮やかなものだ」

「魔王様がお料理をするなんて……」

「一体何をお作りになるんだろう」

「すっげ格好いい……」


 食材を持ってきた魔族らは憧れの視線を俺に向けているのだ。


 これはやる気でるな。


 俺はダークファイアで早速たこ焼き器を熱したのち、油を敷いて生地を流し込む。


 ぐつぐつ言ってきたら、野菜を入れ、タコの投入だ。


 そして、


「……」


 俺は神経を尖らせる。


 なぜなら、


 ひっくり返すという作業が残っているからだ。


 俺はたこ焼き器と化した暗黒の剣ダークソードに魔力を込めた。


 すると、たこ焼き器は形を変え、生地に切り込みを入れてからそれをひっくり返す。


 1000個以上のタコ焼きが同時にひっくり返される場面は実に壮観である。


 戦慄の表情で見つめてくる魔族たち。


 あとは、準備した醤油を入れる。


 食欲をそそる醤油の匂いに俺までも涎が出た。

 

「すげ……」

「めっちゃいいいのい……」

「こんなの、一度も見たことないぞ……」


 嘆息を漏らす魔族を尻目に俺はそれらを巨大な器に盛る。


 あとは、予め作っておいた鰹節を浮遊でまぶしてゆく。


 たこ焼き1000個の出来上がりだ。


「な、なんだこれは!?」

「踊ってるぞ!」

「火を通したのに、まるで生き物のように動いてるぞ!」


 まあ、踊る鰹節を見たことない人からすればショックだろうなw

 

 数人の魔族が見守る中、俺は湯気たつ1000個のたこ焼きのうち一個を摘んで口の中に入れる。


「ふむふむ……っ、あつ」


 味をじっくり吟味するように噛んでは飲み込だ。


 そして、


「っ!!!」


 俺は目を見開いた。


 口角が釣り上がりそうになるが、俺は感情を必死に抑える。


 やべ……


 美味しい。


 気が狂うほど美味しい!!


 おいちい!!

 

 日本のたこ焼き最高!!


 醤油の味が効いてるぜ……

 

 もちろん、たこ焼き専門店より味は落ちるかもしれないが、異世界に来てもたこ焼きが食べられるなんて……


 心の中で俺は昇天するほど喜んでいる。


 だが我慢だ。


 俺は魔王!


 なので、俺は気を取り直すべく息を大きく吸って言う。


「ふっ、悪くないな」


 そして何か思いついたたように明後日の方向に視線を送っては、魔族らに命ずる。


「俺の蔵に行って、ありったけのビールを下の作業所までに持ってこい。そして、魔王城で働く奴らも全部作業場に集合させろ」

「「「は、はい!」」」


 そろそろ夕飯の時間だ。


 汗水流して力仕事をしてくれる連中に不味いものを食わせるわけにはいかない。

 

 まあ、力持ちの魔族らにも給料は払うが、給料だけが全てではない。


 俺が通っていたブラック企業では給料はもちろん低いが、社員への福祉がひどいレベルだった。

 

 毎日カップラーメンを食べる社員(俺含む)を見て、俺は思ったのだ。

 

 もし俺が社長だったら、社員の食事くらい責任を持って用意しないとって思ったわけ。


 美味しいもを食べれば、より仕事に身が入る。


 俺はたこ焼き2万個を作ってそれらを大きな皿に盛る。


 そして、浮遊を使ってそれらを作業場に運んだ。


 俺も翼を使って作業場に降り立つ。


 俺の命令を聞いてすでにビールの入った樽と魔王場で働く魔族も来ている。


 どうやら今日の作業は終わったような。


 俺は空を飛んでいる状態で彼らに命ずる。


「力仕事、ご苦労だった」


 俺の声に地上にいるものは全員俺に平伏す。


 そんな彼ら彼女らに俺は傲慢な表情で言うのだ。


「そんなお前らにご褒美だ」


 と、作業場の真ん中に俺は巨大な皿たちを並べる。


「これは?」

「うん?……」

「いい匂いだな」

「なんか踊ってるぞ!」

「魔王様これは一体?」


 問われた俺は返答した。


「これはタコヤキという食べ物だ。この俺が直接作った料理だから、残さず食べるように」


「「「魔王様が直接!?」」」


「そうだ。冷めないうちに早く食え」


 と、俺が地面に降り立って、たこ焼きを一個食べると、力持ちの魔族の内、一人は慄きながらたこ焼きを手に取って口の中に入れた。


「むぐむぐ……あつっ!っ!!!!ななななななななんだこれは?!?!?」


 力持ちの魔族は腰が抜けたらしく、尻餅をついた。


 そして、


 昇天しそうな声音で


!!!!」


 おい、マッチョなのにそんなかわいい顔するのかよ。


 たこ焼きを食べた力持ちの魔族の姿を見て、他の魔族らも、早速たこ焼きに飛びついた。


「っ!!なんだ!美味しい!!」

「こんな美味しいものが世の中に存在するなんて……」

「美味しい……あまりにも美味しすぎて俺、涙出ちゃうぜ……」

「ああ……美味しい」

「この料理、魔王様が開発されたものなんだよな」

「すごいぜ……さすが魔王様!タコヤキという料理を思いつくなんて、我々とは住む次元が違う」

「マジで天才だよ!アークデビル様は!」


 お、おい。


 たこ焼きは日本のソウルフードだぞ。


 たこ焼きを初めて作ったご先祖様に失礼だぞ……

 

 まあ、ここは異世界だもんな。


 ちょっと罪悪感は感じるが、俺は彼らに宣言するように言う。


「このアークデビルに従えば、こんな美味しい食べ物はたらふく食える!だから、戦争はやめて、我が国・デビルニアを誰もが羨む最高の国にするんだ!!」


 と、俺に問われた奴らは、



「「「おおおお!!!!!」」」


 雄叫びをあげ


「こんなうめーものが食えるんだったら、戦争なんかいらん!」

「街づくり頑張るぞい!」

「はああ……幸せ……このタコヤキという料理、ビールにめっちゃ合うな」

「ビールうめ……タコヤキうめ……」

「あ、俺もビールくれ!」

「俺は感動を受けた……こんな味も世の中に存在したなんて……」


 まるで新しい世界を知ってしまったような表情で、魔族らはたこ焼きとビールを勢いよく食べる。


「ふふ、宴は始まったばかりだ」


 俺はドヤ顔をしたら、責任者のハルパゴス、現場監督のメシェク、助手のダンがたこ焼きを頬張りながら感動したように目を潤ませて俺を見ていた。


 これは作った甲斐があったもんだ。


 心があったまる風景に俺が頬を緩めていると、


 護衛の一人が深刻な表情でやってきた。


 彼はまず跪いて礼をし、口を開く。


「魔王様……」

「なんだ?」

「食料を積んでアハズ村へと向かう馬車が、人族の軍に襲われました……」

「な、なんだと!?」


 なんてこった。

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