第7話 魔王は街づくりを命ずる

 さらに数日が経つ。


 俺は自分の能力を確かめるべくいろんなところを巡りながら狩りをしてきた。


 魔窟に行って、ジャイアントドラゴンを可愛がってあげたり、魔海に行ってジャイアントタコと戦ったりと。


 ちなみにジャイアントタコは、分を弁えず俺を挑発してきたので、そのまま〆て魔王城に持ってきた。


 改めて魔王の力すげ……


 まあ、

 

 勇者が聖剣エクスカリバーを覚醒させる前までは、魔王は実質的に最も強いキャラだよな。


 あとは部屋に引きこもって色んなことをした。


 そして

 

 ラハクセの蛮行が白日のもとに晒されてから、魔族はサーラとリナを恐るようになった。


 まあ、デビルニアでは高位官僚に当たる捜査官が1日にして奴隷に成り下がったから無理もないか。


 姉のサーラにはアハズ村の代表をやってもらうことにした。


 というのも、いきなり魔王が人族の住むところに土足で入り込んでも彼ら彼女らの反感を買うだけだ。


 かといって二人だけに全てを押し付けるわけにはいくまい。


 だから、イゼベルに二人の面倒も見てくれるようにと言ってやった。


 アハズ村の人々に必要なのは水と食料。


 幸いなことに、アハズ村の人々を養うだけの食料は持っている。


 まずは彼ら彼女らをたらふく食べさせてからだ。


 俺はラハクセの一件で一つ教わったのだ。


 強圧的なやり方ではダメだと。

 

 俺の領民になる以上、紳士的に接してやることが大事だ。


「それはそうとして……」


 俺は魔王城の外にある広場で果てしなく広がる荒野を見渡しながらため息をついた。


「はあ……なんでゲームとか漫画に出てくる魔王城ってこんな辺鄙なところにあるんだよ」


 そう。


 普通、人が住む王都には王が住む王宮と他の人々が住む住宅地や市場やギルドなどが併存しているのだが、


 ここは、


 魔王城しかいないのだ。


 周りは草一つ生えない荒野。


 ちょくちょく岩山が視界に入るが、間違いなくここは荒野だ。


 だから俺はここに力持ちの下位魔族1000人余りを集合させたのだ。


 俺は翼を生じさせ飛びながら彼らに言う。


「みなのもの!よくぞ集まってくれた!」

 

「「「は!」」」


 力持ちの下位魔族らは気合を入れる。


 なので俺も気分が盛り上がり、自信満々に口を開いた。



「本来、戦場に投入されるはずのお前らをここに呼んだのは他でもない」


 勿体ぶるように目を瞑って、やれやれとばかりに厨二病っぽくふんぞり返る俺。

 

 すると、魔族らが戦慄の表情をしながら俺を見つめてくる。


 やっべ……

 

 楽しすぎる……


 もし、転生前の俺がこんなことをすれば、ドン引きされて『なんだあいつ?キモい』みたいな顔されること請け合い。


 しかし、今の俺は


 超絶イケメン魔王なのだ!


 俺は下を見下ろして言う。


「これよりお前らはここで街を作るんだ!」


「「「ま、まち!?」」」


 どよめきが走る。


 まあ、無理もない。


 こいつらは元々人族を壊滅状態に追い込む予定の強者どもだ。


 なのにいきなり街を作れなんて言われたら『は?』ってなるんだろう。


 しかし、


 大丈夫。


 なぜなら、


 俺には必殺技があるんだ。



 俺は威厳のある面持ちで言う。


 すると、1000人ほどの魔族らは俺に平伏す。


「「「は!」」」


 そう。


 ここは魔王である俺が王として君臨するデビルニアだ。


 つまり、俺の命令は絶対だ。


 転生前の魔王はドがつくほどわがままでコロコロ気分がすぐ変わるような面倒臭いやつだった。


 だが、とてつもなく強い力を持っており、暴虐の限りを尽くす暴君だったから誰一人逆らえなかったのだ。


 正直に言って、こいつのクズさって意外と便利だよな。


 しかし、街づくりと建設の知識を持たない俺がしきっても、何にもならない。


 だから俺は自分の真下にいる初老と中年と青年魔族を指差した。


「この3人は代々的に我が城を管理してくれるものたちだ。年齢順にハルパゴス、メシェク、ダンだ。このプロジェクトの責任者はハルパゴス。現場監督にメシェク、ダンは二人の助手をやりながら、作業の進捗状況を俺に定期的に報告してくれ」


「「「はい!!」」」


 3人は大声で返答をしたのち、感動したように涙を浮かべる。


 この3人は血縁関係だ。

 

 建設という家業を引き継いできた職人だと言えよう。


 転生前の魔王は技術職の人たちを冷遇する態度を示してきた。


 だから、魔王城の修理以外だと、土建の仕事以外のことをさせてきた。


 現に、息子のダンも人族の討伐のために徴兵されたんだよな。


 本当に馬鹿馬鹿しい話だ。


 こんな素敵な魔王城が作れる人材を戦闘に赴かせるなんて……


 俺が二日前、お爺さんであるハルパゴスを呼んで、魔王都の話をした時はとても喜んでくれた。


 何も、魔王城の修理だけでは食っていけないとか。

 

 魔王城の管理ができる人材が金欠で困っているとか、まじふざけんなよ!


 なので俺は今までの頑張りを労うべく、ハルパゴス一家に褒美を与えたんだ。


 俺は再び1000人余りの力持ち魔族を見渡していう。


「それじゃ早速作業にあたるように。あっ」


 と、俺は何か思い出したように目を見開いたのちほくそ笑みながら言う。


「頑張ったものたちには、があるぞ。貰いたければ、必死に働け」


 言い終えると、力持ちの魔族が目を大きく開けて話し合い始めた。


「ご、ご褒美だと!?」

「一体どんなご褒美だ?」

「よし!頑張るぞい!」

「おおおお!!」

「うわああああ!!!」


 いい息だ。


 今までのこいつは、ご褒美はおろか、搾取することしか考えていなかったからな。


 俺はさらに高く跳び上がり、魔王城へと戻る。


 数時間が過ぎた。


「ほお、みんなよく頑張ってくれてんな」


 俺はベランダから下を見渡して、感心する。


 みんなが必死に働いているのに、俺だけがこうやって楽している。


 めっちゃ最高だぜ……


 おそらく部長もこんな気持ちだったのだろうか。


 楽して高給取り。


 そりゃ、手放したくないんだろうよ。


 だが、


 俺にはやるべきことがある。


 そんなことを考えていたら、誰かがベランダのドアを叩いた。


「ん?誰だ?」

「アークデビル様。頼まれた品を持って参りました」

「ふむ、入れ」


 いうと、ベランダのドアが開き、魔族数人が何かを持ってきた。


 薄力粉が入った袋、水、黒い液体、酒の入った樽、卵、この間狩ったジャイアントタコなど、食材が並んである。


「魔王様、これは一体どこに使われるんですか?」


 魔族のうち一人が俺を恐れながら問うた。


 他の魔族も頷きながら俺に視線で続きを促した。


 なので、俺は魔王らしく傲慢たる面持ちで答える。


「ふっ、たこ焼きだ」


「「「たこ?やき?」」」


 魔族たちは小首を傾げた。


「この俺がてめーらに新世界を見せてやろう」


 俺は悪役面してほくそ笑む。



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