第3話 勇者の答え

デビルニア王国の王宮にある魔王専用食堂


 魔王軍幹部であり、アークデビルの秘書のような役割を担っている幹部イゼベルは宮内の料理人に命令を出し、美味しい食事を人族の二人に提供した。


「もぐもぐ……お姉ちゃん!なんか初めて食べる料理ばかりだけど、めっちゃ美味しい!」

「リナ……」


 女捕虜であるリナは自分の姉であるサーラに明るい声で言う。


 だが、姉であるリナは料理に口をつけることはない。


 その様子を変に思ったイゼベルは眉間に皺を寄せて言う。


「魔王様のご好意を無碍にするつもりか?早く食え」

「……」

「浮かない顔だな。この料理は魔王様が食べるような最上級の食材で作ったものだ」

「い、いいえ……別に料理に文句があるわけではありませんが……」 

「ん?」


 イゼベルは小首を傾げて視線で続きを促す。


「魔王様が……その……私たちが抱いているイメージとはだいぶ違ったので」

「ほお、そうか。人族にとって魔王様は一体どんなイメージだ?」

「そ、それは……お世辞にもいいと思う人は一人もいません……暴虐のかぎりを尽くす暴君……い、いいえ!申し訳ございません!せっかくこんな素晴らしい食事まで用意して下さったのに、魔王様を悪くいうわけには……」


 姉であるサーラは怯えるように顔を俯かせて体を小刻みに震えさせる。

 

 その様子を見たリナは心配そうに自分の姉であるサーラの裾をぎゅっと握る。


 イゼベルはそんな二人を見て何か悟ったような表情をしては口の端を上げる。


「ふ、お前らのいう通りだ。普段の魔王様は、怠惰で暴虐の限りを尽く方だからな。まさしく悪の塊のような方だ。でも……でもでもでも……」


 イゼベルは急に興奮しながら頬をピンク色に変える。


「魔王様は変わられたのだあ!!はあ……はあ……お前らに優しさを向けた時といい、あのくっそ生意気なヘーゲルを黙らせた論理といい、本当にかっちょいい……今思い返すだけで武者震いが……」


「「……」」


 自分の爆のつく巨大な左胸を右手で握りしめてよがるイゼベルの鼻からは血が出た。


 そんなイゼベルを見て二人は目をパチパチさせる。


「さあ、小娘ども!思う存分食べるがいい!そして、アークデビル様に感謝することだにゃ!」

「「は、はい」」


 まだ余韻に浸かっているイゼベルの言葉を聞いたのち、二人は頷いて見るからに美味しそうな料理を食べ始める。


「っ!なにこの肉料理……美味しい」

「でしょでしょ!お姉ちゃん!いっぱい食べてね!いつも腐ったパンしか食べてなかったから!」

「……うん。そうね」

 

 姉のサーラは肉を噛みながら涙を流した。


 そんな彼女を見て、イゼベルはそれとなく聞く。


「へえ、腐ったパンしか食べてなかったのか」


 イゼベルの声を聞いたサーラは暗い表情で頷いた。


 が、イゼベルはそれ以上の追求をすることなく、2人の邪魔をしないようにと食堂を出る。


X X X


数日後


エルデニア王国


「はあ!?戦争をやめる!?一体どういうことなの!?」


 そう大声で叫んだのは若い女王であるエルデニア・デ・アリアだった。


 彼女は青色の目と髪が印象的で、白と青を基調としたドレスはバランスの取れたモデルのような体を包んでいる。


「……まさか魔王がこんな申し出をしてくるなんて、全く予想外の展開にございます」


 と言った年老いた宰相であるリベラも困り顔である。


「これは……私の一存で決まるようなことではないの。我が国の国境はデビルニアに面しているの。だから国境付近には国際連合軍も多数い……」

「ふむ……」 


 アリアとリベラは顎に手をやり、考え考えする。


 すると、宰相であるリベラが目を丸くして何かを思いついたように明るい表情をする。


「女王様、それならエルデニア王国が心配で今王宮に滞在中の勇者様にお聞きした方が如何でしょうか?」

「ゆ、勇者様……」

「はい。人族の国々から厚い信頼を受けておられる勇者様なら間違いなく道を示してくれるでしょう」

 

 勇者という単語が出た途端、アリアの頬がピンク色に染まる。


 宰相のリベラは空気を読んで早速行動に移る。


「それでは早速お呼びしてまいります」


 と丁寧に頭を下げるリベラ。


 彼がアリアの執務室から立ち去ってから数分が経つと、誰かがドアを叩いた。

 

「……入っていいわよ」


 アリアが言うとドアが開く。


 そこには

 

 甲冑姿の一人の男が立っている。


 中肉中背。


 背中には剣を背負っている。


 そして


 

 

 まさしくエロゲの男主人公のような見た目だ。


 アリアはそんな彼を見て照れるような反応をしながら彼の名を口にする。


「ライト……」


 すると、ゼン・ライトは跪いて言う。


「アリア王女殿下、一体どのような御用で?僕にできることならなんでも致しましょう」


 勇者ライトの言葉を聞いたアリアは安堵したように息をついては、魔王から届いた手紙を彼に渡す。


 勇者はその手紙の内容を読む。



ーーーー


エルデニア王国へ


我は魔境デビルニアの支配者アーク・デビルだ。


これまで魔族と人族は長きに渡って戦争を繰り広げてきた。


だけど、それは互いにとってなんの利益にもならないことに気がついた。


よって、我は戦争を望まない。


まずは休戦という形にしてから十分な協議を経て、ゆくゆくは戦争終結を目指す。


我が軍が占領したエルデニア王国の領土に関しては、交渉により円満に解決することを望む。


ーーーー


「な、なんだと……」


 勇者ライトは魔王からの手紙を読み終えてふるえる声でいう。


「ライト……あなたの意見が聞きたいわ」


 アリアは期待に満ちた視線を向けてくる。


 だが、勇者ライトは


「戦争をやめる……魔王を……」


 と呟いて、激しく息を弾ませた。


 そして、


 大いに震え上がりながら魔王からの手紙を真っ二つに裂いて叫ぶ。





!!!!!」





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