第2話 よし。手紙を書こう
「一体どういうことですか!?戦争をおやめになるなんて!」
早速抗議してきたのは魔王軍幹部であり俺の軍を率いる総司令官ヘーゲル。
鎧姿であるにも関わらず全身が筋肉に覆われていることがよくわかる体つきで、顔には十字傷、赤い癖毛からは黒いツノが二つ生えている。
本当に強そうなやつだ。
こいつは斧使いで、エルデニア王国を含め、人族の国々に壊滅的ダメージを与えることに成功するのだが、兵站の問題が発生したり、支配地の人族らが反乱してしまう。
しまいには勇者のヒロインである剣姫に負けて無様な最後を迎えるのだ。
ああ、ヘーゲルと戦った時の剣姫の姿は男心をくすぐる華があったな。
あと、勇者が俺を倒した後の剣姫とのエロシーンたるや……
「っ!」
「アークデビル様?」
イゼベルの声に俺は我に返えることができた。
とりあえず落ち着いて話そうではないか。
俺はなるべく怠惰で傲慢な態度をとりながらいう。
「気が変わった。もう戦争はやめる」
「は、はあ?そ、そんな理由で……」
ヘーゲルは悔しそうに歯軋りする。
女捕虜二人はそんな俺たちを恐る恐る見つめるだけ。
「はあ?おいヘーゲル。戦うことしか頭にない貴様が魔王様に向かって何たる態度……その軽い口を慎め」
イゼベルはヘーゲルを睨んで警告する。
「くっ……イゼベル……おのれ……」
ヘーゲルはもっと強く歯軋りしながらイゼベルを見つめてきた。
ナイス!イゼベル!
俺が満足そうにイゼベルを見つめると、イゼベルは急に興奮しながら自分の胸を揉みつつ爛れた表情で言う。
「きっと魔王様は我々の頭じゃ到底思いつかないような妙策を考えているのよ!ね?魔王様?」
いや、イゼベル!なんで俺に振るんだよ。
妙策なんかないよ。
勇者に殺されたくないからやめたいだけだよ。
でも、俺がこれを言ってしまったら、魔王としての威厳は駄々下がりだ。
にしてもイゼベル……
俺に向ける愛が重すぎる。
結局勇者のものになるんだが……
こんなに綺麗で俺に尽くしてくれるかわいくてセクシーな女性が勇者のところへ……
俺はまた腹が立ってきた。
うん。
俺は頷いた。
それっぽい言い訳を考えなくては。
俺は息を深く吸った。
そして、
傲慢極まりない表情で口を開いた。
「俺はこの魔国デビルニアを最強の国にしなくてはならない。それはヘーゲル、お前も知っているはずだ」
「は、はい!なので、このわたくしもアークデビル様の野望を叶えるために、この身燃やして……」
「ヘーゲル、じゃ、一つ聞こう。お前にとっての国とはなんだ」
「え?」
「お前が夢見る理想の国はなんだって聞いている」
俺に問われたヘーゲルはしばし考えてから、握り拳を作って大声で言う。
「理想の国……それはアークデビル様がこの世の頂点に君臨し、我々魔族が人族や諸部族らを皆殺しにしたり奴隷にしたり搾取することを国是とする国でございましょう」
俺はヘーゲルの答えを聞いて鼻で笑う。
「ふっ!浅はかな」
「……」
俺は足を組んでさっきより傲慢な態度をとる。
「俺が世の頂点に君臨する……それは正しい。だが、他部族を皆殺しにしたり奴隷にしたり搾取する?」
俺は眉間に皺を寄せて玉座にある手すりを強く叩いた。
「ふざけるな!そんなことをして天下を取ることができるとでも思うのかあ!!」
「「「っ!!」」」
俺の叫びにイゼベル、ヘーゲル、中位魔族、女捕虜二人は驚愕する。
俺は続ける。
「人族を迫害すればするほど、奴らはより団結して俺に抵抗してくるんだろう。そして戦争には金がいる。それも大量にな。莫大な資金を投入しても我が同胞は死ぬ。しかも100%勝てる保証もない。現に長い戦争のせいで、我が民草は疲弊している。お前が自由に戦えるのも民らが払ってくれる税金あってこそだ」
「……」
「だから俺は考えた。戦争をせずに天下を握る方法をな」
と言うと、ヘーゲルは唇を噛み締めて続きを促す。
なので俺は、
またまた魔王らしく極めて傲慢な態度で口を開く。
「それつまり、我が国『デビルニア』を誰もが羨む最も豊かな国にすることだ。幸い、我が国には資源が豊富だ。それに引き換え、民らの生活水準は低い。まず内政に集中して民らを豊かにする方法を考えなくてはな」
「「え?」」
俺の言葉に女捕虜二人が目を丸くして口を半開きにした。
「そ、そんな……だったら人族たちを支配しないといけないという先代の遺志は……」
「この状態で支配地を無駄に増やし、人族を支配したとしても、それを管理できる体制を整えることができるとでも思うのか」
「……」
そう。
かの有名なM帝国も無駄に増やした支配地をまとめることができず、民族を差別して滅びの道に自ら進んだ。
実際、このゲームでも、人族に壊滅的ダメージを与えることには成功するが、自分の国の置かれた現状から目を背けた傲慢で怠惰な魔王の判断ミスによりデビルニアは滅びの道へと進む。
俺は得意げに口角を吊り上げながら言う。
「それにだ。仮に天下を取ったとしても、それが一時的なものに過ぎないなら、そこになんの意味がある?俺が目指すのは……」
俺は深く息を吸ってほくそ笑んだ。
「俺が永遠にこの世界を支配することだ」
やべ……
これまでブラック企業でこき使われたしがない社畜がこんな大口叩いても大丈夫だろうか。
俺が永遠にこの世界を支配する?
んなことできるわけねーだろ。
俺はまず、勇者に殺されるという破滅フラグを回避しないといけないんだ。
人族に喧嘩なんか売らずに俺は自分の国の中で幸せに暮らすぞ。
俺を慕ってくれるイゼベルちゃんを勇者なんかに奪われてたまるかよ!
もし破滅フラグを回避できたら、俺は魔族の中の頂点に君臨し続けることができるわけだ。
そうなると、やりたい放題ってわけだ!
うへへへ。
世界征服とかそんなの器のちっこい俺は興味ねいっつーの。
みたいなことを思って周りを見渡すと、
「魔王しゃまああ……と、とととと……」
「ん?イゼベル?」
なんかイゼベルの様子がおかしい。
ひょっとして怪しまれてる?
俺が緊張した面持ちでいると、イゼベルはとろけ顔で言う。
「とっても素敵でございます……はあ……はあ……はあ……やはり天下を取るにふさわしいお方……」
イゼベルは何かを強く我慢している様子だった。
うん。
怪しまれてないか。
まあ、天下を取るつもりは毛頭ないが。
てか、イゼベル、興奮しすぎだろ。
紫色の長い髪と瞳も、
整った目鼻立ちも、
色褪せた紫色の瞳も激しい息遣いもエロゲのヒロインとして申し分ない体も
全て反則級だ。
もう一度言うけど、こんな綺麗な側近、勇者に取られてたまるかよ!
それと、なんか女捕虜の表情が最初の時よりだいぶ違うんだけど。
すごく目をキラキラさせている。
とにかく状況を整理しよう。
なるべく魔王らしく。
魔王らしく!
「ヘーゲル。このへんでいいだろ。まだ言いたいことがあるのか?」
「……」
「我が国が全世界を支配できるほど豊かになっても人族が調子に乗るなら、そのときは戦争をやってもいいぞ」
「ぐぬぬ……承知いたしました……行くぞ」
「は、はい!ヘーゲル様」
ヘーゲルは中位魔族を連れて立ち去る。
やつはまだ納得しているようには見えない。
俺はイゼベルに命令する。
「早くこの二人に食事を。それから数日間安静にして、尋問だ。尋問の際は捜査官に紳士的に接するように伝えておけ」
「は、はい!わかりました!二人とも、私についてきなさい」
「「は、はい」」
イゼベルは二人を連れて立ち去る。
去り際、女捕虜二人は俺をチラチラ見つめてきた。
なぜだろう。
くそ……
前世で女経験ないからわからない。
一人取り残された俺。
俺はため息をついて、独り言をいう。
「まあ、いきなり人族に戦争止めるっていっても人族が納得するわけないよな。とりあえず休戦って形にしようか。手紙書かないとな」
と言って、俺はエルデニア王国の女王に向けて手紙を書き始める。
この世界の文字は、上書きされた魔王の記憶によってすでにわかっており、読み書きできる
エルデニア王国の女王。
勇者のヒロインでめっちゃ綺麗な女の子だよな。
ツンデレなところが男心をくすぐる。
「……」
あまり関わりたくないのだが、この際仕方あるまい。
次回
勇者登場
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