極悪魔王転生。破滅回避の為、真面目に領地経営したら勇者のヒロインたちの様子がおかしいんだけど!?
なるとし
第1話 まずった
『悪役転生よろ』
そんな声がしてからしばし経った頃、
俺は目を覚めた。
「あ……」
俺は目の前に広がっている風景を見て唖然とする。
壁についている燭台からは謎の石のようなものが赤く光り出し、まるで蝋燭のようにこの空間を照らしている。
見えてくるのは中世を題材にしたファンタジーの作品に出てきそうな王の執務室。
見下ろせば高そうな赤い絨毯が敷かれ、この建物を支える柱はまるで古代ギリシャのパルテノン神殿を彷彿とさせるほど作り込まれている。
さらに、所々高そうな調度品が展示されている。
どうして?
俺は先ほど死んだのに。
俺・森崎裕一郎は日本人として生まれ、なんの面白みもない人生を歩んできた。
大学を卒業してからはブラック企業に経理社員として入って、搾取される毎日を送っていた。
新入社員が来ても一週間で辞めるようなところだ。
最低賃金ほどの給料をもらいながら5年くらい働いたことも奇跡みたいなもんだ。
社長は毎月車を買い替えるほど贅沢し放題なのに、俺は一度も給料が上がったことがない。
俺は頑張りすぎで過労死した。
だけど、目の前に広がっているのは天国でもなければ地獄でもない。
俺は顔を俯かせた。
すると、
「ん?」
俺が座っている椅子が見えてくる。
ありとあらゆる宝石が散りばめられた玉座のようだ。
座り心地もめっちゃいいし……
それに
「葡萄酒?」
サイドテーブルにあるのは見るからに高そうなワイン。
俺はグラスの入っているワインを一口飲んだ。
「う、うまい……」
こんなにうまいワインを飲んだのは始めてだ。
だが、ワイン以上に俺を驚かせることがある。
ワイングラスに映った俺の顔。
銀色の髪に赤いツノが2本生えている。
鮮烈な赤い瞳と、整った目鼻立ち。
そして、実に魔王っぽい服装をしている俺。
自分の口で言うのもアレだが、なかなかのイケメンだ。
「アーク・デビル様、どうかされましたか?」
戸惑う俺に色っぽい女性の声が聞こえてくる。
俺は声のした方に視線を向けた。
すると、そこには俺と同じくツノが2本生えた女性が俺を心配そうに見つめている。
爆乳が強調される露出の激しい服を着ており、とても綺麗だ。
まるでエロゲに出てくる魔王軍幹部を見ているようだ。
エロゲに出てくる魔王軍幹部か。
うん?
今この女、俺をアーク・デビルと言ったか?
と思っていると、
「っ!」
頭に激痛が走った。
この頭痛は俺の脳に何かを上書きするように数秒間続く。
間違いない。
この世界は……
「あ、アーク・デビル様!」
「イゼベル……」
この実にエロゲのヒロインっぽい見た目の女の名前はイゼベルだ。
いつも魔王である俺に尽くしてくれる魔王軍幹部である。
尽くすどころか、まるで信者のように俺を崇めたてまつるまである。
「俺は大丈夫です……」
「で、です?」
俺の近くにやってきたイゼベルは目を丸くする。
あ、社会人だった頃の癖がまだ抜けてないから敬語で言ってしまった。
魔王である俺が敬語だなんて、言語道断だ。
俺は気を紛らすべく、咳払いをして魔王っぽい口調で返答した。
「えっへん……イゼベル、お前が心配することではない。俺は大丈夫だ」
「は、はい……」
だが、イゼベルは相変わらず心配そうに俺を見つめている。
すると、
誰かが分厚いドアを開けて中に入った。
して、見てみると、そこには魔王軍幹部であり俺の軍を率いる総司令官ヘーゲルと中位魔族一人が綺麗な女性と幼い女の子を連れてきた。
女性と女の子は縄によって手首が縛られた状態であり、非常に怯えている。
魔族二人は跪く。
うち魔王軍幹部であるヘーゲルが口を開いた。
「魔王アーク・デビル様!エルデリア王国の辺境にある村を占領できたので、そこで最も美しい女二人を連れて参りました。一夜の慰みにそうぞ」
「ふむ」
玉座に座っている俺は目を瞑って考える。
激しく既視感のある展開だ。
そう。
何を隠そう。
俺は魔王アーク・デビルに転生してしまったのだ。
そしてここは転生前の俺が昔大変お世話になったエロゲ『ハッピーファンタジア』の中の世界だ。
このエロゲのストーリーをざっくり説明すると、勇者がいろんな国々のヒロインたち(姫、皇女、戦姫、魔女、聖女、エルフなどなど)を攻略しながら共に魔王を倒し、ピンク色溢れるハーレムライフを思う存分味わうことになっている。
このゲームは名作と呼ばれ、エロゲであるにも関わらず、100万部が売れた大作だ。
ストーリー自体は他の量産型のものと同じだが、ヒロインたちがとても魅力的で、特にエッチシーンが多くの男性たちを虜にしたほどだ。
今でも脳裏に焼き付いているあのピンク色の場面の数々……
俺がブラック会社で5年間働けたのもこの『ハッピーファンタジア』のおかげだ。
賢者モードになりながら俺はずっと願っていた。
このゲームの世界に行きたいと。
一回だけでもいいから、この世界が出る夢を見たいと。
結果的に俺は『ハッピーファンタジア』の世界に行くことができた。
けど、
俺は勇者の敵である魔王に転生してしまった。
「……」
俺は目を開ける。
すると、人族の女の子が真っ青な表情で俺から目を逸らしていた。
本来のストーリーなら、ここは魔王のクズさを見せるシーンだ。
魔族と人族は長い間戦いを繰り広げていたのだが、魔王軍がやっと人族の防御線を破り、エルデリア王国の辺境にある村を占領した。
魔王はこの綺麗な人族二人を無理矢理犯して、性奴隷にする。
そして、村に住む男は全部殺され、女たちは他の魔族らの手篭めにされる。
魔王は直接戦闘に加わることなく、ただ美味しいものを食べ、綺麗な女たちを食い散らかすようなクズで怠惰な生活を送る。
だが、ますます強くなる勇者とヒロインたちによって魔王軍は敗北を重ね、結局、魔王は聖剣エクスカリバーを覚醒させた勇者によって断罪されてしまうんだ。
俺は腹が立った。
日本では過労死したと言うのに、ここでは勇者のハーレムのための引き立て役をしろって言うのか。
この世界では俺はいずれ勇者に殺される。
そして、勇者はとてつもなく美しいヒロインズたちとピンク色溢れる毎日を送ることになるんだろう。
俺に尽くしてくれるイゼベルも勇者のハーレムに加わることになるのだ。
つまり、俺はこの世界でも敗北者としての人生を歩むことになるんだろう。
それがこの世界におけるルールなのだ。
でも、それって正しいのか。
俺がやられて勇者が幸せになることが正義?
ふざけんな。
決して勇者を嫉妬するわけではないが(笑)、俺の心の中で怒りという感情が芽生えてくる。
俺は人族の女二人のところへ歩んだ。
「お姉ちゃん……私……怖い……」
「リナ……」
幼い女の子は泣きながら女性を切なく見つめる。
よくみると、二人ともとても痩せていることがわかる。
おそらく栄養のあるものをちゃんと食べてないのだろう。
「人族の小娘ども!魔王アークデビル様の相手をするだけ光栄に思え!うっへへへ!!」
総司令官のヘーゲルが口角を吊り上げて言う。
俺はヘーゲルの言葉を聞き流して小さく唱える。
「
すると、俺の手に紫色の電気を帯びる黒い剣が現れた。
「ぶっははは!どうやらアークデビル様はこの二人がお気に召されなかったみたいですな!それなら、この俺が代わりに処分いたしましけど、」
ヘーゲルが涎を垂らしながらまたいう。
俺はまたもヘーゲルの声を聞き流して剣を高く振り上げてる。
「お姉ちゃん……」
「リナ……」
二人は目を瞑って死を受け入れるように涙を流した。
俺は剣を振った。
すると、
二人を拘束していた縄だけが解かれてしまう。
「「え?」」
状況が追いついてない女捕虜二人はキョトンと小首を傾げてお互いを見つめ合う。
イゼベルとヘーゲルと中位魔族も反応は似たりよったり。
俺はイゼベルに命令する。
「この二人に滋味のある食事を与えてくれ」
「え?」
俺は続けてヘーゲルにも言う。
「おい、ヘーゲル」
「は、はい!」
「人族の捕虜を全部解放しろ。もし女の子に手を出したら、この俺が許さない」
「「え?!?」」
イゼベルとヘーゲル、中位魔族は目を丸くして戸惑う。
女捕虜二人も状況は同じ。
俺はそんな彼ら彼女らを見て、ドヤ顔をしたくなったが、我慢した。
そして俺は
転生したという事実をバレないようにするために、俺はいつもの魔王のごとく面倒臭そうに傲慢な態度でワインを飲み干して口を開いた。
「もうこれより戦争はやめる。占領した人族の村を除いて、全軍魔王領に撤退。防御に徹しろ」
俺の声を聞いたイゼベルと二人の魔族、女捕虜二人は口を半開きにし
「「「はああああああああああ!?!?!?!」」」
おいクソ勇者。
お前の好きなようにはさせないぞ。
徹底的に破滅フラグをへし折ってやる
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