Roaring 39. 量産型〈滅却官〉――〈U.S.S.ダーレク〉
「くっ、なんだこいつらは!」
「警備を! 魔術師たちはどうした!」
大多数の議員がすでに帰宅していたこともあって、緊急招集に応じて市議会堂に馳せ参じた議員たちの数はまばらだった。魔法省のニューヨーク支部が占拠されたという報せを受けて、ニューヨーク市議会はさらなる守りを固めたが、取り囲む白装束の群集を前にして、議会堂の扉は今にも破られそうだった。
「議長、これは……」
「うむ……」
ニューヨーク市議会長、オリバー・ウォーバックスは冷や汗を流しつつ決断を下した。
「くそっ、市庁舎が再び襲撃されることになろうとは! 二十年前にジョン・カーター将軍に率いられた火星人が攻めてきた時もこうはいかなかったぞ! ……だが、もうこうなっては仕方あるまい。あれを使うぞ。
「まさか! 議会の承認を得ずに……」
「議長権限だ! 悠長に採決など取っている暇はない!」
ウォーバックスはそう言って議長席の下から古びた鍵を取り出した。議長席を降りて、議会堂の中心の床に描かれた『正義の天秤の女神像』の胸もとに鍵を突き刺した。
「ソー・ヘルプ・ミー・ゴッド……リアリティ・ヘルプ・ミー……シリアスリィ……目覚めよ、ダーレク!」
解錠すると同時に、カチャチと歯車が回る音がして、ゴゴゴと重い音を響かせながら石柱が持ち上がった。石柱が横にズレて開くと、中に納まっていたのは一体の甲冑だった。両手剣を上に突き出し、静止している甲冑は、議長の呼びかけに応じて目を赤く光らせる。
その直後、議会堂の扉が内側に吹き飛び、白装束の群集がなだれ込んできた。顔面蒼白の議長は敵を指差して叫んだ。
「奴らをせん滅せよ!」
『……
無機質な低い声とともに、魔造甲冑ダーレクが一歩目を踏み出した。掲げられた刀身から緑色の閃光が飛び出し、白い群衆を一瞬にして焼き払う。
「はっ、ははっ……やったぞ! 愚かものどもめ! やれい、ダーレク!」
『
かつて西部開拓時代に先住民の村を焼き払うために開発され、あまりの使い勝手の悪さから数回の実戦投入で廃棄処分となった量産型〈
白装束に混じる魔術師の中には
これはさすがに白装束の間にも動揺が広がった。後ずさる者と我先にと逃げ出す者との間で、議会堂の入口が大混乱に陥る中、また一人また一人と問答無用で灰に変えられていった。
「……ダーレクか。また古いものを持ち出したものだ」
その時、入口に出てきた男を前にして、ダーレクの足がピタリと止まった。両手剣を構え直し、突き出すようにして構える。
『……対象ノ脅威度ヲ、更新イタシマス……。執行モード……完全消滅呪文……』
「なっ、市長! 危険です! お下がりください!」
「無駄だ」
直後、切っ先からスティーブンソンに向けて放たれた強力な閃光が、そのまま跳ね返った。甲冑が爆散し、緑色の閃光が辺り一面に飛び散るようにして宙に消える。呆気なく破壊された切り札に唖然としつつ、ウォーバックスははっと息を呑んだ。
「は、反射魔法……だって……?」
合衆国憲法において、政治の場における『
目の前に立つニューヨーク市長が魔力を持たない『平民』であり、在任中に一切の魔法及び魔術式を行使できない『誓い』を立てさせられていることは、子どもでもわかることだ。
「し、市長……。どうして、あなたがそんな高度な魔法を……」
「簡単なことだよ、ウォーバックス議長」
ゆっくりと演壇に向かって議席を降りながら、みるみる内にスティーブンソンの金髪が黒く変わっていった。頬が黒ずんで、鼻が大きくなり、骨格が変形して身長が倍以上に伸びていく。突如として姿を現したのは、まるで山羊のような顔をした不気味な大男だった。
ザラザラとした雑音混じりの、まるで人間とは異なる発声器官を用いて無理やり英語を発音しているかのような聞くに堪えない不快な声で、男は自らの名を発した。
「私ノ名ハ……ウィ……ウィルバー・ウェイトリー……。教団長ダ……」
「い、入れ替わっていたということか!? 一体、いつから……」
「コレヨリ、儀式ヲ開始スル。邪魔者ハ消エヨ」
大男が軽く手を振った瞬間、ウォーバックスの上半身が『消滅』し、まるで千切り取られたような痕が残った両足が力なく倒れた。
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