第5話 好きな人が出来た?
「まぁ、なんと佐々木さん。好きな子ができたのですか?」
「そういえば、何やら携帯メールが最近多かったかと思ったら」
「私というものがありながらですよ。……まぁ。良いです」
「良いですよ。私はただの座敷わらし。妖怪ですし。人間との恋なんてできないと思ってますし」
「どんな子なんですか? 写真なんてないんですか? 『片思いだから』?」
「はぁ。恋の悩みですか。恋に歳は関係ないですもんね」
「どういうところに出かけたら良いかわからないと」
「ちなみに私はどうかって? 私は家が一番好きですけども」
「それ以外行くところが無いと言いますか。『もしいけるとしたら』?」
「うーん。もしも願いが叶うならですね。この前、一緒にお風呂に入って思ったんです。誰かと一緒にお風呂に入るのもいいなーって」
「私、座敷わらしでしょ。座敷わらしってこういうアパートに住む一方で、他の子たちは旅館に住んでたりするんですよ」
「ちょっとうらやましく思ったりして。温泉入り放題ですよ? 羨ましくないですか?」
「もし私がどこかへ行くなら、温泉が良いですね。混浴だったらもっと望ましいです。ふふふ」
「……って、佐々木さんには好きな人がいるのに何言ってるんでしょうね。混浴だったら、男でも捕まえられますかね」
「え、胸が無いから微妙だと。胸フェチだったのですか、佐々木さん。ショック」
「その子の胸は大きいんですか? ちいさい?」
「あ、親近感。良かった」
「どんな子なんですかー」
「『何か、独り言が多いような子』?」
「何ですかそれ。その子、根暗ですか。友達いないんですか?」
「『いっつも一人でいるような子』? なるほど。それは、友達いないですね。地雷物件かもしれないですよ?」
「『ある意味当たってる』って」
「あはは。じゃあ違う子にしたらいいんじゃないですかね。ほら、近くにいますよー」
「……なんてね。地雷物件好きだからって。佐々木さんの物好きもすごいですよね」
「あ、だから今まで彼女できないんじゃないですか?」
「『好きな子ができなかっただけだ』って? まぁそういうことにしてあげましょう」
「それでそれで? 恋バナですね。次はどうするんですか?」
「それを今決めてると。なるほどそうか」
「温泉が第一候補。うんうん」
「『もっとないか』って。私は特にないかな……」
「あれかな? 私は、ショッピングとかしてみたいです」
「私、一応これが正装でしょ。座敷わらしって、一応仕事中はこの着物を着る決まりでして。誰が決めたんでしょうね?」
「とはいっても、服が無いんですよ。あのパジャマは特別にこつこつ貯めて買ったんですよ。コツコツ夜なべをして作ったアクセサリーですね。メルカリで売って。そうそう、昔コツコツと」
「うんうん。可愛いんですよ」
「これを付けてお出かけっていうのもしてみたいですね。座敷わらしには夢が多いんですよ」
「夢は叶わずに暮らしているんですけどね。誰かここから連れ出してくれる王子様いないかなー」
「何ですか、私の手なんか取って。とりあえず、行ってみようって?」
「あ、あれですか。予行練習ってやつですね」
「私は住んでいる人の望みをかなえて、幸せにする妖怪です。良いでしょう。付き合いましょう」
「どこに行きますか?」
「『温泉』。良いですね! 私が言ったチョイスですね」
「『どこの温泉がいいか』って?」
「それも私にゆだねてくれるのですか。待ってくださいね。今調べますね」
「じゃーん。これです。これです。このサイト」
「何回も見たことあるっていうのがバレちゃいますね。あはは」
「リンククリックしたことあると、赤くなるのやめて欲しいですね。私の顔が赤くなっちゃう」
「『これとか?』って。そっちは下着サイトが別タブにあるのを見つけたりしないでください!」
「私、赤くなってますよ! そりゃそうですよ」
「『サイズが分かった』って。分かるな!」
「もう。佐々木さんは別に好きな人がいるんでしょ。まったく」
「で、ここ。ここです!」
「絶対ここなんですよ! プライベート露天風呂がついてて。カップルで行ったら二人で入れるんです」
「森の中。誰からも見られることも無く。ああ、いいな」
「一緒に。佐々木さんと」
「一緒に入ります? 私の傷心旅行みたいです」
「佐々木さんの昇進旅行か」
「うん。音声で聞いたらイントネーションでも違いがわからないですけど。それは言わないようにお願いします」
「じゃあ、行ってみましょうか」
「あ、ついでに新しい下着買っていいですか。今のやつは、ちょっとよれよれで。えへへ」
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