第6話 温泉へ行こう!

「そういえば私って、外に出れるんですかね? 座敷わらしの掟を破るみたいで」


「一緒に手をつないでたら出れるかもって。できるのかな?」


//SE バチバチッ! 電気が流れるような音。


「痛いっ」


「やっぱり結界のような。電気が流れるみたいな感じで。ダメです。出られません」


「佐々木さん一人で行ってくださいませ。私は一人で家でお留守番しておきます」


「『諦めるのはまだ早い』と」

「『どうすればできるか試してみたい』?」

「『原理を考えれば出れるはず』と」


「何やら必死ですね。何ですか原理って?」


「この家から出られないっていうのは、どこに縛られているかってことを考えて。何ですかそれ。畳を外して」


//SE ギシギシ。床が軋む音。


「ああ! なるほど。この畳を家の外に出すと。その上なら私は出られるんじゃないかって」


「考えましたね、佐々木さん。畳をダイレクトに玄関外に敷いて。私は畳の上を歩くと」


//SE ガチャ。扉が開く音。

//SE バン。畳を置く音。


「……やっぱり怖いので手をつないでいてください」



「……う」


「……あ!」


「出れました!」


//SE 鳥のさえずる声。


「ああ。外の世界。輝いている。眩しい」


「すごいすごい! これはすごいですよ! 私、外に出れました!」


「佐々木さんありがとうございます。佐々木さんは、私にとっての王子様ですね!」


「へへ。知ってますよ。佐々木さんに好きな人がいることくらい」


「まだ付き合ってなかったら、私にもチャンスは無いですか?……なんてね。気にしないでください」


「じゃあ行きましょう! 畳を持って下さい!」


「え? こんな重いのは、流石に無理だって。そりゃそうですよね。無理ですよね……」


「けど、畳がいけたってことは、家の一部であれば出れるかも知れないです。何かありますか? 何でしょう?」


「うーん。枕?」


「小さいですけど、枕はあまり踏みたくないですし。却下です」


「布団は、重いですし……」


//SE ギシギシ。床が軋む音。


「台所用品とか。鍋とか? 鍋に入った私を運びます? 猫鍋みたいな。座敷わらし鍋」


//SE カンカン。鍋を鳴らす音。


「可愛いかもしれないですね。けど、なんだか微妙ですね。私、そこまで小さくないですし」


「何か無いですか? 衣類とか。服に乗れば、出られますか?」


//SE ガチャ。扉を開く音。


「ちょっと佐々木さんの服を玄関外に投げて」


//SE 服が地面に落ちる音。


「ごめんなさい。踏みます……」


//SE 鳥がさえずる声。


「……あ! 出れた! すごい! 大発見です!」


「佐々木さんの服でも行けるものですね。佐々木さんも、この家の一部みたいなものですね」


「あ! 何か思いついたって顔してますね。え、私をおんぶしていくって?」


「私、『わらし』の年じゃないんですよ。私の歳、もう20歳超えてますよ。おんぶなんて……、ちょっと恥ずかしいです」


「誰にも見られないって言っても……。けど、温泉に行くためか。しょうがない。良いでしょう!」


「なんか背中に柔らかい感触とか期待しないで下さいよ? 私胸小さいんですよ。」


「いきますよ。よいしょ」


//SE ギシギシ。床が軋む音。


「腕で、胸元をガードしちゃってますね。ちょっと恥ずかしいもので」


「『もっとがっしり体をくっつけて』って?」


「『体の重心から遠くなる方が重いから』って。私、重くないですよ!」


「もう。とりあえず出られるか試してみましょうか」


「ドキドキする。ちょっとだけくっつきますね……」


「私の鼓動……、聞こえますか……?」


//SE ドクンドクン。心臓の音。


「ふふふ。ちょっと早いでしょ。緊張しています。」


//SE ガチャ。ドアを開ける音。

//SE すたすた。歩く音。


「ああああ! 出れました! おんぶで出れました!」


「これは良いですね。余計な荷物が無くて済みます。あれ? 私が荷物みたいなものか」


「『わらし』くらいに小さくなれればいいんですけどね。そんなことはできないので。私を背負っていってください!」



「私が佐々木さんの荷物を背負えば、他の人からは都合よくリュック背負ってるだけに見えるはずです。そういうものなんです。多分」


「ね。佐々木さん」 //耳元でささやく声。


「ふふふ。おんぶって顔が近くにあっていいですね。このまま私を連れて行って下さい」 //耳元でささやく声。



「何もぞもぞしてるんですか。『こんなに耳元で声を聞くのは初めて』って? 佐々木さん、耳フェチなんですね。ふふふ」


「頑張って私を連れ出して下さい。私の王子様。ふふふ」 //耳元でささやく声。



「それじゃあ、行きましょー!」

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