第4話 昇進のお祝い

「お帰りなさいませ。今日はとても遅かったんですね?」


「いえ、怒ってないですよ。ただ、遅くなるなら連絡くらい欲しいです」


「私、インターネット使えるんですよ。メールアドレスくらい持ってます。っていうか、前教えたじゃないですか!」


「PCで通話だって出来ますよ。言い訳は良いんです」


「……っていうかお酒臭い。飲み会だったんですか?」


「それなら、なおさら言ってくださいよ。いっぱいご飯作ってたんですよ。まったく……」


「『これもそれも、全部君のおかげ』? 何がですか?」


「あら、昇進したんですか。すごい」

「そうですね。私こう見えてもあげまんですよ! 根っからの!」


「よかった。佐々木さんが幸せそうで」


「『ここに住んでから全部が順調に進む』って?」


「良かったです。私も人の役に立っているって思うと嬉しくなります」


「『一緒に飲もう』って」


「良いですよ。じゃあ、一緒に祝杯上げましょう」


「あ。ちゃんと買ってきてくださってる。ありがとうございます」


「こちらは、ビール。これは佐々木さん用ですね」


「えーと、こちらもビール……。黒色のビールというやつですね。これも佐々木さん用」


「こちらは、赤いビール。レッドアイ。カッコいいですね。トマトが入ったビールなのですね。酸味が良いと。けど、これも、佐々木さんの……」


「私のはどれですか? 『甘いお酒を買ってきている』って」


「まぁ。私の好みも把握されてて。ありがとうございます」


「けど、私ワインとかは飲めなくて……」


「『和風な雰囲気だからそう思った』って。 私の事なんでもわかるんですね。そうなんです。私飲むにしても日本酒しか飲めなくて」


「あ、これ」


「ありがとうございます。ひめぜん。甘くておいしいんですよね。ふふふ」


「私も酔ったら面倒見てくれますか?」


「じゃあ今日はとことん飲みましょー!」


//SE 缶ビールの開く音。

//SE 瓶の蓋が開く音。


「佐々木さんは、缶をそのまま召し上がるのですね。良いですね、良い飲みっぷりです」


「私も久しぶりに飲みますよー」


「おちょこ? そんなものはいりません。私もそのまま飲みます、ビンのまま!」


//SE ぐびぐびぐび。喉が鳴る音。


「ぷはーーーーっ! 生き返るーーーーっ!」


「『座敷わらしがお酒飲むところ新鮮』って? 普通は『わらし』ですからね。飲んじゃいけませんよねー」


「私は、ヒック。もうこんな年なので。ヒック」


「あはは。すきっ腹には、効きますね」


「あはは。私、笑い上戸なんですね」


「佐々木さん。昇進なんてすごいじゃないですか。お仕事できるんですね」


「流石ですよ! 毎日頑張ってるの知ってますよー」


「私が寝た後に、一人起きて勉強されてて。考えていること全部私の頭にも聞こえてくるんでわかります」


「毎朝早くから夜遅くまで。文句も言わず」


「少し頭の片隅に文句があるのは、聞こえちゃってます。けどそれを口に出さずに」


「たまには口に出してもいいですからね。私が全部聞いてあげます」


「姉さん女房じゃないです。若いおかみさんって言ってください。ふふふ」


「私、女房ですか?」

「『そうなってもいいかもね』って」


「今日は酔っているからか、佐々木さんの本心が聞ける気がします」


「私のどこが好きですか?」


「まずは、可愛いところ。うふふ」


「それでそれで? もっと言ってください。料理が上手いところ」


「それでー?」


「あーーー! 出ましたね! ちょっとエッチなこと考えたでしょ」


「やっぱりボロが出ますね。ふふふ」


「いや、ちょっとどこまで考えているんですか! 流石にそれは、ちょっとダメです。恥ずかしいのやめてください」


「ばか! エッチ!」


//SE ガシャ。缶ビールが倒れる音。


「あーー。もうビールこぼしちゃってもったいない」


「怒られますよ? ここの床、下の階に漏れるんですから」


「拭いて拭いて」


//SE ギシギシ。床が軋む音。


「ああ。佐々木さんも濡れちゃってるじゃないですか。それもびちゃびちゃ。一回、お風呂にでも入ってきてくださいよー?」


「え、一緒に入ろうって。……バカですか?」


「一人じゃ怖いなんて年じゃないでしょ」


「私は怖がっても良いんですよ。まだ若いですし」


「そんなに変わらないじゃないかって。若いもんは若いんです!」


「まぁ、昇進したってことのお祝いで背中くらいなら流してあげても良いですけど」


//SE 扉を開ける音。

//SE シャワーが流れる音。

//SE 服を脱ぐ音。


「はい。絶対にこっちは見ないでくださいね」

「着物濡れちゃうんで、着物は脱ぐんですよ。いつも通り、赤い下着です」


「言わずも通じてしまうのが悲しいところですね。全部筒抜けですよ佐々木さん」


「私の下着はこれだけですよ。昇進祝いに、今度買ってください」


「『こんなのがいいかなー』って想像してるんじゃないですよ」


「何、その卑猥な下着の想像はなんですか! バカ!」


「もう背中流さないですよ? ほらほら早く」


//SE シャワーが流れる音。


「佐々木さん、こちらを向かないでください」


//ジャー。シャワーが流れる音。


「疲れた背中ですね。頑張ってる証拠ですね。


//SE ごしごし。背中をこする音。


「お風呂ってなんだか心が落ち着きますよね。あったかいお湯で」


「辛いことがあったらいつでも言ってくださいね。私が聞きますからね」

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