第3話 美味しい朝ごはん

「佐々木さん、朝です!」


「カーテンなんてオシャレなものを持ってきちゃって。朝の日差しが見えなかったですけど、朝です」


「起きてくださいー! なんで起きないんですか?」


「『緊張して寝れなかった』?」


「ばか。何考えてたんですかまったく」


「起きてー」


「『目覚めのキスでもしてくれたら、すんなり起きるんだけどな』?」


「何考えてるんですか。思ってること全部筒抜けなんですって」


「『朝ごはんが食べたいな』って。いや……、もうちょっと私のこと考えて下さいよ」


「こんなセクシーランジェリー見せてるのに。自信無くしますよ。はぁ……」


「しょうがない。私が腕によりをかけて朝ごはんを作ってあげますよー!」


//SE 水道をひねって、水が流れる音。


//SE 野菜を切る音。


//SE ジュージューと焼ける音。


「良し。お米を早炊きしても、それ以上に早く作り終われる。そしてこのクォリティ」


「私は、なんて完璧なお嫁さん。……じゃなかった。勝手にお嫁さん気分になってましたけども」


「私はただの座敷わらし。居候の身」


「いや、佐々木さんが居候。ここは私の家」


//SE 炊飯器の炊けるメロディ。


「あ。できました。あの大きいお兄さんを起こさないとですね」


「どうやって起こしてやろうかな?」


「体大きいからなー。くすぐりとか効くかな?」


「ソーっと近づいて……」


//SE 小さくギシギシ。床が軋む音。


「可愛い寝顔をしてますね」


「ほっぺにつん」


「……起きないな?」



「脇腹つんつん」


「……起きない」



「足の裏こしょこしょー」


「……あれ起きない?」



「どこが弱点なんですかね。あ! わかった。きっと耳ですね!」


「こっちの耳から、ふーーー」 //右耳から聞こえる。


「……起きない。逆でしたか?」



「逆の耳から、ふーーー」 //左耳から聞こえる。


「……あらら、起きない」


「耳っていうのは間違ってないと思うんですよね。こんな体大きい人、やっぱり人間の弱点は穴です」


「……あな」


「……おしり」 //少し大きな声。


「いや、何も考えてません!」


「というか寝てるから大丈夫か。危ない、危ない」



「耳の穴です。優しく囁けば」


「朝だよ。起きてダーリン」 //右耳から聞こえる。



「……あああああああ! 言ってる私が恥ずかしいいいいいい」 //少し大きな声。


「あ、起きた」


「『朝から大声出さないで』って」

「『お尻の穴とか変なワードとかもやめて』って?」

「恥ずかしがる声がすごい大きかったら起きたと」


「気持ちが高まると、その分大きくなって聞こえちゃうんですね。あはは」


「おはようございます」


「『お尻の穴』は小さかったでしょ?」


「『そんな、尻の穴が小さい男じゃない』って? あ、そういう話じゃなくて、声の大きさのお話で」


「私、『お尻の穴』に興奮して無いですよね」


「『エッチな考えしているのは、わかってるから気にしなくていい』って……」


「そう思われていることが気にしちゃいますよーーー! 私はそんなにエッチじゃないです!」

「普通です。正常です! これが20代乙女です! 女の人と付き合ったこと無いからそう思うんですよ!」


「付き合ったこと無い……。私もか」


「いや、これは同棲といいますか、居候といいますか。付き合っているのとはまた違って。その先ってわけじゃなくて」


「うーん」


「そんなこと考えてないで、時間ですよ! 早くいかないと会社に遅刻しちゃいますよ」


「せっかく豪華な朝ご飯を準備したので食べていってくださいね」


「和風でしょ? お味噌汁。焼き鮭。白米。さぁ、召し上がれ」


「『すごく美味しい』って。そんな褒められても」


「味付けとか、そういうのは関係ない物ばかりですし……」


「『魚の焼き加減とか、みそ汁の濃さがちょうどいい』って。ありがとうございます」


「『良いお嫁さんになれる』って。嬉しいこと言ってくれますね」


「なかなか相手がいないんですけどね。『そりゃそうか』じゃないでしょ!」


「俺が立候補しようかなーとか、そういう展開あるでしょ! リップサービスっていうものがあるでしょ」


「『英語を使わないで』って? 使いますよ!!」

「昨日はあんなに下着に興奮してくせに、私に興味がないなんて!」


「佐々木さんのただのエッチ! ばか!」


「その気がないなら、せめて料理だけでももっと褒めろー!」


「うんうん。『やっぱりおいしい』って」


「甘めの白米が好きなところとか、少し軟らかめに炊くところとか。それが一番良いって」


「そんなの誰にでもできますって」


「佐々木さん、真面目な顔しちゃって。一人暮らしが長いから気づかなかったけど、誰かに作ってもらうご飯ってとってもありがたくて、それだけでも美味しいのに、俺の好みに全部ドンピシャ?」


「思っていることがあったら、頭の中だけでも伝わるっていったじゃないですか。一言一句同じことを口に出さなくても……」


「佐々木さんは、嘘をつかない正直な人なんですね」



「……私の事、どう思いますか?」


「『綺麗だな』って」


「ありがとうございます」



「……結婚相手にどう思いますか?」


「『美人な奥さんで、お嫁にもらう人は幸せだろうな』って」


「ふふふ。どうですか? 佐々木さんのお嫁さんにピッタリでしょ?」


「じゃあ行ってくるって……」


//SE ガチャッ。扉が開く音。


「肝心なところーーーー!」

「返事をしてからにしてくださいよー!」

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