第2話 寝床の取り合い

「えーっと、佐々木さん。寝るところは一応分けましょうか」

「年頃な男女ですし。初対面ですし……」


「どちらかが押し入れで寝るというのはどうでしょうか?」

「え? 『私が押し入れに行け』と」


「佐々木さん、わがままが過ぎませんか?」


「ちょっとカッコいいからって。私の方が長年住んでるんですよ」


「『人間じゃないじゃん』って」


「あなたに妖怪の恐ろしさを思い知らせてあげましょうか!」


「『何ができるんだー』って? 私だってその気になれば!」


//SE ぽわっ。


「どうです? ちょっと心が温まったでしょ?」


「もっといきますよー。それそれそれー」


//SE ぽわぽわぽわっ。


「どうですか? これが座敷わらしの能力です! 人を幸せにする力なんです」


「こちとら、20年も座敷わらししてないですよ! どうですか!


「『ありがとう』って。『癒された』って」


「はい。どういたしまして」


「え、佐々木さんが押し入れで寝るって? いや、やっぱりそれは可哀そうといいますか……」


「ここは、折衷案ということで。やっぱり二人で一緒に寝ましょう」


「いつもは、この着物を脱いで寝てるんですけども、佐々木さんがいるのでちょっとおしとやかに」


//SE ガサゴソ。押し入れを漁る音。


「あったあった。ちょっと小さいかな? まぁいいか!」


「じゃじゃーん! 可愛いパジャマでしょ!」


「シルクっていうんですよ。ナウいでしょ?」


「『何かと古い』って」


「あれれ? インターネット通販で注文したんですよ」


「最近は、置き配って言うのもあって便利になりましたよね。私の姿が見えないので、いつも再配達になっちゃってたんですよ。けど最近になって買えるようになって」


「良い世の中です。これを着てみますね」


「えーっと」


「ちょっとあっちを向いててもらえますか? こんな狭い家で着替える場所なんて限られてますし。 お風呂場はちょっと怖いですし」


「お化けとかでそうじゃないですか? だから、私あんまりお風呂に入らなくて」


「たまには入ってますよ? 明るいときに入るんです。夜には絶対に入りません」


「今、夜ですし」


「ということであっち向いて下さい」


//SE しゅるしゅるしゅる。着物の帯を取る音。


「このパジャマ、結局買ってから1回しか着てなくて。やっぱり下着で寝ちゃおーっていっつも」


「あれ?ちょっと大きいかも……」


「寝やすそうですけど、肌触りサラサラで。ちょっと胸元が開き過ぎてる……」


「これじゃ、私の赤い下着が見えちゃいますね。困った……」


「あ!」


「佐々木さん! 聞くんじゃない!」


「佐々木さんの心の声も聞こえてるんですよ!」

「下着の色を想像するんじゃない! バカ、エッチ、ど変態!!」


「どうにかならないかな。考えたことが全部伝わっちゃうの。いつか、私のスリーサイズとか知られちゃいそう」


「『どのくらいかなー』って?」


「ダメだ考えたら全部伝わっちゃう……」


「佐々木さん!! 私の胸は大きいですよ!」



「……なんてね。ちょっとコンプレックスなんですよね。胸小さいの」


「『そういうのも悪くないよ』って。ありがとうございます」


「勝手に私の思考に入ってこないでください。変態ですよ」


「はぁ。視覚は共有されなかっただけましか……」



「佐々木さん出来ました」

「はい。ご覧の通り、私胸が無いので、ちょっとみすぼらしいですけど」


「ちょっと赤いブラが見えてますけど。あまり見ないで」


「もう電気消して寝ましょ!」


「『可愛いよ』って? ありがとうございます」


「赤い下着、お気に入りなんです。これって大胆でしょうか?」


「ドキドキして寝れない? そんなことを言ってもらえるなんて嬉しいです」


「けど、寝ましょう。明日は朝早いんでしょ?」


「おやすみなさい」


//SE ひもを引っ張って、電気を消す音。

//SE 布団をかける音。

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