片田舎のボロアパートに住んだら、座敷わらし(25)が付いてきた件。
米太郎
第1話 六畳一間に座敷わらし
「窓から朝日が入ってくる。気持ちの良い朝です。東京なのに、東京じゃないみたいなんですよね。窓の外には山々が見えて。鳥のさえずりだって聞こえる」
//SE 鳥がさえずる声。
「車の音や、人の声なんて聞こえないんですよ。とっても過ごしやすい。なんでみんなここに住もうって思わないのかな?」
//ギシギシ。床の軋む音。
「あー、歩くと床が軋む音がするのは、この物件のマイナスポイントかな。ちょっと築年数が古いんですよね。築50年。戦後の建物ですよね」
「私が住み始めて、えーっと、20年かな? えへへ。歳ばれちゃいますね」
「古いぼろいアパート。今時、畳なんて敷いてある部屋ありますか? ここにあるんですけども」
「まぁいいか。私はこの部屋に満足しています。他に誰も住んでないし。住みやすいし」
//ガチャガチャ。扉の音。
「あれ? ドアの音? 誰か来たのかしら?」
//ガチャッ。扉が開く音。
「あー、大家さんでしたか。どうもこんにちは。……って、そうか私のこと見えないんですよね」
「私は座敷わらし。もう長年住み過ぎて『わらし』って年じゃないんですけどね。わらし時代から住み始めて、20年」
「歳を数えるのは、失礼ですからね。まだ20代ですよ」
「そんな独り言を言ってても気づかれないんですよね。今日は何の用でしょうね。大家さん」
「あれ、後ろに誰かついてきて。あら、イケメン。どうしたのかしら?」
「え、こっち見た。目が合ってます。……なんで?」
「あ、どうも。こんにちは」
「はい。佐々木さん」
「下の名前は、太郎さん。シンプルな名前ですね」
「ここに住むことになった? え? そうか。ここは私の家というよりも、私が勝手に住んでるだけですね。失礼しました」
「あ。佐々木さん。大家さんの顔を見てください。私のこと気にしてないでしょ? 私って、住んでる人にしか見えないんですよ。ちょっと私の事は内緒にしていてくださいね。お祓いなんかされたら、私住むところ無くなっちゃうので」
「佐々木さん、私の事を気味悪がらないんですね。ありがとうございます」
「『綺麗だから』って?いや、褒めても何も出ないですよ。何言ってるんですか」
「『これから一緒に住むからお互い気持ちよく』って。ありがとうございます。佐々木さんも、カッコいいですよ」
「……恥ずかしいですよ。何言わせてるんですか」
//ギシギシ。床の軋む音。
「とりあえず、大家さんが帰ってからゆっくり話しましょうか。けど、そうかそうか。内装の紹介ですよね。私も一緒に紹介しますね」
「大家さんよりも私の方が詳しいですよ。伊達に20年住んでませんから」
「えっと、いや。歳を推測するのはやめてもらっていいですか。私は20代です! さっき独り言でその話をしました」
「『20代前半? むしろ10代に見える』って? お世辞は良いですよ。ありがとうございます。素直に嬉しいです」
「ちなみに、佐々木さんはいくつですか? ああ。30代。私よりも少し上ですね。若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」
「とりあえず内装を案内しますね。こちらがリビング。六畳一間で何を言ってるのかって? リビングなんです!」
//ギシギシ。床の軋む音。
「こちらが押し入れです。布団を入れたり、荷物はこの中に。いかがわしいものはだめですよ? 私がチェックしますからね」
「え? 姉さん女房みたいって。いや、女房だなんていきなり。といいますか、私の方が年下ですよ。間違えないでください」
「『しっかり者だから』って。そういうことならいいですけど」
//ギシギシ。床が軋む音。
「大家さん、紹介が早いですね。ちょっといい感じの雰囲気なのを壊して。まったく……」
「こちらが窓です。洗濯ものが干しやすい!」
「『ひらひら何かついてるね』って。……ああああーーー!! 私の下着は見なかったことにしてくださいーーー!!」
「『赤いから目立ってる』って? ばか! エッチ! 佐々木さん変態!」
「見えるのは、この部屋に住む佐々木さんだけなんですよ。こんな部屋で、こんな座敷わらしの衣装でできる最後の楽しみなんですから」
「人の下着にあんまりケチ付けないで下さい! え? 褒めてたって。……セクシーとか」
「バカ。エッチ! どえっち!! ど変態!!!」
「形状は見てないですよね。色だけですよね。ふう。良かった」
「ひらひらレースなんて見られたら、お嫁に行けなかったですよ」
「なんでニヤニヤしてるんですか?」
「ああああああーーーー!! そうか。私の思ってることも全部筒抜けになっちゃってるんですね」
「ばかーーーーー!」
//ギシギシ。床が軋む音。
「聞くなーーーーーー!!」
//ギシギシ。床が軋む音。
「ど変態!!」
//ギシギシ。床が軋む音。
「よし、ナイス大家。早く次を案内して」
「ふう。私落ち着け……。切替が大事。大丈夫」
「どちらかといえば、私くらいの年の女性は下着だってオシャレしてますよ」
「佐々木さんが今までどんな人と付き合ってきたか知らないですけど」
「え? 付き合ったことは無い? なんでイケメンなのに?」
「『どうも奥手で』って。そうなんですか。じゃあ私と一緒ですね。仲間です」
「これから仲良くしましょ」
//ギシギシ。床が軋む音。
「そう、大家。いつも良いところでカットインだな……」
「そちらがキッチンです。意外と綺麗でしょ?」
「これでも毎日料理しているんですよ? すごいでしょ。今度何か作ってあげますね。好きなものを言っておいてください」
「『家庭的な料理』? 具体的にお願いします」
「『肉じゃが。お味噌汁。焼き魚』」
「いや、私がこんな着物着てるからって、洋風な料理も作れますよ?」
「座敷わらしだってグローバルなんですよ。今の時代。そうそう、ネットだって使えますし。情報通ですよ?」
「レシピサイト見て、今日はこれ作ろーって。そうやって腕を磨いていたのです」
「いつかこの部屋に来る人をおもてなししようって。それがあなたです。佐々木さん。美味しい料理でがっちり胃袋を掴んでやりますよ」
//ギシギシ。床が軋む音。
「はい。大家さん。次どうぞ」
「良い感じにさせてくれないなら、早く帰ってくださいよ……」
「こちらがトイレです。佐々木さんって、トイレットペーパーの好みとかってありますか?」
「せーので言いますか?」
「いきますよ、せーの」
「ダブル!」
「おおおおおー! 佐々木さん。そうですよね。分かる方で良かった。そうですよね。ダブルですよね。一緒のトイレットペーパーでいけそうですね」
「ふふふ」
//ギシギシ。床が軋む音。
「はい。こちらがお風呂です」
「あまり広くないんですよ。明らかに一人暮らし用ですね。まぁ一人で入りますよね」
「そりゃそうですよね」
「そうですよ」
「もちろんですよ」
「こんな狭いところに二人で入ったら、体密着しすぎちゃいますよ」
「二人で入りたいっていうなら、私は拒みませんよ」
「私は」
「全然」
「とても」
「むしろ、ウェルカム」
「……ということが全部筒抜けなんですよね。ははは」
「にやけないで下さいよ。佐々木さんは変態大魔神です」
「『それは、君の方じゃないか』って」
「それは……。そういうお年頃ですし……」
「ねえ」
「年頃の男女が二人一つ屋根の下に暮らすってなったら」
「そうよねえ」
//ギシギシ。床が軋む音。
「大家! 早く帰って!! 鍵は、私がスペアを持ってるので大丈夫です!」
//ガチャッ。扉が開く音。
//バタン。扉が閉まる音。
「はい。これで大家さんは帰りましたね」
「それでは、あらためて。わが家へようこそおいで下さいました」
「狭いところですが、自分の家と思ってくつろいでくださいませ。これからどうぞ、よろしくお願いします」
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