逆再生

逆再生

柔らかい部分としては柔らかくない二の腕に塗る日焼け止め

不死身かもしれないんだよわたしたち一度も死んでなくてすごいね

かつて海だった場所だと聞かされるかつて海だった街の上で

無防備なおでこを撫でて海風は海をどこまで運ぶのだろう

沈黙がちゃんと沈黙　取り返しつかないことは丁寧にして

寝そべればなくなる胸を撫でられて次の被弾を待ちわびている

ささやかな微熱　君から放たれた二酸化炭素もいとおしかった

過去になる速度で海をあとにする君は右手でマスクを外す

解散と言えばあかるい恋人が元恋人になって解散

背骨にはたぶん天使が住んでいて、たまに翼を揺らしたりする

自販機がときおり唸る振動に合わせて祈る　ばかみたいだな

100円の水が110円になり10円玉がいつも足りない

くるくると回転扉　切りすぎた髪をどんどん短く切った

歯ブラシをひまわりと呼ぶ　ひまわりで排水溝を洗う火曜日

新曲を待たなくていい気楽さで君のLINEを見返している

大人には大人の孤独　苦手だと言えずに食べるシーザーサラダ

いいひとはいないのと問う祖母の目が三日月型でつられて笑う

体重がすとんと落ちて寝なくてもたいらな胸を自分で撫でる

無花果のしろさにじっと囚われて正夢ばかり見ていたかった

潜水が上手な子どもだったこと海を見るたび思い出す　ほら