第19話 未知の領域

 価値観……男女の仲で別れる要因の一つだそうだ。その為、お互いの共通点を探して共感を得る方法が一番良いらしい。年下年上、学生会社員、都会育ち田舎育ち、ダメだ何一つ共通点がない。のぼちゃんと私では環境が違いすぎる。なぜ、のぼちゃんはこの恋愛のハードモードに挑んだんだろう。


好きについて調べてみた。この感情が別の感情の勘違いだと気づかずにいたら泣くに泣けないからだ。

――仲良くなりたい……大まかに好きという感情からはズレてはいなかった。良かったと胸を撫で下ろす。


そうと分かったら行動あるのみ、恋愛ものの映画、漫画、歌、片っ端から聴いていった。予習はバッチリ。夜はミセスマリーラブの講座を聴いている。


「ごきげんよう、結婚のマリッジと恋のラブをかけてミセスマリーラブと申します。今宵こよいも迷えるラブっ子の皆さん集まれ――!」

寝る前に聴くといい感じに眠れる。


「今回は付き合いたてのカップルに向けての講座です。女性対象のアンケート調査から、どうして彼はそんな反応? に答える実践的な内容になってますので、皆さまどうぞ最後までご覧ください。」

そして、シチュエーションで彼女役と彼氏役が出てくる。カフェでの会話だ。


「そうだ、来週から出張なんだよね。二泊三日、関西なんだけど」

「えっそうなんだ、大変だね」

「俺がいないと寂しい? 」

「えー、別に大丈夫だよ。お土産よろしくね」


ブ――ッ! ミセスマリーラブのふくれたれたドアップが画面いっぱいに映る。間違っている場合はドアップが映るらしい。何が間違いだ?

「彼女は大きな間違いを犯してしまいました。これにより彼の気持ちが一歩離れてしまうでしょう。男はプライドの高い生き物です。聞いたことあるでしょう。それを生かして手のひらで転がしましょう。正解はこうです」

また、先ほどと同じ会話の画面始まる。最初は同じ会話なので正解の会話まで早送りをした。


「俺がいないと寂しい? 」

彼女役は下をうつむき涙目で訴えた。

「寂しいに決まってんじゃん、眠れないかも……」

「お前……」

二人は熱い抱擁ほうようを交わした。

おおっ、これが正解なのかと思わず感嘆かんたんの声が漏れてしまった。なかなか刺激が強い。


「皆さま、いかがでしたでしょうか。恋愛ってちょっとした差で気持ちが変わってしまうものです。これで一つレベルが上がりましたね。では次回会う日まで素敵な恋愛を。マリーラブ! 」

おやすみなさい、マリーラブ。感謝を込めて挨拶し眠りについた。


 翌日、仕事帰りにのぼちゃんとカフェで待ち合わせをした。好きと言われた日以来だ。緊張するがきちんと予習をしたので大人として頑張ろうと思う。


「なんか久しぶり、元気してた?」

「うん、なんとか。そっちは?」

「まあまあ……かな」

とてもぎこちない、いつもと明らかに違う会話。どうしよう、気の利いた会話が出てこない。私は年上の大人だ、年下の彼に気を遣わせてどうする。ちぢこまった体を伸ばした。


「私達って色々あったじゃない、でもこうして乗り越えて成長できたというか、だからきっと大丈夫、自信持とう!」

「えっちょっと待って、そのキャラ何?」

「すみません」

しっかりした年下君にたしなめられた。私の中の大人女性が顔をピョッと引っ込めた。


「俺ら出会って間もないし、まだお互いのこと、よく知らなくて……。でも俺が好きになってしまって、もっと知りたいと思っている。この関係を時間をかけて大切にしていきたい、お互い忙しいとは思うけどこうやって会える時に会って話さないか?」

「う、うんそうだね、私ものぼちゃんのこと知りたい」


そうよ、知り合って間もないのに告白って、どうりで大切なセオリーが抜けてると思った。恐るべし年下。そっか足りない部分は、ゆっくり話し合って補えばいい。


 今まで道端のカップルを見かけるとただ、うらやましいと思っていたけど、皆こういうところを乗り越えて来てるんだと思うと尊敬を感じる。一歩、一歩、大切に行こう。











































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