第20話 正解のない答え

 私とのぼちゃんは、お互いの話をした。初めてギターを練習した時、指先が痛くて辞めようかと思ったけど慣れると平気になった。田舎いなかの猫は、とても自由で縁側えんがわに干してある作業服の上で寝ちゃって怒られること。価値観が違っても話していけばいいと、この時までは思っていた。


「来週の週末、サークル合宿があって二泊三日なんだ」

「サークル合宿?」

 のぼちゃんが頭をコクンとうなずいた。そっか会えないのか。いたずらっ子の目で聞いてきた。

「寂しい?」

 その時、体に衝撃が走った。これ、予習した! 少しうつむき、涙をうるませて

「……寂しいよ、眠れなくなるかも」

 完璧! 恋愛なんて余裕かもしれない、自信がみなぎった。


シーン…… 二人の間にこれまでにない沈黙が流れた。


「――なんか違う、なにか食べる?……」

「なんで? なんか違うって」

「――う~ん、そうじゃない……」

 マリーッ! 心の中でミセスマリーラブを叫んだ。


 あの後のぼちゃんは、また連絡すると別れた。これで恋が終わったのではないかと泣きそうになった。はじめのころの関係が良かったかもしれない、戻りたいかもと不安がつのった。早く家に帰りたくなくて各駅停車の電車の中では放心状態だった。難しいよ、確実な正解や間違いを探すことを生業なりわいとしているのに、不確かな感情なんてどうやって学んだらいいんだろう。


「分かんねえな、洋子とさ、この間映画見に行ったんだよ」

「ああ、洋子さんと?」

 向かい側に座っている男子高生と思わしき二人が大きい声で喋っていた。

「良かれと思ってさ、こっちは普段アクションとかアニメとか見に行ってたんだけど。付き合って初めてだから、恋愛を選んだんだよね」

「うん、いいじゃん」

「そしたら洋子のやつ、違う、なんかそうじゃないって、なんだよそれ」


 へ? あまりのタイムリーな自分の悩みとマッチした為、思わず隣の席に移って声をかけてしまった。

「あの、すみません急に話が聞こえて、私も彼氏っていうか相手が好きになってくれているんですけど、同じことを言われました。どういうことか分かんなくて」

 二人の男子高生はビックリして、体ごと引いていた。

「―― 誰? …… 」

「本当すみません急に、彼が “ 合宿があるんだけど会えなくて、寂しい? ” って聞かれたから、恋愛講座で学んだ寂しいって言い方を可愛く言ったんですけど。彼に “ なんか、違う” って言われて、ショックで」


 それを聞いた坊主頭ぼうずあたまの男子高生が

「分かる、分かるよ、意味が分かんねえもんな。違うってなんだよ、聞いてもさ、う~ん、そうじゃないってばかりで我儘わがままな奴だなって」

「うんうん、こっちは相手のことを考えてるのに」

 それを聞いたサラサラ髪のおしゃれな眼鏡めがねをかけた男子高生は


「そうかな」

 

二人の意見にやんわりと切り込んだ。

「俺の前ではのままの彼女でいてほしいかな」

ん、? 坊主の子と私は同時に向いた。

その子は笑顔で答えた。


「だってさ、せっかく二人だけの仲なのに急に意識されて変わられるよりは、他の人の前での彼女と違う、俺の前だけの素の彼女ってよくない? そしたら無理して意識されると距離感じるから、よっぽど素のままの方が可愛いよ」


へぇ、自分に言われたわけではないが照れる。坊主の子もほほが赤くなっていた。しばらくすると降りる駅が近づいた為、男子高生の二人と握手、お礼をしてお互いに激励げきれいを送り合った。皆、上手くいくといいなあと降りて大きく伸びをした。





















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