第17話 全てがつながるとき

 私は今まで何してきたんだろう。会社の仕事頑張ってたはずだけど、小野寺さんを守れなかった。苦しむのは私だけでよかった。なのに、なんで? こうなったんだろう。言葉にできない悔しさと悲しみが溢れ出す。何度も過去の自分を責めても虚しさしか返ってこなかった。


 気づいたらベンチに座っていた。無意識に、携帯をかけた。

「もしもし、どうした?」

「あ、のぼちゃん、声が聞きたくて…… 会いたいよ」

「何かあったのか」

自分でも何を言っているか分からなかった。

「あ、ごめんごめん大丈夫。急にビックリするよね」

「お前、今どこにいるの?」

「…… ベンチのとこ」

「今行くから、そこで待ってろよ」


携帯をしまうと我慢してた涙があふれた。口をへの字にしていたのに。苦しむのは私だけでよかったのに周りに迷惑どころか苦しい思いを我慢させてた。小野寺さんの優しい笑顔を思い出す、もう分かんないよ。


「大丈夫か」

のぼちゃんはすぐに腰かけて肩を抱いてくれた。

「小野寺さん、覚えている? 私が教えていた子」

「覚えているよ」

「いつもどこに行くんですかって聞いて、子犬のように付いてきてた。特に何も思わなかったんだけど、彼女、課長からセクハラされてたって。それで部屋から出てこれなくなったって。最後話したのに、彼女の精一杯の不安の訴えを気づいてあげられなかった」


「そうだったのか」

涙は止まらなかった、もう変えられないけど気持ちがどんどん溢れてくる。

「苦しむのは私だけでよかった、周りから距離置かれても強く当たられても私だけでよかったのに一人でいるのも普通に恋ができなくても」

「普通に恋ができないってどういうこと?」


「私も同じことされてたから、もう普通に人と付き合えなくてもいいって」


……お前が殻に閉じこもって、人と仕事しないこと通用すると思うなよ ――。


全てがつながった時、のぼちゃんは強く抱きしめた。

「そんなこと言うなよ、俺が全て受け止めてやるから。好きだよ、今は無理でもお前が人を好きになれるように、ずっとそばにいるから」

それから優しくおでこにキスをして、もう一度抱きしめた。私はのぼちゃんの腕の中でずっと泣き続けていた。


しばらくしてゆっくり体を離すと、話を続けた。

「あの時もこんなに傷ついていたのに自分の事より人のことを考えて、パンケーキを二人で食べようって取り分けたり、俺のギター聴いてくれて考えて。二回目のギターは好きな人に弾きたいって、そう気づいたら好きになってた」


「そうなの? 」

「小野寺さんも前の社員の人たちも、めぐがどんな人か分かっているから心配をかけさせたくないようにしていたのかもしれない。だから、もう自分を責めて傷つけるなよ」

うん、小さくうなずいた。今度は優しく抱きしめてくれた。そして夜空に上がった満月は二人を静かに照らして、一日の終わりを告げていた。












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