第16話 苦しみの中の真実
「原木さん、ちょっとよろしいですか」
黒縁メガネの女性に呼ばれた。話したことはないが、何だろうと不安になった。明らかなのはプライベートの話ではないことだ。別室に呼ばれるとそこには黒縁メガネの女性の上司と思われる人と二人座っていた。
「お忙しいところ、急に呼び出してすみません」
「いえ、何かあったんですか」
「ええ、私は人事部長の
「よろしくお願いします」
羽山は白髪で紳士な感じだったが
「小野寺さゆりさん、覚えていますか」
えっ? 小野寺さんもう辞めたはず、どうしたんだろう。
「はい、仕事を教えていた時がありましたので覚えています」
「彼女、様子がおかしかった時はありませんでしたか」
いつも笑顔でどこ行くんですかって付いてきてたくらいかな。後は配属された先が松永のところだから心配したくらい。
羽山は重々しく口を開いた。
「そうですか、実は彼女のお母さんから電話があって彼女が部屋に引きこもって出てこれなくなってしまったそうです」
えっ? どういうこと。
「課長の
ドキン! 心の中で大きな音が鳴った。セクハラ……そういえば私の時って……。
「おい、原木この仕事も頼んだぞ。そしたら評価になるからな」
「はい、分かりました」
「ちょっと夕食買ってくる」
残業が続いたときがあって真島が夕食を買ってきたんだっけ。
「原木ここ置いておくぞ。原木、お前はいつも頑張ってるな」
忘れもしない、両肩に手を置いてきた。
「お前は俺の可愛い部下だから」
「ちょっと、仕事させてください」
今思えばおかしかった。仕事するために我慢をするには酷なことばかりだった。
「原木さん、原木さん、大丈夫ですか!」
羽山の呼びかけに気づいた。
「あ、すみません。大丈夫です、はい」
「これはまだ社内秘密ですので口外しないように。彼はこの調査、処分の内容が決まるまでは出勤停止としています」
「分かりました」
「何かありましたら、いつでもいいので連絡をください」
「はい、失礼します」
顔が青ざめていくのと自分の体から血の気が引いていくのが分かった。
もしかして小野寺さんが私にどこでも付いてきたのは離れないようにするため。笑顔なのは心配かけさせたくないため。最後の会話は引き留めて欲しいけど、それが難しいから精一杯の不安を訴えてた。そしたら、他の黙って辞めていった社員もそうだったの?
そう思うと目の前に、おどおどしい黒い
「原木さん、最近変だよね。よく一人でいるし避けてるし。元々人付き合いが苦手なんじゃない? あんま笑わなくなったし」
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