第15話 終わりの後

 水族館の帰りは、いつもの帰りと違っていた。この関係が友達なのかよく分かっていなかったけど、あの魚はどうだったとか、カフェでお茶して時が過ぎるのはあっという間だった。帰り道に立ち止まって、のぼちゃんがポケットを探った。


「はい、これあげる」

「あれ、これ小さい魚、私何も買ってない」

「いいよ、今日付き合ってくれたお礼」

似ていると言っていた小さな魚のキーホルダーだった。

「ありがとう、大切にするね」

人から物を貰ったことがなかったので反応が分からなったけど少し恥ずかしかった。


「佐藤、今日水族館にいた女性だけど変な事言ってなかった?」

ええ、言いましたとも勝手にライバル視されましたよと言いたかったが飲み込んだ。

「ううん、別に。大丈夫だよ」

「そっか、なら良かった。少し様子が変だったから気になって、後からでもいいから何かあったら言って」

「うん、ありがとう」


「俺、そういうの避けてはいるつもりなんだけど、ここにいてビックリしたから」

でしょうね、私もビックリでした。偶然を装っていましたから。それを言うのは止めておこう、今日の思い出は楽しいままで終わりたい。


「気をつけてな。また連絡するから」

「うん、今日はありがとう。楽しかった」


 別れてから、しみじみと感じた。のぼちゃんの彼女になる人は幸せだよ。だって楽しいもん、きっとこうやって男の人と一緒に出掛けるなんて、この先ないだろうな。今日がずっと終わらなけれと思ったけど終わっちゃった。もう日が落ちて、夜空になっている。


そう思うと胸がギュッとなった。分かってるよ、傷つくからこれ以上期待しないように意識しないでいた。そうしないと終わってからの寂しさ、一人に戻るのは耐えられないから、あの子の言ったことも一理ある。


「赤木君は、優しいから」


優しいから、こうやって誘ってくれて、私を助けてくれる。つい楽しいからそれに甘えているだけなのかもしれない。貰ったばかりの小さな魚のキーホルダを触り呟いた。


「―― 分かっているよ、私には人を思うことも難しいのに。ただ友達でいてくれることも相手はどう思っているのかも分からないや……」


嬉しくて楽しい一日だったはずなのに、終わると思い出に変わって暗い夜空へ星屑ほしくずのように散らばっていく。かけがえのない日が前より多くなっている気がした。あんなに言い合えてた関係だけど、本当に知りたいことはなかなか言えなくて難しいし……やっぱり怖い。


 しばらく、のぼちゃんと会えない日が続いたが、メールを送りあったりした。メールの内容はその日にあったこととか些細なことだった。昼休みにご飯を食べながらメールの内容を考えて確認して送った。


 雲一つない空は心の中と真逆で傷つかないよう事前にシュミレーションをした。保護者かあ、まあそれもそれでいいかもしれない。


のぼちゃんのお姉ちゃんでもいいよね。もし、のぼちゃんが恋をしたら応援しよう。彼女ができたら喜ばなきゃ……、そうなったらまた一人になるのかな、いやそうなっても強くならなきゃ。青い空によしっと気持ちを入れて立ち上がった。


















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