第14話 大きな変化

 あれからあっという間だった。来週の土曜日までカレンダーを見ながら過ごした。駅で十一時。もう何度口にしただろう、忘れないようにした。他のことをしている時も頭の片隅に入れていた。仕事だってちゃんと出来てたのかも分からない。そして調べに調べて洋服も新しいのを買った。そして、その日は来た。


「少し早すぎたか」


時間は十時五十七分、待ち合わせの時間は早すぎてもダメだし、ギリギリでもダメとあった。早めに駅について時間が近づいてきたのを見計らって出てきたのだが早かった。なんか張り切っているように見えるから、柱の隅っこにでも隠れて出てこようかと向かった。


「めぐ!」

振り返ると、のぼちゃんが走ってきた。きょとんとしてしまった。初めて名前で呼ばれたのだ。

「ごめん、電車一本乗り遅れて」

「いや、大丈夫だよ」

見慣れたはずなのに初めて会った人のように感じる。名前、しかも呼び捨て、頭の中でグルグルまわった。ほほが赤くならないか心配になった。


「ご飯食べた? 俺お腹空いてて、先ご飯食ってから行かないか」

「いいよ、どこに行くの?」

「水族館、友達がさ行こうとしてたけど断られたんだって。だからチケットいらないからあげるってもらった」

「そうなんだ、いいね! 水族館」

水族館か良かった、買い物とかよく分からないから。公園とかだったらいいなあと思っていたから、ほっと安心した。その表情を見て楽しそうに話した。


「少し気分転換になるといいなあと思って。いつも俺たち難しいことばっか話しているから、今日はいつもと違う感じで会いたかった」

「うん、いつも人生について熱く語り合っているからね」

「うるせえよ、語ってねえよ」


照れ隠しか横を向いて言った。こんな会話ができて嬉しかった。なんだ遊びに行くってこんな感じでいいんだと初めて知った。


 小さなカフェに入ってご飯食べて話をして、時間なくなっちゃうから早く行こうと慌てて水族館に向かった。家族連れが多かったけど、カップルも来ていた。水族館は来たことがないけど本を見ていたから、実物が見れるからかドキドキした。


水族館の中は少し薄暗くて、クラゲのコーナーをまわった。上を向くと、のぼちゃんの横顔がきれいで、もう少し奥に行こうとするとスペースを空けて、こっちくる?と見せてくれた。色々な魚が悠々と岩の間を泳ぎ、小さなエビがちょこちょことハサミを動かして餌をとっていた。


「あの魚、めぐに似てるな。一匹だけ行ったり来たりしてる」

「そうかな、じゃああの大きい魚は、のぼちゃんだよ」

二人で魚を目で追いかけた。距離は近かったけど意識はしないようにした。


「赤木君?」


次のコーナーに向かうところ呼び掛けられた。黒髪が長くて綺麗な女性だった。

「佐藤? なんでここに」

知り合いかな、女性はじっとこっちを見ながら言った。

「びっくり、こんなところで会うなんて。こちらは? 」

「ああ、えっと原木さん、水族館のチケット近藤からもらって」

「原木です、初めまして」

「そうなんだ、あっ私、赤木君と同じ大学の佐藤っていいます」


その時、のぼちゃんの携帯が鳴った。

「ああ、ごめん。ちょっと待ってて、携帯出てくる」

「うん」


嫌な予感しかしない。綺麗な女性と二人っきり、早く戻ってきて。


「――かっこいいですよね、赤木君。彼、結構モテるんですよ。密かに思っている子もいて。私、赤木君がここのチケット貰っているの聞いて来たんです……」

「なんで、私にそんなこと?」

「赤木君、優しいから、どんな人と来るんだろう思ってたんですけど。安心しました。年上で働いてますよね、その感じは」


す、鋭い。ちゃんとした格好がいいかなと思ったけど、それが裏目に出たか。ライバルに見られてる? サラッと髪を後ろに流してフッと笑った。


「完璧に保護者だったんで良かったです。私達まだ学生なんで」


えっ? 保護者。その時のぼちゃんが戻ってきた。

「悪い、携帯かかってきて」

「じゃあ、赤木君また学校で。失礼します」

そっと袖に触れると長い黒髪を揺らしながら去っていった。

「大丈夫?」

のぼちゃんは心配そうに覗き込んだが、なんとか平静を装った。

「大丈夫だよ、次行こう」


だから、なんなんじゃい。クソガキめ! こっちは社会の荒波を幾度と越えてきたんじゃ。今更、そんな言葉でメソメソするやわな心じゃないわい。やっぱりライバルに見られた? そりゃ、のぼちゃんも悩むわけだ。確実に前の私とは違う私がそこにはいた。































































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