第12話 気持ちを言える相手
沈みゆく夕日に子供達が声を響かせながら走り去っていった。その後を自転車でお母さんが呼び掛けながら追いかける。横並びに歩いて、のぼちゃんが顔を上げて話した。
「俺さあ、昔からよく分からないって言われてんだ」
ちょうど時間が見たかったのと明日は休みか確認したく、鞄から携帯を取り出した。
「よく分からない? 何が」
チラッと携帯を確認すると鞄の中に戻した。遠くを見つめて話を続けた。
「何を考えているんだのか、よく分からないって」
「そういうの、あるよね。私もよく言われるよ。言われると次はもっと言いづらくなるんだよね。その場限りの言葉になってしまう」
「とりあえず、その場をしのごうってなるんだ」
うんうん、分かる分かると頷く。だって、揉めたくないし嫌われたくないんだもん。
「そしてその人との付き合いが面倒になってくるんだ。だから、その場しのぎの付き合いで済ませる。本音が出るところまではいかないんだ」
「そっか、その方が楽な時あるもんね」
「そうするとさ、どうやって自分の本音や感情をその人に対して出し方や加減が分かんなくなって。見えない制約が出てきて、揉めるくらいなら出すの止めようって」
学生でもそういうのあるんだ。大変なんだな、それが円滑に付き合う方法になるのかなと感じた。のぼちゃんも色々と我慢してきたのかもしれない。
「でも初めて携帯に登録した時、分からないから教えてって、最初は冗談かと思ったけど面倒と感じなかった、思ったことを言い合って一緒にやろうってなった」
ああ、思い出したくない新規登録ですね。人生の恥ずかしいトップに入るレベルだった。いいさ大いに笑うがいい、大人になるってそういうこと。
「思ったことを言い合ったうえで進めていくって効率が悪いようで実は大事な事なんじゃないかって。今まで流してたけど、ちゃんと言い合える相手って大事なんだな」
「本来はね言っても言わなくてもいいと思うんだ。関係が壊れる不安もあるから本音が出せなくなる、それもそれでその人との付き合いを大切にしているやり方じゃないかな」
「手を抜いているとは違う? 面倒になってしまうとか」
「もう、こうやって考えている時点で手は抜いていないと思うよ。やり方が違うだけだと思う。こうじゃなきゃダメなのかなって考えると苦しくなって面倒になって、じゃいいやってなるよ、そしたら相手もどうしてって悪循環になっちゃう」
二人とも黙って考え込んでしまった、この沈黙も悪くない。じゃあ、どうしたらいいんだと、こたえを探そうとした。
「のぼちゃんが言う時も言わない時も、どっちでも、のぼちゃんだから良いと思うよ。のぼちゃんが良いなと思えばどっちでもいい」
「それが一番、分かりやすいけど難しんだよな」
私たちは当てのない問題にこたえを出そうとした。結果として自分ができる範囲のベストな方法であれば、それでよしとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます