第11話 悩みの中で

 とても便利な時代だ。分からないことがあれば調べてみればいい。友達がいなければ同じ悩みの情報を参考にすればいい。男性心理、嫌われない女性、男性へプレゼント果ては占いで運気を確認する始末。


何度も調べてはドキドキして落ち込む。携帯を開いては閉じ、開いては閉じるを繰り返し寝不足が続いた。いつの間にか目的がずれていることに気づき、気を取り直す。


そう、まずは助けてもらったお礼の品を探してたんだ。もう一度調べ直す。予算にもよるがレザー小物、ハンカチ、どれもオシャレで目移りする。しかし重いと思われるんじゃないかと気が進まない。まだ一度しか会っていないが、あれやこれやと余計な事を考えてしまう。


 仕事のように人との付き合い方もマニュアルがあればいいのにと思ってしまう。失敗して嫌われるのが怖くて、最初からマニュアルがあれば多少のリスクは回避できるんじゃないかなんて、つまらないかなそう思うと自然の成り立ちに改めてすごいなと感じる。マニュアルはなくても、季節が来ると各々の役目を果たす。ここでの役目って何だろう。もう考えるのは止めよう、ただ辛くなるだけだ。


 初めて出会ったベンチへ同じ時間帯に、もう一度行ってみた。電話をかけて待ち合わせしてもいいのだけれど、初めてかける勇気など持てず偶然を装って会いたかった。会いたいけど、やっぱり恥ずかしい。ベンチに掛けて、しばらく待つ日が3日ほど続いた。


「あれ? 何してんの」

くるっと振り返ると、待ち続けたその人が立っていた。少し驚いた様子で近づいてくる。

「えっあっ、たまたま、ここに来て」

「誰か探してるのか? さっきからキョロキョロして」


あなただよ!危うく、声が出そうになった。高鳴る鼓動を抑え平静を装うそんな日がくるとは想像できなかった。


「あ、そうだ。今度会ったときにお礼をしなきゃと思っていたんだ。時間ちょっと大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ。いいよ別にお礼なんか気を遣わなくても」

あれ、もしかして私ちょっと考えすぎてた? どうしようかなとモジモジしていると、

「あれから大丈夫かなと思っていたけど、元気そうでよかった。あのあとギターを弾くとき思い出して練習している」

思っててくれたんだ、少し嬉しくなった。よし、渡そう。


「あ、あのこれ、この間借りていたタオルとお礼の気持ち。良かったら受け取って」

ふわふわのタオルと包装された小さな箱を渡した。タオルのふわふわは洗ったときにペチャンコにならないか心配だったが、乾かすと元の状態になった。


「え、なに? 開けていい? 」

「えっと今は恥ずかしいから帰ってから開けて。大丈夫、びっくり箱とかじゃないから。うん、うん」

一瞬、いぶかしげな顔をしたが大切にリュックの中にしまった。

「ありがとう、タオルとかあの時そのまま返してくれればよかったのに」

「ダメだよ、私の一生分の涙が浸み込んでいるんだから」

お互いに笑いあった。人と話して笑うのってこんなに嬉しいんだ。


「そうだ、また聴いてもらっていい? 」

「いいよ何回でも聴くよ」


ギターを抱えて調整し始めた。あの日のように夕日の光が横顔が照らし、風が前髪を揺らした。この時がずっと続けばいいのにと思った。


弦の弾く音が優しく包み込んだ。この世界には二人しかいないんじゃないかって思うくらい引き込まれてしまった。一つ一つの音が全てを掴んで離さなかった。感じる余裕はなくて目の前に流れる音を聴き洩らしたくなくて、身動きが取れなかった。


「どうかな」


演奏は既に終わっていた。はっと我に返るとじっとこちらを見つめている瞳に釘付けになった。


「のぼちゃん、あ、のぼちゃんって呼んでいい? 」

「いいよ、この前二人で決めた」

「あのね、すごいよかったよ。それ以外何も考えられなかった。前は聴きながら考えてたんだ。何て言おうかなとか。でも、今はそれさえも考えさせてくれない。ただ目の前で聴いていたかった」

「そっか、よかった」


安堵したのか笑顔になった。

「気持ちを音に添えるって意識して弾いてた。今まで気持ちを取り残していたことに気づいて、ひたすら弾く練習だけしてたから」

「そうだったんだね」

少しでも友達に近づいたかな、お互いに悩みを抱えてて調べても解決できないことも沢山あってもどかしい。それでも笑顔になった時に傍にいてくれるって大切なんだね。











 












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