第8話 夕日に包まれて
窓の外はまだ明るかった。足早に帰る人達なのか駅の入り口に吸い込まれていく。西日が今日の終わりを告げているかのように静かに街を照らしていた。
腫れたまぶたに風が触れて心地よかった。少し川辺を散歩して帰ることにした。
改めて何を話していいか分からず、目をキョロキョロさせた。
「これ、ギター? 」
つい、目にはいったギターを聞いてしまった。
「ああ、これ、うん。サークル」
サークル? クラブ活動か、なんかかな。丸ではないな。自分の中で解決させた。
「へぇ、弾けるの? 」
「聴く? あんま上手くないけど 」
「うん、聴く! 」
また、ペンキの剥がれかけたベンチに戻り腰掛けた。数時間前とは違う。沈みゆく夕日とそよ風を背景にギターを抱え調整し始めた。自然と前のめりになるのを抑えつつ、ドキドキしてきた。
どうしよう…、まったく響かない…。
冷や汗がたらりと流れた。
闇モードを通常モードに戻したはず、私の琴線は一体どこにあるんだっけ。
彼の演奏は下手ではない上手いと思う。優しく繰り出す弦の音は次から次へと弾きながら紡いでいく。ノスタルジックには完璧な状況で、それを頭から指の先まで感じようと構えていた。乾いて枯れた感じ、なにかが足りない抑揚かな? いや、まず集中して聴こう。
そうこうしているうちに演奏が終わってしまった。
「すごい、すごいよ。初めて生演奏っていうの聴いた」
彼は、ふぅと軽く息をつくと
「つまんないだろ」
と呟いた。まずい図星、バレた。顔に出てたと慌てて頬っぺたに両手をあてた。
「いや、いいんだ。俺の演奏パッとしないから」
そんなに出てた? 再度、必死に闇を追い払った。あっち行けっと。
「言われたんだ、音に色がないって。音って聴くものじゃん。何だよ色って見えねえし」
音色のことかな。多分、見える色じゃなくて音程とかのような。ツッコんではいけないようなので、そこはスルーした。
でも、なんか言わなきゃ音楽は聴く専門だから分からないけど。
人生の少し先輩として、そんな人様に言える助言なんてあったっけ。
「難しいよね、音に色とか。音楽をやっている人達は皆通る道なのかな。昔おばあちゃんと話したことがあって」
あっ、おばあちゃん、さっきの怒りの感情で少し躊躇したが続けた。民謡がとても好きだった。昔は踊りも楽器の音も祭りやお祝い事でしか聴けなかったと。
「歌や音楽の詳しいことは分からないけど、いつでも傍にいてくれたって。
悲しみや苦しみを喜びや優しさに変えてくれる。人が人に言葉だけでも行き違いがあるのにそれに音を添えて伝えることは大変でしょ。だから好きな歌に出会えたら大切にしなさいって」
私は、この言葉の意味がよく分からなかった。音楽は趣味で聞く感覚が、おばあちゃんにとっては生きることの一部になっている。
「多分、簡単にはできないから、気持ちを音に添えて伝えるで考えてみてはどうかな」
「気持ちを音に添えて、伝える
「うん、まあそんな感じ」
彼の表情を探ってみたがきっとピンと来てない、私はもっと来てない。沈みゆく夕日と薄い夜空のぼやけた境目に三日月が光っていた。
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