第5話 責任という名の虚無感

外の風が気持ちいい。お昼休み、空を見上げて呟く。

「おばあちゃん、頑張っているよ。今日はね、うん、今日はね大変だったよ。」

疲れているのか、言葉が出てこない。一人は、やっぱり楽だな。

音楽でも聴こうか。


「おばあちゃん、ずっと元気で長生きしてね。絶対だよ、約束だよ。」

「もちろんだよ、ずっとずっと長生きするからね。」

何度も何度も、その約束を確認して抱きしめて、安心していた。

子供心に健気に、その当たり前がずっと続くと思っていた。それ以外に想像はできなかった。約束したんだけどなあ。分かっている、それが叶わなかったこと。

「私が結婚して、子供ができて、孫ができるまでだよ。」

「うん、もちろん。楽しみだねえ。」


おばあちゃん、なかなか上手くいかないものです。結婚どころか、恋人もおらず。

周りから避けて逃げて、殻に閉じこもっています。

頑張ってきたけど、やっぱり疲れるなあ。これを見たら、おばあちゃん悲しむかな。

おばあちゃん、会いたいし、もう一度喋りたいなと、顔を上げて呟いた。

あれから何十年経っても、今だけあの頃の子供で。


現実は、厳しい。大人だもの、分かっている。おばあちゃんが付いている。

そう、言い聞かせた。そう、それで乗り越えるしかないんだ。


「お前、全然、教えてないじゃないか!何人もお前から教わった奴は、配置するとすぐ辞めていく。甘やかしているから、実際、何もできなくて辞めてしまうんだぞ。」

「原木さんじゃ、もう力不足なんじゃないですか。」

課長と松永が、別室で小野寺さんが辞めさせてほしいと言ってきたこと

その責任は教えた者にあると、怒鳴ってきた。

「私の時もそうでした、マニュアルを渡して丸投げ。本当、可哀そう。」

「小野寺は、だんまりしてたが、あの態度じゃあ、お前が何か吹き込んだのか。」

「仕事のことしか、教えてません。」

精一杯の返事だった。返ってくる言葉は、いつも決まっている。

「自分の都合の良いように新人を教えて、味方になってもらおうとしているのか

知らないが、これは仕事だからな。お前が殻に閉じこもって、人と仕事をしないことを通用すると思うなよ。」

「周りが、どれだけ迷惑していると思っているの。」

「せっかく仕事やっても、これじゃあな。もう、お前には無理か。」

大丈夫、何度その言葉を投げつけられてきたか。心を無にして、時が過ぎるのを

ただただ願った。






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